医療情報室レポート No.263 特集 :令和5年をふりかえって

2023年12月22日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 令和5年をふりかえって

 令和5年5月8日、新型コロナウイルス感染症は感染症法上の位置づけが「5類」に移行し、約3年3ヵ月に亘った新型コロナへの体制は大きな節目を迎えた。コロナ禍の中で控えられていた社会における各種の活動は徐々に正常化が進み、本格的なウィズコロナの時代に入った。
 今夏は平均気温が最高値を更新して史上最高の暑さを記録し、また、昨年から続く物価高に国民が苦しむ中、所得税等の定額減税やインボイス制度の導入など1年を通じて税に関する様々な議論や取組みが行われた。年末には来年の医療、介護、障害福祉サービス報酬のトリプル改定に向けた財源をめぐる厚労省と財務省との激しい攻防が繰り広げられた。
 世界状勢では昨年2月から続いているロシアによるウクライナへの軍事侵攻の終わりが見えない一方で、パレスチナ自治区ガザ地区での軍事衝突が本年10月に突如として始まった。多くの一般市民が戦闘に巻き込まれて犠牲となり、国際人道法に反する医療施設を狙った攻撃も発生するなど、多数の死傷者が出る悲惨な状況が続いている。
 今回は、毎年恒例の特集である今年一年の出来事をまとめ、“令和5年をふりかえって”みた。

