医療情報室レポート No.254 特集 :令和4年度診療報酬改定を振り返る

2022年9月30日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510

特集 : 令和4年度診療報酬改定を振り返る

 令和4年4月、2年に一度の診療報酬改定が行われた。今改定では「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも対応できる医療提供体制の整備」が重点課題として掲げられており、今改定以前に行われていた時限的・特例的な経過措置等について見直しや整備がなされ、新型コロナに対する医療提供体制の充実等が図られている。
 もう一つの重点課題としては「医師等の働き方改革」があり、時間外労働の上限規制が適用開始される令和6年4月に向け、医師や看護職の負担軽減や勤務環境の改善など、従前からの内容を更に推し進める見直しが行われた。
 国民皆保険制度が導入されている我が国において、保険医療機関の収入となる診療報酬は医師を始めとする全ての医療従事者に関係するため、改定された変更内容を十分に把握する必要がある。しかしながら、改定の度に診療報酬体系は多様で難解な仕組みとなり、各医療現場においては自院に関連する項目の算定に求められる基準や解釈に翻弄されながら対応するような状況が続いている。
 今回は、令和4年度診療報酬改定の全体像を振り返り、複雑化する診療報酬改定が今後どのような方向性を目指しているのかを考えてみる。

●令和4年度診療報酬改定の改定率

 令和4年度診療報酬改定の改定率は、医師の技術料や人件費に当たる「診療報酬本体」+0.43%、薬の公定価格である「薬価等」-1.37%となり、「診療報酬本体」「薬価等」を差し引きすると全体では-0.94%で、4期連続のマイナス改定となった。
 「診療報酬本体」看護師の処遇改善不妊治療の保険適用に財源が割り振りされる一方、繰り返し利用できる「リフィル処方箋」の導入等による財源抑制で、「診療報酬本体」の改定率は+0.23%であるが、実質的にはマイナス改定である。

●感染症に対する医療提供体制の構築

○地域での連携体制を強化
 新型コロナウイルス感染症への対応で明らかとなった医療提供体制の課題を解決するため、入院では従来の感染防止対策加算を「感染対策向上加算」に再編、診療所に対しては「外来感染対策向上加算」が新設された。
 新興感染症等の発生時には地域において迅速に医療提供体制が構築できるよう、平時から医療機関や行政、地域医師会の密な連携が求められている。

<感染対策向上加算・外来感染対策向上加算の概要>

対象 病院 診療所
項目 感染対策向上加算1 感染対策向上加算2 感染対策向上加算3 外来感染対策向上加算
点数 710点(入院初日) 175点(入院初日) 75点(入院初日+90日超毎に1回) 6点(外来診療にて月1回)
人員配置 一定の経験を有した専任の常勤 医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師 一定の経験または研修を修了した専任の常勤医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師 専任の常勤医師、看護師 (研修修了が望ましい) 院内感染管理者(医師、看護師、薬剤師、その他の医療有資格者)を配置
医療機関・行政等との連携 保健所、地域の医師会と連携し、加算2または3の医療機関と合同で年4回以上カンファレンスを実施 年4回以上、加算1の医療機関が主催するカンファレンスに参加(必須) 年2回以上、加算1の医療機関または地域の医師会が主催するカンファレンスに参加(必須)
新興感染症発生時の診療体制 感染症患者を受入 感染症患者または疑い患者を受入 感染症患者または疑い患者を受入もしくは発熱患者の診療等を実施 発熱患者の診療等を実施
指導・報告 感染制御チームの専従医師または看護師が過去1年間に4回以上、加算2、3または外来感染対策向上加算の医療機関に赴き院内感染対策等に関する助言を行った場合 加算1を算定する保険医療機関に対し、年4回以上、感染症の発生状況や抗菌薬の使用状況等について報告を行っている場合
指導強化加算として30点を算定 連携強化加算として30点を算定 連携強化加算として3点を算定
サーベイランスへの参加 必須 サーベイランス強化加算として5点を算定 サーベイランス強化加算として1点を算定

