医療情報室レポート No.248 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その11~

2021年11月26日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その11~

 7月下旬以降、国内の新型コロナウイルスの「第5波」はかつてない勢いと規模で感染が拡大したが、9月に入ると一転して減少傾向となった。令和3年9月30日、福岡県を含む19都道府県の緊急事態宣言および8県のまん延防止等重点措置は全て解除された。政府の分科会は「感染拡大要素の減少」、「医療危機が伝わり感染対策が徹底」、「夜間の人出減少」、「ワクチンの効果」、「天候の影響」などの要因を挙げているが、減少に至った明確な分析は未だできていない。
 政府は10月末、新型コロナワクチンの接種を2回終えた人の割合が全人口の7割を超えたことを公表した。12月からは18歳以上を対象とした3回目の追加接種実施を決定し、まずは医療従事者を対象とし、来年1月からは高齢者を中心とした一般市民に接種が拡大される予定である。3回目接種の対象者は2回目接種から概ね8ヵ月経過した人であるが、厚生労働省によれば例外的に6ヵ月でも可能とするものの、現時点で具体的な判断基準は不明瞭であり、接種開始時期などを巡り、自治体の間で混乱が生じている状況がある。
 英国では11月4日、米メルク社などが開発した新型コロナウイルスの経口治療薬を世界で初めて承認、軽症者から中等症の患者が自宅で服用することが可能となり、コロナとの共存(ウィズコロナ)へ向けた対策の切り札として期待される。
 今回は、福岡県の感染状況や新型コロナワクチン接種の状況、ウィズコロナに向けた取組みについて特集する。

●福岡県「緊急事態宣言」解除

 9月30日、福岡県に発令されていた「緊急事態宣言」が解除されたと同時に、県独自指標の「福岡コロナ特別警報」「福岡コロナ警報」に移行した。その後、感染状況や病床の使用状況等がより一段と改善したため、10月14日に「福岡コロナ警報」は解除された。
 福岡県の第5波では、第4波と比べると2.3倍となる規模の感染が発生したが、高齢者を中心にワクチン接種が進んだこともあり、重症者は4割減死者も半減した。
 県は11月2日、第6波への備えとして、現在の確保病床数1,482床(重症病床確保数203床)を維持したうえで、軽症や無症状者を受け入れる宿泊療養施設を現在の10施設2,106室から新たに2施設確保して約2,400室とすることを表明した。また、入院患者を一時的に受け入れ、酸素投与や健康観察を行う「酸素投与ステーション」を現在の50床から200床確保、自宅療養者の外来受診や往診等に対応する医療機関を現在の667医療機関から1,000以上に増やすほか、外来で「中和抗体薬の投与(抗体カクテル療法)」が受けられるよう福岡県医師会とも調整しながら体制構築を行う方針を示している。
 政府が第6波の備えとして策定した「新型コロナ対策の全体像」では、第5波と比べて3割増の入院患者の受入体制整備公立・公的病院の専用病床化臨時の医療施設による病床確保などを11月末までに実現させるとしている。

●福岡市の新型コロナウイルス接種状況

○福岡市 接種対象者の8割 2回接種完了
 福岡市は10月末に接種対象者の8割が2回接種を完了したことを公表した。ワクチン接種が開始された本年5月以降、身近なクリニックで受けられる個別接種を中心に、市内全7区に休日も接種可能な集団接種会場を順次設置、施設への出張接種、夜間接種会場や駅隣接の接種会場を設置するなど、市民がライフスタイルに合わせて選べる会場を複数設置して接種を進めてきた。
 さらに小児の接種体制整備(本会で12~15歳の接種実施登録医療機関募集)妊婦への優先接種実施など希望者が円滑に接種できる体制を整備したことも、接種率向上の一因となっている。
 国からのワクチン供給量の減少などに伴い、11月以降は接種会場を縮小し、福岡市の集団接種会場は市内2か所となり、11月22日時点の接種率は1回目85%2回目83%となっている。

