医療情報室レポート No.241 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その5~

2020年11月27日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その5~

 

 新型コロナウイルスの感染者数は第2波として8月第1週をピークとして減少が続いた後、多くの都道府県で大幅な増加がみられないながらも、急激な減少もみられず、ほぼ横ばいの状況となっていた。しかし、10月に入ると微増傾向が続き、11月以降はその傾向はさらに強まり、特に北海道、東京や神奈川、大阪などを中心に新規感染者は増加の一途を辿っている。11月21日には国内で過去最多を超える2,594人の感染者が確認されるといった状況に、日本医師会の中川俊男会長は記者会見で「第3波と考えてもよいのではないか」と危機感を強めている。
 国は今冬のインフルエンザ流行期に備え、医療機関に役割分担を求め、身近なかかりつけ医は発熱患者に対応、感染症指定医療機関には重症患者の入院治療に専念といった地域の実情に応じた医療提供体制の整備を進めてきた。
 今回は、福岡県における医療提供体制の強化や福岡市医師会の新型コロナウイルス対策等について特集する。

●医療提供体制の強化

「福岡コロナ警報」解除、指標見直しへ
 福岡県は新型コロナウイルス感染者の急増を受け、8月5日に「福岡コロナ警報」を発信したが、9月中旬以降は新規感染者数が1桁で推移し、病床稼働率も警報基準を下回っていることから、10月8日に警報を解除した。
 県の対策本部会議では、発生状況および現在の医療提供体制ならびに感染症危機管理対策委員会の専門家の意見を踏まえ、警報発動の根拠となる4指標の見直しを決定した。
 第1波の時期と比較して感染者用の病床や宿泊療養施設が一定数確保され、ある程度の感染者数には対応できるとして、過去3日間の新規感染者数の平均について、3日連続で「8人以上」としていた基準を「40人以上」へと緩和した。一方、医療機関の病床確保が迅速に行えるよう、病床稼働率と重症病床稼働率については「50%以上」から「25%以上」に引き下げた。

「重点医療機関」、「疑い患者受入協力医療機関」の指定
 厚生労働省は都道府県に対し、専門性の高い医療従事者を集約し、院内感染対策を効率的に実施するため、新型コロナウイルス感染症患者を病棟単位で受け入れる「重点医療機関」と、疑い患者専用の個室を設定する「協力医療機関」の設置を求めた。
 福岡県では10月14日に「重点医療機関」として県内19医療機関(306床)を指定したことにより、新型コロナウイルス感染症患者用の確保病床数は490床(うち重症患者対応病床60床)から61床増え、551床(うち重症患者対応病床90床)となった。10月27日には「疑い患者受入協力医療機関」として県内45医療機関(118床)を指定した。
 今後は救急医療等が必要な疑い患者については「疑い患者受入協力医療機関」を中心に、陽性者については重点医療機関を含む陽性患者用に病床を確保している医療機関において患者を受け入れる等、患者の症状に合わせた適切な医療提供体制の強化を図っている。

●福岡における感染症概況

○インフルエンザ 県内報告数ゼロ
 福岡市内で確認された新型コロナウイルス感染症陽性患者数は3,315人(11月26日現在)である。第2波が落ち着いた9月中旬以降は1桁から2桁の範囲内で推移してきたが、11月中旬以降他都市では過去最多の感染を確認する等、今後の状況を警戒する必要がある。

 一方、「三密防止、マスク着用・手洗い」といった新型コロナウイルス対策が奏功しているためか、県内のインフルエンザ発生数は、定点医療機関からの報告で昨年度11月末時点の5,914人に対し、今年度は0人と例年に比べ極めて少ない数で推移している。