●令和5年の主な出来事

  医師会関係 厚生・行政関係 トピックス
1月
  • 日医会員数17万3,761人(2022.12.1付)、前年比—134人。
  • 市医、10月1日開始のインボイス(適格請求書)制度に対応するため、「医療機関向けインボイス制度に関する説明会」開催。
  • 新型コロナ感染拡大の「第8波」発生。月間死者数が初の1万人超。
  • 政府、新型コロナの感染症法上の位置づけを5月8日より5類に引き下げることを決定。
  • 電子処方箋の運用が1月26日より開始(30都道府県154施設)。
  • 帝国データバンクが倒産動向調査結果公表。2022年の医療機関の倒産件数は前年比8件増の41件。
  • 新年一般参賀が3年ぶりに開催。長女の愛子さまが初出席される。
  • 岸田首相がバイデン米大統領と会談。
  • 10年に一度レベルの強烈寒波が襲来。積雪による列車の長時間の立ち往生が発生。
  • 車いすテニスの国枝慎吾選手が現役引退表明。
  • 第168回直木賞受賞作、小川哲「地図と拳」と千早茜「しろがねの葉」。第168回芥川賞受賞作、佐藤厚志「荒地の家族」と井戸川射子「この世の喜びよ」。
2月
  • 日医、トルコ・シリア地震を受け、被災地で緊急支援活動を行っている特定非営利活動法人に500万円の支援金を提供。
  • 政府、3月13日から屋内・屋外を問わずマスク着用は個人の判断に委ねる基本方針を決定。
  • 政府、マイナ保険証を持たない人向けに「資格確認書」を無料発行する方針を表明。
  • 経鼻投与のインフルエンザワクチン「フルミスト」が国内で初承認。
  • トルコ・シリアでM7.8の地震発生。
  • ロシアによるウクライナ侵攻から1年。主要7カ国(G7)首脳がオンライン会合開催。
  • バイデン米大統領がウクライナを訪問。
  • 米軍、本土上空を飛行した中国の気球を撃墜。
  • 全国で相次いだ広域強盗でフィリピン収監の指示役4人が逮捕。実行役を闇バイトで募集。
  • 海外での臓器移植を無許可で斡旋した容疑でNPO法人理事が逮捕。
3月
  • 市医、日医松本会長を講師に「第10回福岡未来医療塾講演会」開催。
  • 市医、「医療DXに関する状況調査」を実施。約5割がオンライン資格確認の運用開始済と回答。
  • 市医、会員から集まったトルコ・シリア地震の医療支援金を日医へ送付。
  • 市医、「第10回慢性腎臓病(CKD)市民公開講座」開催。参加者291名(天神スカイホール)
  • 厚労省、光ディスクでのレセプト請求を令和6年9月末までに終了し、原則オンライン請求への移行を表明。
  • 2022年の全国の自殺者数、前年比874人増の2万1,881人。
  • 2022年の全国の救急出動件数、前年比103万6,257件増の722万9,838件。集計開始以来、過去最多。
  • 岸田首相がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談。
  • 日韓首脳会談、関係正常化で一致。
  • 文化庁が京都に移転、業務開始。中央省庁の本格的な移転は初。
  • 新型ロケット「H3」の初号機が打ち上げ失敗。
  • 野球の第5回WBCで日本代表が14年ぶり3度目の世界一。
4月
  • 日医、医療従事者の賃上げに向けた財政支援を岸田首相へ要請。
  • 市医、「5類移行後の外来診療に関する調査」を実施、外来対応医療機関における好事例集等を会員向けに公表。
  • 市医、診療所におけるコロナ外来の基本的な対応方法を解説した「対応力強化WEBセミナー」をオンデマンド配信で開催。
  • 市医、池田雄祐会員(中央区)、「瑞宝双光章」受章。
  • こども家庭庁が発足。
  • 異次元の少子化対策の具体化に向けた、「こども未来戦略会議」が初会合。
  • 医療機関等にマイナンバーカードを保険証として利用する「オンライン資格確認システム」の導入義務化が開始。
  • 経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」が国内で初承認。
  • 出産育児一時金が42万から50万へ増額。
  • 第20回統一地方選挙、日本維新の会が各地で議席を伸ばす。
  • 和歌山市で衆院補選の応援演説中、岸田首相の近くに爆発物が投げ込まれる事件が発生。
  • 沖縄県宮古島周辺で陸上自衛隊の隊員ら10名が搭乗したヘリコプターが消息を絶つ。
  • 日本銀行の新総裁に植田和男氏が就任。
  • スーダンで軍と準軍事組織が衝突。政府は在留邦人退避に向けて自衛隊機派遣。
  • フィンランドがNATO加盟。
5月
  • 日医など医療・介護関係12団体、「医療・介護における物価高騰・賃金上昇への対応を求める合同声明」を発表。
  • 市医、伊藤翼会員(東区)、「瑞宝中綬章」受章。
  • 新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類」へ移行。国内の累計感染者約3,300万人、死者約7万4,000人。
  • かかりつけ医機能報告制度の創設や後期高齢者医療制度の見直しなどを柱とする全世代社会保障法が成立。
  • WHO、新型コロナウイルスおよびサル痘のの緊急事態宣言を解除。
  • イギリスのチャールズ国王が戴冠式。
  • 広島でG7サミットが開催。
  • 急速に普及する生成AIを巡り、政府は「AI戦略会議」の初会合を開く。
  • 長野県中野市で男が猟銃を発砲するなどして警察官ら4人が殺害される事件が発生。
  • マイナンバーカード、個人情報の誤登録などトラブルが相次ぐ。
6月
  • 日医、定例代議員会で追加4名の常任理事を選任・選定することが承認。
  • 市医、「オンライン資格確認現況調査」を実施。約8割の医療機関がトラブル有の回答。
  • 市医、「第74回指定都市学校保健協議会学校医研修会」をWebで主催。
  • 令和6年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードとの一体化等を盛り込んだ改正マイナンバー法が成立。
  • 警察庁、認知症または疑いによる行方不明の届出件数公表。2022年は前年比1,073人増の1万8,709人で、10年連続過去最多更新。
  • 両陛下、即位後初の親善訪問となるインドネシアへ公式訪問。
  • 岐阜市の陸上自衛隊射撃場で、実弾訓練中の隊員が小銃を発砲し、隊員3人が死傷。
  • 北海道八雲町の国道で高速バスとトラックが衝突し、バスの乗客ら5人が死亡。
  • 将棋の藤井聡太氏、史上最年少で七冠達成。
7月
  • 「第54回九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会」開催(長崎市)。
  • 市医、「薬剤需給状況調査」を実施。診療所の7割、病院の9割が供給不安定で処方できない薬があると回答。
  • 竹嶋康弘元日医副会長、元県医会長、元市医会長が逝去。
  • 新型コロナ、全国の定点把握による報告数が増加、日医は「第9波と考えるのが妥当」との見解を公表。
  • 厚労省、マイナンバーカードでオンライン資格確認ができない場合の資格確認方法や窓口負担の在り方を医療機関に周知。