※厚生労働省ホームページをもとに作成

○福岡市医師会の取組み
 診療所が「外来感染対策向上加算(6点)」と併せて「連携強化加算(3点)」を算定する場合、「感染対策向上加算1」医療機関との連携が必須となるため、本会では連携先が未定の診療所を対象としたマッチングを実施している。(本会会員専用サイトにて運用)
 また、「感染対策向上加算1・2・3」ならびに「外来感染対策向上加算」の算定要件となるカンファレンスについて、本会では「感染対策向上加算1」医療機関と共催で、10月31日(月)に第1回目となる合同カンファレンスを開催予定。

●医療分野における政策案件

 診療報酬改定の流れとしては、①政府が診療報酬全体の改定率を決定②厚労省の「社会保障審議会(医療保険部会・医療部会)」で改定の基本方針を策定③改定率や基本方針を受け、厚労省の「中央社会保険医療協議会(中医協)」で改定の具体的な中身を審議となる。
 中医協は公益委員診療側委員支払側委員の三者構成であり、それぞれの立場から診療報酬上の制度設計に関する議論を重ねてきたが、近年、医療政策色の濃い内容については中医協以外のところで一定の方向性が示される傾向があり、今改定では前述のとおり改定率決定の際にあらかじめ使途が決められた予算および内容が多くを占めている。
 医療分野における政策案件による主な改定内容は以下のとおりだが、「リフィル処方箋の導入」に関しては中医協での十分な議論を経ず、厚生労働相と財務相の大臣折衝で突然導入が決定した。中医協の軽視に繋がるような状況が今後も続けば、中医協自体の形骸化が懸念される。

項目 リフィル処方箋の導入 オンライン診療の初診解禁 不妊治療の保険適用
概要 一定期間内に処方箋を反復利用できる「リフィル処方箋」を導入(上限3回まで)
※医師がリフィル処方可能と判断した場合、処方箋の「リフィル可」欄にレ点を記入
従前のオンライン診療料を廃止し、初診料、再診料等の中に「情報通信機器を用いた場合」として新たな点数を設定
(初診料251点、再診料・外来診療料73点)
・一般不妊治療管理料(250点)
・人工授精(1,820点)
・生殖補助医療管理料(300点、250点) など
不妊治療に関して10以上の点数が新設
導入経緯 令和3年12月22日の厚労相と財務相の大臣折衝で合意(約470億円の医療費削減と試算) 令和2年4月から時限的・特例的として初診からの実施を解禁、令和3年6月18日の規制改革実施計画で恒久化が閣議決定 菅前首相が自民党総裁選時に少子化対策の一環として保険適用を表明

●令和4年10月からの改定内容

①マイナ保険証利用、制度の見直し
 本年4月の診療報酬改定にて、マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)に対応した医療機関に対する診療報酬として「電子的保健医療情報活用加算」が新設されたが、マイナ保険証利用により逆に患者の窓口負担が引き上がることへの批判の声が相次いだことから、厚労省は制度の見直しを行った。
 本年10月からは「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」として内容を改め、マイナ保険証利用の際の窓口負担を引き下げる一方、従来の保険証を利用した場合は窓口負担を引き上げる仕組みに変更され、朝令暮改ともいえる改定である。

○「オンライン資格確認システム」の導入義務化
 マイナ保険証利用による「オンライン資格確認システム」について、政府の「骨太の方針2022」(令和4年6月7日)に令和5年4月から医療機関に対する導入義務化が明記された。
 その為、保険医療機関が遵守すべき「保険医療機関及び保険医療養担当規則」が改正され、本件が明記されることにより、各医療機関では保険診療継続のため、次年度を迎えるまでにシステム導入が必要となっている。

<マイナ保険証を利用した場合の医療機関の診療報酬>

項目 電子的保健医療情報活用加算
(令和4年9月30日まで)
医療情報・システム基盤整備体制充実加算
(令和4年10月1日より)
マイナ保険証を利用 初診 7点 2点
再診 4点
従来の保険証 初診 3点 4点
対象患者 オンライン資格確認システム(マイナンバーカードの健康保険証利用)を活用する医療機関を受診
医療機関の施設基準 ・レセプトのオンライン請求を行っている
・次の事項を医療機関内やホームページ等で掲示
 ①オンライン資格確認を行う体制を有すること
 ②患者に対し、薬剤情報や特定健診情報、その他必要な情報を取得・活用して診療を行うこと

