医療情報室レポート No.259 特集:新型コロナウイルス感染症への対応~その16~

2023年5月26日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:新型コロナウイルス感染症への対応~その16~

 令和5年5月8日、新型コロナウイルス感染症は新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象疾患ではなくなり、感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類」へ移行した。オミクロン株は従来株よりも重症化率が低く、オミクロン株対応ワクチン接種の普及もあり、約3年3ヵ月に亘った新型コロナへの対応は「有事」から「平時」へと切り替わり、本格的なウィズコロナ時代に突入した。
 世界保健機関(WHO)は5月5日に「緊急事態宣言」の終了を発表、世界的にもコロナ対策は緩和が進み、国内においても感染対策は個人や事業者の判断に委ねられている。
 国内で感染者が初確認された令和2年1月以降、計8回の感染流行の波が発生し、政府による「緊急事態宣言」は繰り返し発令され、この新興感染性による感染者は約3,300万人と国民の4人に1人が感染し、死者は約7万4,000人にも上っている。
 発生当初、医療現場では未知の感染症に対して試行錯誤しながらその対応にあたり、我々地域医師会としては行政と連携を図りながら、検査体制やワクチン接種体制の構築、医療提供体制の整備などに取り組んできた。
 今回は、本会のこれまでの新型コロナ対策を振り返り、5類移行後の対応や今後の感染動向および対策等、そして今後起こりうる新興感染症への備えとして特集する。

●福岡市医師会のこれまでの新型コロナウイルス感染症対策

 令和2年1月以降、本会が取り組んだ新型コロナ対策および新型コロナを巡る主な出来事について次のとおりまとめた。

  福岡市医師会の取組み 新型コロナウイルスを巡る主な出来事
令和2年(2020)
1月  
  • 国内で感染者が初確認
2月  
  • 福岡市で感染者が初確認
4月  
  • 福岡を含む7都府県に「緊急事態宣言」を発表
    その後、対象を全国に拡大
    【第1波】
5月
  • ドライブスルー方式のPCR検査センターとして「福岡市医師会診療所」を開設
 
6月
  • 「福岡市医師会診療所」のサテライトを市内3か所(東・南・城南)に設置
  • 新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」リリース
7月
  • 「第1回新型コロナウイルス感染症対策委員会」を開催
  • 米ファイザーと新型コロナワクチン供給で合意
8月  
  • 全国で1日最多1,595人の感染者
    【第2波】
9月
  • 登録医療機関での「PCR検査等を可能とする集合契約」を福岡市と締結
  • 「定例記者会見」を初開催し、対策委員会等設置や感染症指定医療機関の実際などを報告
 
10月
  • 「診療・検査医療機関」の登録募集開始
  • 新型コロナウイルス感染症対策「今冬の診療所等における外来診療ガイドライン」を作成
  • 「妊婦への新型コロナウイルス感染症PCR検査費用助成事業」を開始
 
11月
  • 「出張PCRセンター」の運営開始
 
12月
  • 「福岡市医師会診療所」のサテライトを天神に設置
  • 「医療施設従業者へのPCR検査事業」開始
  • 市急患診療センターにて発熱患者の外来診療体制を整備
  • 新型コロナワクチンの接種無料化を柱とする改正予防接種法が成立
令和3年(2021)
1月
  • 「高齢者の新型コロナウイルスに係るPCR検査事業」開始
  • 1都3県に2度目の「緊急事態宣言」を発表
    その後、福岡を含む7府県に対象を拡大
    【第3波】
2月
  • 「福岡市医師会診療所」のサテライトを天神北地区に設置
  • 医療従事者向けにワクチン先行接種開始
3月
  • 「新型コロナワクチン予防接種実施説明会」をLive配信で開催(会場参加114名、Web参加2,493名)
 