  • 九州北部で線状降水帯による豪雨発生。福岡、佐賀、大分で死者や行方不明者が出る。
  • 中古車販売大手のビッグモーターが保険金水増し請求問題により、社長が引責辞任。
  • 第169回直木賞受賞作、垣根涼介「極楽征夷大将軍」、永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」。第169回芥川賞受賞作、市川沙央「ハンチバック」。
  • 世界水泳が22年ぶりに福岡で開催。
8月
  • 日医、医師会の活動を広く国民に知ってもらうための「地域に根ざした医師会活動プロジェクト」を始めると発表。
  • 日医、令和5年度予算概算要求に向けた要望書を厚労省に提出したことを公表。
  • 「第54回中四九地区医師会看護学校協議会(武雄)」Webで開催。
  • 中医協、令和6年度診療報酬改定以降、施行時期を4月から6月に後ろ倒しする厚労省案を了承。
  • 政府、マイナ保険証を持たない人に「資格確認書」を一律に発行する方針を表明。
  • 政府の「新型インフルエンザ等対策推進会議」の議長を務める尾身茂氏が退任。
  • 長崎平和祈念式典、台風で60年ぶりに屋内開催。
  • 東京電力、福島第1原発の処理水海洋放出作業開始。
  • 日本大学アメフト部所属の学生が覚醒剤取締法違反などの容疑で逮捕。
  • そごう・西武がストライキを決行。大手百貨店のストライキは61年ぶりの実施。
  • 米ハワイ州マウイ島で大規模な山火事が発生。
  • 米大リーグの大谷翔平選手、史上初の2年連続2桁勝利、2桁本塁打を達成。
9月
  • 市医、「医療現場における迷惑行為調査」を実施。約5割の会員医療機関が迷惑行為を受けたことがあると回答。
  • 市医、迷惑行為に対する医療機関からの相談や支援を行う「防犯・安全対策支援事業」を開始。
  • 福岡市三師会、福岡市長へ要望書提出。
  • 市医、「第10回地域包括ケア推進のための市民向け講演会」開催。参加者426名(アクロス福岡)
  • 第2次岸田第2次改造内閣が発足。日本医師連盟推薦の自見なはこ参議院議員が地方創生担当大臣、東京都医師連盟推薦の武見敬三参議院議員が厚生労働大臣に就任。
  • 感染症対策を一元的に担う「内閣感染症危機管理統括庁」が発足。
  • 厚労省、「2022年人口動態統計」を公表。出生数が前年比4万863人減の77万759人で統計開始以来過去最少。
  • 総務省、「統計からみた我が国の高齢者」を公表。65歳以上の高齢者人口は前年比1万人減の3,623万人で1950年以降初の減少。総人口に占める割合は29.1%で過去最高。
  • モロッコ中部でM6.8の地震発生。
  • 北アフリカのリビアで大規模な洪水発生。
  • G20サミット、ウクライナでの武力行使に反対する首脳宣言を採択。
  • 約10万人の死者・行方不明者を出した関東大震災発生から100年。
  • ガソリン価格が過去最高。歴史的な物価高騰が続く。
  • 気象庁、今年の6~8月の平均気温が1898年の統計開始以降で最も高かったと発表。
  • ベネチア国際映画祭で、濱口竜介監督の「悪は存在しない」が銀獅子賞を受賞。
  • ジャニーズ事務所、性加害を認め、社長が引責辞任。
  • バスケワールドカップが日本、フィリピン、インドネシアで開催。男子日本代表がパリ五輪の出場権を獲得。自力では48年ぶり。
10月
  • 日医、「地域に根ざした医師会活動プロジェクト」の第1回シンポジウムを開催。
  • 総務省、マイナポイント事業に7,556万人(対象者の81%)が申請と発表。ポイント付与で支出する国費は1兆円規模の見込み。
  • 厚労省、「令和3年度国民医療費の概況」を公表。前年度比2兆694億円増の45兆359億円。
  • 総務省消防庁、熱中症による救急搬送数(5~9月)が前年比2万438人増の9万1,467人と公表。
  • パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」がイスラエルへ奇襲攻撃、両者の軍事衝突が開始。
  • 消費税のインボイス制度開始。
  • 銀行間の資金決済を担う全国銀行データ通信システムに障害発生。
  • 岸田首相、物価高対応を含む経済対策として、所得税減税等を行う方針を表明。
  • 文科省、旧統一教会の解散命令を東京地裁に請求。民法の不法行為を根拠とした請求は初。
  • 将棋の藤井聡太氏、史上初の全八冠を達成。
11月
  • 日医、四病院団体協議会と令和6年度診療報酬改定での大幅な引き上げを強く求める合同声明を発表。
  • 日医、「医師の働き方改革と地域医療への影響に関する調査」の結果報告。3割程度は今後の医師確保が不透明な状況と回答。
  • 福岡市医ニュース号外「財政審の主張に日本医師会反論!」を会員向けに発行。
  • 市医、富田春英会員(博多区)、「瑞宝双光章」受章。
  • 「第62回十四大都市医師会連絡協議会」開催(堺市)
  • 「第123回九州医師会連合会総会」開催(長崎市)
  • 財務省、診療報酬改定は本体マイナス改定が適当等を提言した「秋の建議」を公表。
  • インフルエンザ患者増加、全国で警報レベル。福岡県でも4年10ヵ月ぶりの警報発令。
  • 厚労省、来年度以降の新型コロナワクチン接種を費用の一部自己負担を求める等定期接種とする方針を決定。
  • 緊急避妊薬、処方箋無しでの試験販売開始。
  • 厚労省、マイナ保険証の利用率が4.49%(10月分)と発表、利用率は6ヵ月連続で低下。
  • 鹿児島県屋久島沖で米軍のオスプレイが墜落。
  • 各地でクマによる人的被害増、死傷者過去最多。
  • LINEヤフー、外部からの不正アクセスにより約44万件の個人情報が流出した可能性があることを発表。
  • 宝塚歌劇団の劇団員の女性が死亡した問題で、調査報告書が公表
  • 米大リーグの大谷翔平選手、2年ぶりにMVP受賞。2度目の満票受賞は史上初。
  • プロ野球の阪神タイガースが1985年以来2度目の日本一。
  • J1アビスパ福岡、YBCルヴァンカップを制し、クラブ史上初タイトルを獲得。
12月
  • 福岡県保健・医療・福祉推進協議会、「国民医療を守るための福岡総決起大会」開催(福岡県医師会館)
  • 市医、山田栄一会員(南区)、「瑞宝双光章」受章。
  • 県医と市医主催で「竹嶋康弘先生を偲ぶ会」を開催。
  • 令和6年度診療報酬改定率が本体0.88%増に決定、うち0.61%は医療従事者の賃上げ対応分。
  • 国産初の新型コロナワクチン接種開始。
  • 厚労省、来年4月から始まる「医師の働き方改革」に関する特設サイトを開設。
  • アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が販売開始。
  • 今年の漢字は「税」に決定。
  • 今年の新語・流行語大賞は「アレ(A.R.E.)」に決定。
  • 自民党の各派閥で政治資金パーティ収入の過少記載が判明。4閣僚、5副大臣が交代。
  • 大谷翔平選手、ドジャース移籍発表。契約金は10年総額約1,014億円。

