医療情報室レポート No.281 特集:看取りと検案
2026年7月31日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
特集:看取りと検案
人生の最終段階をどこで過ごし最期をどこで迎えるか。日本ではかつて、多くの方が自宅で亡くなっていたが、医療の高度化や病床の整備に伴い医療機関で亡くなる方が多くを占めるよう変化してきた。日本の総人口が1億2,322万人、その内65歳以上が3,622万人と高齢化率は29.4%に至り(令和8年版高齢社会白書より)、すでに迎えた超高齢社会に在宅医療の普及や地域包括ケアの推進を背景に、自宅や介護施設等で最期を迎える方も増加してきている。
こうした社会の変化の中で人生の最終段階において、本人が望む医療やケアを事前に話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)や、本人の意思を尊重した終末期医療・尊厳ある看取りの必要性はこれ迄以上に高まっている。医療者には患者や家族に寄り添う看取りだけでなく、亡くなった際の医師による診断、突然死や死因究明のための検案等の役割も求められる。
今回の特集では人生の最期を支える医療の仕組みについて特集する。
●国内の人口推移等
総人口は減少局面に入り、2040年に向けて年間死亡者数が増加。死因では「がん」が最多を占める一方で「老衰」が増加、死亡場所も自宅や介護施設等の割合が高まっている。




●人生の最終段階を支える医療
医療機関等から「暮らしの場」へと最期の場所が移り変わる中、「どのように自分らしく最期を迎えるか」が問われている。 本人の意思をあらかじめ共有するACPを起点に、苦痛をやわらげる緩和ケアや寄り添う看取り・ターミナルケアの実践—。
ここでは人の最期を支えるために知っておくべきキーワードを紹介する。


○看取り(みとり)
過剰な延命治療を行うのではなく、本人の意思や尊厳を保ちながら「自然な死」を迎える過程を寄り添って支えること。身体的なケアだけでなく、心のケアや家族へのサポートも含まれる。
○緩和ケア
がんなどの病気による身体的な痛みや心のつらさ(不安・孤独など)をやわらげ、自分らしい生活を送れるように支えるアプローチ。終末期だけでなく、病気が診断された早い段階から開始される。
○ターミナルケア(終末期医療・看護)
治癒が困難となった人生の最終段階(終末期)において、苦痛の除去や精神的な安らぎの提供を目的として行う医療や看護の総称。
●死亡時と医療の関わり
○死亡診断書(死体検案書)
医師が死亡および死因・状況を証明する公的書類で、市区町村へ提出され火葬許可や統計資料に使用。生前の診療患者には「死亡診断書」、異状死等には「死体検案書」を交付(同一様式)。
令和6年版記入マニュアルにより、一定の条件を満たせば生前の診療担当医でなくても死亡診断書を交付できることが明確化された。


〇自宅で死亡した一人暮らしの人
令和6年に自宅で死亡した一人暮らしの人は全国で7万6,020人に上った。約4人に3人(76%)は65歳以上で、高齢化や単身世帯の増加を背景に、地域での見守りや在宅医療・介護との連携が一層重要。福岡県でも3,352人が該当。

○医師による検案
自宅での突然死や死因不明のケースでは警察へ届けられ、警察(検視官)が事件性の有無を調べる一方、医師は医学的観点から死因を判断する「検案」を行う。必要に応じて解剖や死亡時画像診断(Ai)も実施。死因究明体制は地域毎に異なり、福岡など多くの地域では警察医や大学の法医学教室等がその役割を担う。(監察医制度は東京都23区を含む4地域で実施。)
| 役割 | 主な所属 | 主な業務 |
| 警察医 (検案医) ※検案は医師なら 誰でも行うことができる | 警察から委嘱を受けた地域の医師 | 警察の死因究明への協力 |
| 監察医 | 監察医務院など (東京都・名古屋市 大阪市・神戸市) | 異状死の 検案、解剖 |
| 法医学者 (法医) | 大学法医学教室 | 法医解剖、死因究明 |
| 検視官 【警察官】 | 警察署 | 検視、犯罪性判断 |

●医師会の取り組み
福岡県医師会では、全ての医師が基本的な検案の能力を維持・向上できるように毎年研修会を開催。
<令和7年度死体検案(基礎)研修会(ハイブリッド開催)R8.1.31(土)14:00~17:00>
| 1.「死体検案に係る法令の概要、死体検案書の作成について」 | 九州大学大学院医学研究院法医学分野教授 臼元 洋介 |
| 2.「警察の検視、調査の視点から」 | 福岡県警察本部刑事部捜査第一課検視官室課長補佐 秋山 哲也 |
| 3.「死体検案の実際」 | 福岡県警察医会会長/福岡市医師会副会長/ 大木整形・リハビリ医院理事長 大木 實 |
| 4.「日常検案の経験から~特に在宅死について~」 | 福岡県医師会理事 田中 耕太郎 |
| 訪問診療等で患者死亡に立会、検案についての知識を習得されたい方は 福岡県警察医会への入会をご案内します 詳細は福岡県医師会ケンイ迄TEL:092-431-4845 |
医療情報室の目
★最期を支える医療
国内の死亡者数は年間160万人を超え、2040年(令和22年)迄増加傾向で、ピーク時には年間170万人が死亡すると見込まれている。現在、亡くなる場所は医療機関が依然6割以上を占めているものの、自宅や施設等が徐々に増えつつあり、核家族化や単身・高齢者増といった世帯の変化、地域・家族・親族との関係の希薄化等から孤独死の増加も深刻な社会問題となっている。
福岡市医師会副会長の大木 實 医師は、自院近くに警察署があったことがきっかけで開業後直ぐに福岡県警察の嘱託医となり、以来44年に亘り死因特定や異状有無等を調べる検案業務に携わってきた。79歳となる現在も福岡県警察医会の会長を務めながら、昼夜間・休日を問わず現場へ赴き年間140~200体の検案を担当しており、その総数は8,000体を超えている。
自宅で最期を迎える人が増え、在宅医療やICTを活用した死亡診断等、看取りを取り巻く環境は大きく変化しつつあるが、大木医師は多くの事案に接するにあたり、一人ひとりの人生に寄り添い、亡くなった方の声なき声を拾い、その最後を適切に確認して社会へつなぐ医師の使命に変わりはない姿勢を以て検案に従事している。医師に向けては、検案は特別な医師だけが行うものではなく、医師であれば誰もが担う可能性のある役割であり、医師会でも研修会を開催していることから先ずは知識を身に付けてもらいたい展望も示している。
看取りから診断、検案、死因究明まで―。人生の最終段階を迎え支えるには、医療・介護・行政・警察・法医学など多くの専門職の連携で成り立っており、今回の特集が人生の最終段階における医療の在り方と役割について改めて考える契機となることを願う。
編集
福岡市医師会:担当理事 高森 義博(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 竹川)