○福岡市医師会 臨時接種会場への医師派遣
 市では、接種率が比較的低い10~20代のワクチン接種率向上のため、集客力のある商業施設(イオンモール香椎浜)に臨時接種会場を設置した。
(1回目接種:10月22日~31日、2回目接種:11月12日~21日)
 本会では従来の集団接種会場への対応と同様に、臨時接種会場への医師派遣に協力した。

○3回目の追加接種 12月1日開始
 市は12月1日から3回目の追加接種を開始するため、11月26日から予約に必要な接種券の配送開始を公表した。接種券は2回目接種から概ね8ヵ月経過する対象者に順次発送される。
 まずは先行接種を行った医療従事者を対象とし、65歳以上の高齢者は来年1月以降に接種開始、令和4年6月中に接種対象者の8割の市民が3回目の接種完了を見込んでいる。
 国は1、2回目と異なるワクチンを3回目に打つ「交差接種」を認めているが、当面は3回目接種の薬事承認を得ている米ファイザー社製ワクチンが使用される。
 接種場所は「地域の身近なクリニック等での個別接種」「公共施設等での集団接種(2月中旬頃)」「高齢者施設等への出張接種(1月中旬頃)」を計画している。

●ウィズコロナに向けて

○感染症への対策を効果的に
 日本感染症学会では、今夏に南アジア諸国で流行したインフルエンザウイルスが国内に持ち込まれることや、昨季、国内でインフルエンザ流行がないことによる社会全体の集団免疫低下により、今季のインフルエンザ大流行の発生を懸念している。
 全国のインフルエンザ発生数について定点医療機関の報告では、11月14日時点で28人と現時点の発生数は低調ではあるが、日本感染症学会は高齢者や乳幼児、重症化の恐れがある持病のある人を中心に、今季も積極的なインフルエンザワクチンの接種を推奨している。
 インフルエンザの感染対策は新型コロナウイルスにも有効なことから、ワクチン接種を始め、「マスクの着用」「手洗いや手指消毒の実施」「密閉・密集・密接の回避」「換気」といった基本的な感染対策が効果的に継続されているか、今一度見直したい。

○進む治療薬の開発
 現在、国内で使用できる新型コロナウイルスの治療薬には次の5種類がある。さらに、軽症者向けの経口治療薬の開発が進んでおり、11月4日に英国で承認された「モルヌピラビル」について、政府は国内での薬事承認を前提に160万回分の供給を米メルク社と合意したと発表した。
 ワクチンの普及に加えて、自宅で服用できる薬が実用化されれば、新型コロナウイルスはインフルエンザと同様の対応が可能となり、コロナとの共存(ウィズコロナ)がより新たな段階に進むことが期待される。

<承認済みの新型コロナウイルス治療薬と開発中の主な薬> 

  薬剤名(販売名) 企業名 投与方法 投与条件 備考
1 レムデシビル(ベクルリー) ギリアド・サイエンシズ 点滴 中等症Ⅰ~重症 2020.5承認、エボラ出血熱向けの抗ウイルス薬
2 デキサメタゾン(デカドロン) 日医工など 経口薬、点滴 重症感染症 2020.7承認、炎症を抑えるステロイド剤
3 バリシチニブ(オルミエント) 日本イーライリリー  経口薬 中等症Ⅱ~重症 2021.4承認、関節リウマチ等の薬
4 カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ) 中外製薬 点滴 軽症~中等症Ⅰ、発症抑制 2021.7承認、2種類の中和抗体を組み合わせる
5 ソトロビマブ(ゼビュディ) グラクソ・スミスクライン 点滴 軽症~中等症Ⅰ 2021.9承認、中和抗体薬
開発中 モルヌピラビル メルクなど 経口薬 予防、軽症~中等症Ⅰ 米国で緊急使用許可申請、国内160万回分供給合意
PF-07321332 ファイザー 経口薬 予防、軽症~中等症Ⅰ 米国で緊急使用許可申請
AT-527 ロシュなど 経口薬 軽症~中等症Ⅰ 最終段階の治験
S-217622 塩野義製薬 経口薬 無症候、軽症 最終段階の治験