 

※ゴシック表記は福岡市医師会関係

医療情報室の目

 令和6年度は診療報酬改定が予定されており、医師や看護師の人件費などにあたる本体部分の改定率は前回の0.43%を上回る0.88%となることが決定された。そのうち昨今の物価高騰や賃金上昇への対応分で0.61%、入院時の食費見直しに0.06%と財源の使途は大部分が固まっている。薬価等については市場価格を踏まえて1%引き下げとなり、両方をあわせた全体の改定率は0.12%のマイナス改定となった。これに対して日本医師会は「必ずしも満足するものではないが、率直に評価したいと思う」との見解を公表している。
 医療機関の収入は国が定める公定価格である診療報酬で定められており、医療従事者の給与の原資となっていることから、過去30年近く類を見ない現在の局面においても、安全かつ質の高い医療を安定的に提供するために厚生労働省や日本医師会等は診療報酬の引き上げを求めていた。一方、高齢化に伴う社会保障費の増大もあり、現役世代の負担軽減を行う観点から財務省は引き下げを主張し、両者で激しい攻防が繰り広げられるなど今回の診療報酬改定は例年になく、国民的な関心が寄せられたものとなった。
 今後、中央社会保険医療協議会で具体的な点数配分の議論が進められるが、改定率には診療所の効率化・適正化として0.25%の引き下げが含まれているため、診療所の報酬単価が議論の対象となる可能性が高く、注視が必要である。
 来年4月からは勤務医の時間外労働の上限規制を行う「医師の働き方改革」や、今後の新興感染症等への対応など新たな医療計画である「第8次医療計画」が開始、来秋には健康保険証を廃止してマイナンバーカードへ一本化といった「医療DX」への対応など、来年以降も医療界が取り組むべき重要な課題は山積みである。
また、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年も間近に迫り、高齢者の割合が総人口の約35%になると推計されている2040年を見据え、社会保障制度のさらなる改革を進めていくことが求められる。国民皆保険制度の堅持、地域医療体制の充実に向け、引き続き地域医師会として全力で取り組んでいく所存である。


編集
福岡市医師会:担当理事 牟田浩実(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)