※厚生労働省ホームページをもとに作成

②看護職員の処遇改善
 政府は地域で新型コロナに対応する看護職員の収入を1%程度引き上げる「看護職員等処遇改善補助金事業」を令和4年2月から9月の間で実施しているが、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日)により、本年10月以降は従前の補助金ではなく診療報酬で対応し、看護職員等の収入を3%程度引き上げることが政府方針で決まっている。
 10月からは165通りに細分化された「看護職員処遇改善評価料」が新設され、算定する場合は算定額に相当する賃金の改善を求められると同時に、安定的な賃金改善を確保する観点から、賃金改善の合計額の3分の2以上は、基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げに充当することが求められている。

<「看護職員処遇改善評価料」の概要>

点数 評価料1(1点)~評価料165(340点) ※区分は以下の式から算出
(評価料1~145までは1点刻み、評価料146以降は5~10点刻み)
区分要件 看護職員等の賃上げ必要額(当該保険医療機関の看護職員等の数×12,000 円×1.165)÷当該保険医療機関の延べ入院患者数×10 円
対象医療機関 次のいずれかに該当する医療機関
 ・救急医療管理加算の届出を行っており、救急搬送件数が年間で200件以上
 ・救命救急センター、高度救命救急センター等を設置
対象職種 ・看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)
・医療機関の判断で看護補助者・理学療法士・作業療法士等のコメディカルの賃金に充てることが可能

※厚生労働省ホームページをもとに作成

医療情報室の目

診療報酬の簡素化と決定プロセスの透明化

 今回特集した診療報酬改定については全体のごく一部の内容であり、その他にも入院医療や勤務医の働き方改革など改定内容は多岐にわたり、膨大な量となっている。診療報酬の内容や各種規定が記載された刊行物「令和4年4月版 医科点数表の解釈」は約2,000ページにも及ぶ厚みで、2年前に刊行された前回改定時の約1,800ページを超える分量となっている。改定の度に同解釈の厚みは増し続け、診療報酬体系は複雑化するばかりで、コロナ禍や少子高齢化を受け、社会全体の働き方の見直しや業務の効率化が進められる時代を迎えている中で、医療現場には非常に煩雑な手続きや負担が求められており、医療業界は社会の潮流に反する流れにあると言えるだろう。
 近年、政府は医療の質向上を主張しながらも、利便性を第一にした医療政策を推し進め、その方向に医療機関を誘導するための診療報酬改定を行う筋が見受けられる。「リフィル処方箋の導入」や「オンライン診療の初診解禁」は中医協での協議前に方向性が決まっていたが、本来、保険適用する内容については、三者構成の中医協の中で安全性と有効性を考慮しながら、慎重で丁寧な議論を行うことが欠かせないものと考える。
 マイナ保険証利用に対する診療報酬については政府の説明が不足と国民の理解が得られないままに始められたことで、改定からわずか半年で内容を見直しするに至っている。来年4月には医療機関に対し「オンライン資格確認の導入を義務化」が療養担当規則へ記載され、将来的には保険証の原則廃止を目指すなどマイナンバーカード普及のため、医療現場の実情を軽視した拙速で強引な政策には疑問を抱かざるを得ない。オンライン資格確認導入が不可能で廃業覚悟の声もあり、地域医療の崩壊に繋がる可能性もある。
 2年後の令和6年改定は診療報酬だけでなく、介護報酬・障害福祉サービスを含めたトリプル改定の年となる。政府には医療現場の声に耳を傾け、実情に沿って診療報酬の体系を分かりやすく簡素化していくことは無論、決定プロセスの透明化を強く求めたい。

編集
福岡市医師会:担当理事 牟田 浩実(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)