※厚生労働省ホームページをもとに作成

●マイナンバーカードの健康保険証利用

○医療におけるデジタル化
 新型コロナウイルス感染拡大により、急速で、ある意味強制的に社会のデジタル化が進展したが、ウィズコロナ時代に向けて規制改革や行政改革により一層のデジタル化の加速が予想される。国が進める医療のデジタル化の一環として「マイナンバーカードの健康保険証利用」が10月20日より運用を開始した。
 マイナンバーカードを健康保険証として使用するには、利用者は専用サイト(マイナポータル)で自身の保険証とマイナンバーカードのデータを連結する事前登録が必要だが、マイナンバーカードの交付率は全国民の39.1%で、そのうち保険証利用の登録完了は11月14日時点で11.9%の状況である。

○医療現場のシステム導入状況
 医療機関には専用のカードリーダーが無償提供され、電子カルテのシステム改修等費用の一定額補助もあるが、システム事業者の経験不足等で必要経費が適切に計上されないケースが発生したり、導入後のランニングコストへの不安もあることで、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「オンライン資格確認」に対応可能な医療機関は11月14日時点で全国の病院16.2%診療所5%に留まっている。
 現在、「オンライン資格確認」導入のため、病院77.6%診療所44%がカードリーダーの利用申込をしている。なお、本会で会員医療機関に行った調査では、11月26日現在で病院12件診療所36件「オンライン資格確認」の運用を開始している。

医療情報室の目

国内外の感染状況と第6波への備え

 11月25日の国内の新型コロナウイルス感染者数は119人と、今年に入って最も少ない水準が続いている。一方、欧州では感染再拡大が深刻で、WHOは11月12日、前週に報告された欧州の新規感染者数が200万人に上り、過去最多を更新したことを発表した。ドイツでは1日最多となる7万人超(11月25日)の新規感染者が確認され、ワクチン接種が人口の7割弱で伸び悩んでいることや気温が下がり、屋内に人が集まることなどが感染者増の要因とされている。
 国内でも本格的な冬の到来を控え、感染症専門家の間では「第6波は必ず来る」との見方が大勢を占めている。ワクチン接種率は向上しているものの、時間の経過による効果低減が指摘され、また、社会的活動の行動制限緩和やクリスマス、年末年始で人の動きが活発化することによる感染の再拡大が懸念されている。
 第5波の急速な減少は原因が特定されていないが、「ワクチンの効果」や「基本的な感染対策の徹底」など複合的な要因が絡み合った結果だと推測されている。現在、第6波に備え、医療提供体制の整備や3回目ワクチン接種の準備、国産治療薬の開発などが進んでいるが、一人ひとりができる感染対策への意識を再度振り返ることで、次なる波の発生や規模を抑える可能性は十分にある。また、インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行を防ぐため、インフルエンザワクチン接種が非常に有効な手段になるのだが、流通する当該ワクチンが少ないために、希望する一部の接種希望者が接種できない状況が散見されている。厚生労働省では例年の使用量に相当するワクチンは供給される見込みを示しているので、接種希望者は焦ることなく落ち着いて行動することが望まれる。

医療分野におけるマイナンバーカードの利用

 様々な行政手続きをカード1枚で可能とする政府方針の一環として、マイナンバーカードの健康保険証利用が開始されたが、患者側のメリットは乏しく、カードの取得自体進んでいない。12月からはマイナンバーカードとスマートフォンを利用した「新型コロナワクチン接種の電子版接種証明書」が開始予定だが、多機能化で利便性は高まるものの、同時に情報漏えいや不正使用などのリスクも増大する恐れがある。
 政府には利用にあたっての安全性などについて国民に丁寧な説明を尽くすことが求められる。

編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)