4月
  • 新型コロナワクチンの「トライアル接種」実施(個別接種:クリニック約140医療機関 他)
    「ボスミン注1mg」「携帯酸素ボンベ」を希望の登録医療機関に配付
  • 3度目の「緊急事態宣言」を4都府県に発表
    その後、福岡を含む6道県に対象を拡大
    【第4波】
5月
  • 新型コロナワクチンの個別接種開始(個別接種:クリニック約780医療機関 他)
    ※1、2回目のワクチン接種率は政令指定都市で首位
  • 集団接種会場(マリンメッセ福岡B館)への医師派遣開始
  • 市医看護学校、近隣2校と連名で福岡市長へワクチン集団接種に関する提案書を手交、集団接種会場に看護教員派遣(6月~10月)
  • 自衛隊がワクチンの大規模接種センターを東京と大阪に開設
6月
  • 順次開設の集団接種会場(市内7区の公共施設等、中央ふ頭クルーズセンター)にも医師派遣実施
  • ワクチンの職域接種開始
7月
  • 福岡地区小児科医会と連名で小児への新型コロナワクチンに関する要望書を福岡市に提出
  • ワクチン接種、高齢者の約7割で2回接種完了
8月
  • 自宅療養者への診療開始(市内約300医療機関)
  • 12~15歳の新型コロナワクチン接種実施登録医療機関を募集し、小児の個別接種体制を構築
  • デルタ株猛威、1日の感染者が初の2万5,000人超
    【第5波】
令和4年(2022)
2月
  • 「自宅療養の重要ポイント」を作成し、本会一般向けホームページに公開
  • オミクロン株猛威、1日の感染者が初の10万人超
    【第6波】
6月
  • 福岡市医師会診療所および4か所のサテライトを湾岸サテライト1か所に集約
 
8月  
  • オミクロン株派生型(BA.5)猛威、1日の感染者が初の26万人超
    【第7波】
9月  
  • 「全数届出の見直し」を全国一律で開始
令和5年(2023)
1月  
  • 新型コロナによる月間死者数が初の1万人超
    【第8波】
3月  
  • マスク着用は個人判断を基本とする方針が決定
4月
  • 「5類移行後の外来診療に関する調査」を実施し、外来対応医療機関における好事例集等を公表
 
5月  
  • 感染症法上の位置付けが「2類相当」から「5類」に移行

※各種報道発表資料等をもとに作成

●「5類」移行後の対応

 「5類」移行に伴い、医療提供体制は限られた医療機関から「幅広い医療機関」での対応に徐々に移行する。医療機関で行う検査の公費負担は終了して患者の自己負担となり、時限的・特例的に認められていた電話や情報通信機器を用いた診療等の取扱いは7月末で終了するなど診療報酬の特例措置も段階的に縮小される。
※その他の診療報酬上の臨時的な取扱い等については厚生労働省ホームページ参照。
( URL:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001092143.pdf
 行政が行っていた「入院調整」は医療機関同士の調整に移行、「宿泊療養」も原則終了となる。(各地域の実情に応じて、一定期間「入院調整」や「宿泊療養」の仕組みを継続させる自治体もある。)
 ワクチン接種については、令和6年3月末までは無料接種が継続され、令和5年5月8日から65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人、医療従事者や介護従事者などを対象とした接種が開始されている。(令和5年9月以降、5歳以上の全ての人を対象とした接種が実施予定)

<福岡市における新型コロナの5類移行後の対応について>
項目 5類移行前
(R5.5.7まで)
5類移行後
(R5.5.8から)
備考
医療提供体制 外来診療 届出医療機関 幅広い医療機関 「ふくおか発熱外来検索サイト」(※1)で検索可能
発生届 あり
(高齢者等)
なし
(定点報告へ移行)
「福岡市感染症発生報告数(定点報告)」(※2)で週1回公表
検査費用 公費負担 自己負担あり PCR検査約2,100円、抗原検査約1,600円(自己負担割合3割の場合)
治療薬費用 公費負担 公費負担
※9月末まで継続
9月以降の自己負担額は約3万2,000円(自己負担割合3割の場合)
入院費用 公費負担 自己負担あり 高額療養費制度の自己負担分の一部(上限2万円)を補助
入院調整 保健所が調整 医療機関の間で調整 病院同士や病院と診療所の間で調整
ワクチン接種 公費負担 公費負担
※R5年度は継続
個別接種は市内約800か所、集団接種は市内3か所で実施
行政 外出自粛要請 あり なし 発症後5日かつ症状軽快から24時間経過までは外出を控え、その後も10日経過まではマスク着用、ハイリスク者との接触は控えるよう推奨
相談ダイヤル あり あり
※9月末まで継続
「福岡市新型コロナウイルス感染症相談ダイヤル(受診・相談センター)」[24時間対応]TEL:050-3665-7980 または 050-3629-0353
宿泊療養 あり なし 県内10か所は順次閉鎖(3月末に2か所、4月末に5か所、5月8日に3か所)
陽性患者の移送 あり なし 透析治療に係る通院時、公共交通機関等の利用が困難な場合のみ継続
濃厚接触者の特定・健康観察・療養証明書 あり なし 保健所による濃厚接触者の特定や健康観察等は終了

