血液の流れが悪くなる高齢者に多い心不全

 新型コロナにより多くの人々がパンデミックという言葉を知りました。重症感染症の世界的な流行に対して使われ「コロナパンデミック」とも言われます。そもそも心不全は感染症ではありませんが「心不全パンデミック」が今や医学界では懸念されています。

 超高齢化社会に入った日本では、2020年段階で心不全の患者数は120万人でしたが、2030年には130万人に増加すると考えられています。心不全は、あらゆる心疾患(高血圧、不整脈、心筋症、心臓弁膜症、心筋梗塞など)の進行により発症し、一度良くなっても再び悪化して最後は死に至ることもあります。こうした悪化を繰り返すと入院が急増し、医療体制が追いつかなくなるのが心不全パンデミックなのです。

 心不全は、心臓のポンプ機能の低下に伴い体内の血液の流れが悪くなることで発症します。体全体に水が溜まりやすくなり「浮腫」や「息切れ」が生じます。

 その心不全の〝芽〟をいち早く摘み取るためには、早期に発見し治療を開始することが大切です。動悸や息切れ、胸の痛みがあるようならまず医師に診てもらう必要があります。

 多くの人々が「年のせいかな?」と放置しがちですが、実は心不全が原因だったということも多いのです。

 最近では心不全に対して有効な薬が次々に開発されていますが、一方でもう一つ大事な治療が心臓リハビリテーション(運動療法)です。全身の心肺機能を高めると健康寿命が延びることがこれまでの研究によって明らかにされています。私のクリニックでもエアロバイクを用いた「有酸素運動」や一種の筋トレである「レジスタンス運動」を取り入れていますが、こうした治療により多くの患者さんにおいて自覚症状が改善し、普段と変わらない日常生活を取り戻されています。またこの結果入院が減ることで、地域にも貢献できればと考えております。

 心不全は進行度が4段階ありますが、最も軽度なステージAには糖尿病や高血圧が入っています。これらの病気を甘く見ず、息切れなどの症状が出る前に、早めに医師に相談してください。


金谷内科クリニック 院長 金谷 英樹 先生


取材記事:ぐらんざ