●本会の新型コロナウイルス感染症対策

項目 内容
行政との連携 妊婦への新型コロナウイルス感染症PCR検査費用助成事業 日本産婦人科医会が新型コロナウイルスに感染した妊婦を対象に行った調査では、妊娠後期になると症状が重症化する割合が高くなることが分かっている。
福岡市では妊婦だけでなく胎児・新生児の健康等への不安を解消するため、妊婦本人が希望する場合に福岡市医師会に所属する産婦人科医療機関で、分娩予定日の概ね2週間以内(早産リスク等医師が必要と判断した場合はこの限りではない)に、新型コロナウイルス感染症のPCR検査を受けるための費用を助成する事業を10月20日から開始している。
「出張PCRセンター」の稼働 新型コロナウイルスの感染者が多数発生している地域や、クラスターが発生した介護施設等に出向いて検体を採取する車両型の「出張PCRセンター」を11月1日から稼働。
必要に応じて医師・看護師チームを構成して派遣することで、介護施設の他、飲食店や企業等で機動的・集中的に検体採取が可能となる体制を構築している。
本会の取組み 「今冬の診療所等における外来診療ガイドライン」作成 今冬のインフルエンザ流行期における外来診療のあり方を検討するため、会内に「新型コロナウイルス感染症外来診療検討ワーキンググループ」を設置し、会員が外来診療を行う際の参考となるよう「今冬の診療所等における外来診療ガイドライン」を10月6日に作成。
同ガイドラインでは医療機関における感染管理対策や安全に診療するためのフローチャート等を示している。
抗原迅速キットの「偽陽性」に関する会内周知 抗原迅速キットを用いた検査で「偽陽性」が散見されることから、日本感染症学会では調査を行い、「偽陽性」を疑う事例が全国で125件あることを10月28日に報告した。判定時間や診断時期、キット自体の問題等が考えられるが、原因は不明である。福岡市でも複数の事例が確認され、実際に学級閉鎖となるなど、患者の精神的負担や周囲の影響は多大なものとなっている。
本会では医師が総合的に判断した結果、「偽陽性」の可能性が否定できない場合は、「PCR検査」による再検査を検討するよう会員へ周知し、今後も常に最新の情報収集と伝達に努めている。
※従来の取組みである「福岡市医師会診療所およびサテライト設置」「PCR検査等の集合契約」については本レポートNo.238~240を参照。

●「診療・検査医療機関」の整備

○新たな相談・受診方法 ~受診前に必ず電話相談を!~
  “季節性インフルエンザ”と“新型コロナウイルス”を臨床的に鑑別することが困難である為、両疾患の同時流行に備え、国は都道府県に発熱患者の診療および検査を行う「診療・検査医療機関」を10月中を目途に整備するよう要請した。
 本会でも発熱患者等の診療を担う医療機関を可能な限り多く確保するため、会員に協力を依頼、市内308医療機関(11月20日現在)「診療・検査医療機関」として福岡県の指定を受けた。患者の殺到や風評被害などの懸念から医療機関名を公表するか否か都道府県毎に判断が割れているが、福岡県では公表の承諾を得た「診療・検査医療機関」をホームページに公開している。
 従来、新型コロナウイルスの疑い患者に対する初期対応は、「保健所」や「帰国者・接触者外来」が担ってきたが、11月からはまず身近な「かかりつけ医等の医療機関」に電話相談し、診療や検査が可能であればそのまま受診、受診できない場合は別の医療機関を紹介、または最寄りの受診・相談センター(保健所)に電話する流れとなる。

医療情報室の目

現場目線の簡潔な制度設計を

 発熱患者の診療等を担う「診療・検査医療機関」には「発熱外来診療体制確保支援補助金」が交付されるが、申請には煩雑な手続きが必要である。この制度は想定した発熱患者受入数を下回った場合に支給されるものだが、1日最大20人を超えて患者を診察すると補助を受けることができず、金額を算出する方法も複雑である。そもそも医療機関の指定を受けるには院内のゾーニングや専用の報告システム導入といった要件が必要であり、「診療・検査医療機関」の登録条件を恣意的に厳しく設定している様にも感じられる。
 この制度に限ったことだけではないが、各種支援等の申請・手続きに関しては、医療現場にとって容易で且つ簡素な仕組みであることが望まれるので、政府や都道府県の政策立案の際には現場目線に立った簡潔な制度設計を願いたい。

年末年始に向けた感染拡大防止にご協力ください

 11月以降、新型コロナウイルスの感染者数が全国各地で過去最多を更新し、4月や8月のピークを超えて感染者の増加が顕著になっている。今夏の「第2波」では夜の繁華街を中心に若者の間で感染の広がりが特徴的であったが、現在起きている「第3波」では家庭内での感染や重症化しやすい60代以上の高齢者の感染が目立つ。感染者が急増している地域では重症者用病床の使用率が上昇しており、このまま全国的な拡大が進めば、各地で医療提供体制が逼迫し、医療崩壊を引き起こしかねない。ワクチン・治療薬が確立していない現状の中では今まで継続してきた、「三密を避ける」「マスク着用、手洗い」といった基本的な感染対策の徹底に加え、「冬場の換気対策」や「年末年始に向けて感染リスクが高い場面を避ける」など、感染拡大防止に対する意識を今一度高く持つことが求められる。
 前号でも紹介したが、本会の活動や最新情報を発信し地域の公衆衛生向上を図ることを目的とした「定例記者会見」の第2回目を12月2日に予定している。今回も本会で取り組む種々の新型コロナウイルス感染症対策の報告や市民に対して基本的な感染対策徹底の呼びかけを行い、報道機関と連携を図りながら、適切な内容が市民に伝わるよう地域医師会としての役割を果たしていきたい。


編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)