医療情報室レポート No.265 特集:アドバンス・ケア・プランニング(ACP)~人生会議~

2024年3月29日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:アドバンス・ケア・プランニング(ACP)~人生会議~

 我が国では少子超高齢社会が進み、同時に多死社会も迎えている。2022年の死者数は約156万人だが、2040年には約168万人に上り、1日当り4,600人が亡くなると予測されている。
 人生の最終段階において自分が望んだ医療や介護を受けるために、家族と一緒にどのような最期を迎えるかを考え、話し合う取組みを「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と呼び、厚労省では普及啓発に取組んでいる。
 各自治体でも独自のエンディングノートなどが作成されているが、身近に取り上げにくいテーマであるためか、世間一般の認知度は不足しており、医療者においても十分に浸透しているとは言えない現状がある。
 今回は「ACP」の概要を解説し、普及・啓発の現況、人生会議の進め方、医療従事者の育成などについて特集する。

●アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?

○自分が望む医療などを繰り返し話し合う「人生会議」
 「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」とは、終末期の医療などを事前に話し合うことで、英語の頭文字から「ACP」と略される。厚労省ではより国民に浸透するように愛称を公募し「人生会議」に決定(平成30年)。
 命に関わる病気やケガをする可能性は誰にでもあるが、命の危機に瀕した時、約7割の方が医療やケアなどを自分で決めたり、望みを人に伝えることができなくなると言われている。
 もしもに備え、自身が希望する医療やケアを前もって考え、家族等や医師を始めとする医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有することが勧められている。

○厚労省のこれまでの取組み
 厚労省では昭和62年以降、概ね5年ごとに人生の最終段階における医療に関する検討会を開催し、次のとおりガイドライン策定に取組んでいる。

 ・平成19年5月、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」策定
  (富山県で起きた人工呼吸器取り外し事件を契機に「尊厳死」の議論が活発化)
   ※平成26年度に「終末期医療」「人生の最終段階」に改称

 ・平成30年3月、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(※)策定
  (地域包括ケアシステム構築に対応、英米諸国で普及する「ACP」の重要性を強調)
   ※https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf

○日本医師会の取組み
 ・平成20年2月、「終末期医療に関するガイドライン」策定

 ・令和2年5月、「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」(※)策定
  (「ACP」の考え方を盛り込む、在宅や介護施設の現場に配慮)
   ※https://www.med.or.jp/dl-med/doctor/r0205_acp_guideline.pdf

「人生会議」普及・啓発ポスター(厚生労働省作成)

●人生会議の普及・啓発

○国民の約7割「知らない」
 厚労省は平成4年度より国民や医療従事者に対する意識調査を定期的に実施し、令和4年度の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では「人生会議」国民の72.1%「知らない」と回答。(前回調査から大きな変化なし)
 一方、医師で「よく知っている」の回答は45.9%、前回調査の22.4%と比較すると向上しているものの、国民と合わせて今後より一層の認知度向上が課題である。

○毎年11月30日は「人生会議の日」
 「ACP」の愛称が「人生会議」とされた平成30年以降、毎年11月30日は「人生会議の日」とされており、厚労省はシンポジウムを開催するなど普及・啓発に取組んでいる。

●人生会議の進め方

 「人生会議」の進め方としては、次の4つのステップで行うことになるが、本人の意思は時間の経過や心身の状態により変化するため、繰り返し行うことが重要となる。
 また、いつ実施するといったルールはなく、年齢や健康状態を問わず、まずは家族や友人などと話し合いを始めることが必要となる。

●医療機関に求められる取組み

○福岡市医師会の取組み:医療従事者の育成
 人生の最終段階における医療・ケアでは、医師等から適切な情報提供と説明がなされ、それに基づき医療・介護・福祉の多職種チームが本人や家族等と話し合いを行い、本人の意思決定を基本に進めることが前提となる。
 その際、本人の意向を尊重し、意思決定を支援する役割を担う「相談員」が重要で、支援に必要な知識習得を目的とした人材育成の研修会が各地で開催されている。
 本会でも厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づいた「意思決定支援教育プログラム」を活用した「ACP研修会」を令和6年3月3日に開催した。

<令和5年度福岡市医師会 本人の意向を尊重した意思決定のための相談員研修会(ACP研修会)>

目的 本人や家族等の相談に乗り、関係者の調整を行う相談員の育成
参加者 医師1名を含む4名の多種職(※)チーム (合計8チーム32名)
 ※薬剤師、看護師、医療ソーシャルワーカー、理学療法士、ケアマネジャー等
研修内容 講義・ワーク・ロールプレイ ※令和6年3月3日(日)に開催

○診療報酬算定の要件化
 診療報酬では現在、入院・外来・在宅の場において、前述の厚労省ガイドライン等の内容を踏まえた「適切な意思決定支援に関する指針」を定めることが算定要件とされている。
 本年6月に施行される「令和6年度診療報酬改定」において、「適切な意思決定支援に関する指針」の作成を要件とする入院料の範囲が拡大、地域包括診療料等の要件に追加される予定となっている。

医療情報室の目

★「人生会議」の普及と啓発

 「人生会議」は人生の最終段階における医療やケアについて、前向きに生き方を考える仕組みであり、英米諸国を中心に普及していることを踏まえ、我が国でも取組みが進められているが、社会全体に浸透しているとは言い難い状況にある。患者や家族に説明して取組んでもらうためには、我々医療従事者がまず「人生会議」の内容をよく理解し、医療現場からも情報提供と普及啓発を図ることが必要である。
 今年3月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者からの依頼に応じて殺害したとして嘱託殺人罪などに問われた元医師の裁判で京都地裁は懲役18年の判決を言い渡した。裁判では「被告の生命軽視の姿勢は顕著で強い非難に値する」と述べられており、この事件は医療とは異なる犯罪行為として裁かれて然るべきものである。本事件では意図的に薬物を投与して患者を死に至らせる「安楽死」について、その是非を巡る議論が見られたが、国内で「安楽死」は合法化されておらず、諸外国で法的に実施できるのは少数であり、容認している国や地域においては主治医が患者の病状や意思を慎重に確認しながら厳格に運用されている。延命措置を望まない終末期の医療やケアと本事件は同列に扱う問題ではなく、内容は大きく乖離していることに留意が必要である。
 世界医師会では2019年10月の第70回総会の中で「積極的安楽死」と「医師の自殺幇助」に強く反対する採択をしており、日本医師会の「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドラン」でもそれらの行為は行わないこととしている。また、「人生の最終段階においては、本人の意思が一番重要であり、その意思を尊重した医療・ケアを提供する中で、尊厳ある生き方を実現していかなければならない」と述べられており、本人の意思や希望を繰り返し確認し、尊厳をもった自然な最期を迎えるために「人生会議」が果たす役割は今後益々大きくなることが考えられ、急な病気や事故など万が一への備えとして、普段からの意識付けが欠かせなくなる。
 この度の診療報酬改定では原則、全ての病棟で人生の最終段階で「どういった医療を受けたいか」の意思決定支援を行う指針を定めることが義務付けされる。今後、医療機関では患者本人、家族やキーパーソンに十分な情報の提供と説明をしたうえで同意を得る、話し合いの経過や内容は結論だけでなく、その過程も記録に残すことや患者、医療者、関係者が密に情報共有することなどが求められる。
 我々、地域医師会としては最後まで患者の希望に応じた医療やケアを提供できるよう、また、病院だけでなく在宅や介護施設の現場においても患者の意思に基づく支援ができるよう人材育成や体制整備に努めていく所存である。

編集
福岡市医師会:担当理事 牟田 浩実(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)