自覚症状のない肝機能障害 コロナ禍で増えた脂肪肝

 人の最大の臓器である肝臓は多数の肝細胞で構成されており、食事で摂取した栄養素をエネルギー源に合成・貯蔵する代謝、血中の有害物質の分解、消化液である胆汁の合成という体内の化学工場の役割を担っています。しかし肝細胞は壊れてもすぐに再生できるため、自覚症状は出にくく痛みもありません。肝臓は「沈黙の巨人」なのです。

 慢性肝臓病ではB型またはC型のウイルス性肝炎が有名です。日本では推定3~400万人が感染し、多くの肝硬変や肝臓がんの原因でした。しかし近年、内服薬で比較的簡単に治療できるようになり、患者さんは減少してきています。

 一方でコロナ禍による引きこもりや運動不足による体重増加により、自覚症状がない肝機能障害という脂肪肝が増えています。脂肪肝は肝細胞の中に30%以上中性脂肪がたまった状態であり、飲酒や生活習慣に原因があるといわれています。

 最近、飲酒習慣のない非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が非常に増加(推定1500万人)しています。そのNAFLDの中で、肝臓にたまった中性脂肪が燃焼して有害な活性酸素を過剰発生し肝細胞が壊される状態を非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とよび、肝臓の炎症が慢性的に持続して肝硬変や肝がんに進展することがわかりました。NASHの患者数は急速に増加(推定約200万人)していますが治療法は確立していません。

 脂肪肝の予防は日常生活で肝機能を低下させないことが大切です。飲酒習慣がある人は連続して週2日飲酒をしない「休肝日」を作るとよいでしょう。食事の欧米化による胃や腸の内臓に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」もシニアの男性に増えていますが、食事療法が効果的です。①甘いものを避ける②間食をやめる③寝る前2時間は食べない、という3つのことに気をつけ1日3回規則正しい食事を心がけましょう。有酸素運動と筋肉トレーニングも有効です。糖尿病や高脂血症など生活習慣病が併発している場合もありますので、かかりつけ医師がいる人は健康診断の結果について相談するとよいでしょう。


おだ内科クリニック 院長 小田 俊一 先生


取材記事:ぐらんざ