※1「ふくおか発熱外来検索サイト」
https://covid19-kiks.pref.fukuoka.lg.jp/

※2「福岡市感染症発生報告数(定点報告)」 https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/hokenyobo/health/kansenjyoho/teiten/teitenhoukoku.html

●今後の感染動向および対策

項目 内容
感染動向 5類移行後もコロナウイルスは変異を重ねて感染力が強まっていく可能性がある。
症状が軽い若年層や時間の経過とともに抗体価が急速に低下する高齢者で感染拡大する恐れがあり、医療機関や高齢者施設でのクラスター発生の増加に繋がることが考えられる。
今後の対策 ワクチン接種や感染予防行動の徹底により、高齢者等重症化リスクの高い方を守りながら通常医療の提供体制の確保が必要で、保健医療提供体制の強化や重点化に引き続き取り組むことが求められる。
そのために特定の医療機関だけではなく、できるだけ多くの医療機関で診療や入院可能な体制整備が必要。
福岡市医師会の取組み
  • 発熱外来体制の強化を図るため、会員医療機関に対し「5類移行後の外来診療に関する調査」を行い、コロナ外来に対応している医療機関のノウハウを収集し「好事例集」としてとりまとめ、発熱外来の新規参画を検討する医療機関向けに情報発信を行った。
    調査結果は既に発熱外来対応中の医療機関にとっても、自院の体制強化を図るうえで有用な情報となっており、市内の「外来対応医療機関」(5類移行前は「診療・検査医療機関」)は約650医療機関となっている。(令和5年5月24日時点)
  • 治療薬の使用方法を中心に、症状のパターンや入院適応の判断等、診療所におけるコロナ外来の基本的な対応方法を解説した「対応力強化WEBセミナー」をオンデマンド配信で開催。(本会会員専用ページに動画を掲載)
罹患後症状
(後遺症)
感染前のワクチン接種がその後の後遺症リスクを減少させる可能性が海外の研究結果等で示されており、また、新型コロナウイルス経口薬「ゾコーバ」について、後遺症リスクを45%低減することが発表(塩野義製薬:令和5年2月22日)されている。
社会生活に影響を及ぼす後遺症に関して、今後、症状改善が進むことが期待される。

医療情報室の目

★ウィズコロナ時代の医療提供体制構築と維持

 昨年以降、主流となっている新型コロナウイルスのオミクロン株は過去に流行した変異株に比べて重症化リスクの低下が指摘されていること等から、感染症法の位置づけが「5類」に変わり、長期間続いた新型コロナへの対応は大きな転換点を迎えた。しかし、インフルエンザと同じ扱いの「5類」へ分類されたとは言え、新型コロナとインフルエンザは全く異なる疾患であり、コロナウイルス自体が消失したわけではないため、今後も新型コロナの特性に応じた対策が求められる。
 感染動向については、従来の全数把握からインフルエンザと同じ、全国約5,000医療機関の「定点把握」で週1回の集計となるため、今までのような感染状況の把握は困難となり、潜在的に感染が広がる可能性がある。今後は今まで以上に感染拡大の兆候をいち早く捉え、大規模な感染拡大の波に至らないよう対応することが益々重要になってくる。
 「5類」移行に伴い、政府は幅広い医療機関で発熱患者が受診可能な体制構築を目指しているが、新たに患者を受け入れる医療機関では、院内の感染対策を講じながら、通常疾患の患者の診療との両立を模索している。また、発熱患者に対して保健所や自治体が対応してきた体制は終わり、重症者や急変時の入院調整は医療機関同士が実施することになり、医療連携の点においても医療現場がコロナ対策に負担を強いられる状況に変わりはなく、コロナ前のような円滑な地域医療の連携が図れるものか憂慮している。
 新型コロナの医療提供体制を維持するために設けられていた診療報酬の特例措置は段階的に縮小される方向で、医療費の自己負担増で患者の受診控えが起こることや、公費補助の削減で今までコロナ対応をしてきた病院が診療から退く可能性もある。ウィズコロナ時代の医療提供体制の構築と維持のために、政府には丁寧な議論を積み重ねて、診療報酬や公費補助による体制の維持継続の支援を求めたい。

編集
福岡市医師会:担当理事 牟田 浩実(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)