医療情報室レポート No.246 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その9~

2021年7月30日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その9~

 新型コロナウイルス対策で、10都道府県(東京、大阪、兵庫、京都、福岡、愛知、北海道、岡山、広島、沖縄)に発出されていた緊急事態宣言は、沖縄を除く9都道府県で6月20日に解除された。しかし、解除から3週間後、感染再拡大が続く東京に対し、政府は4度目となる緊急事態宣言を8月22日までの期間で発出。東京オリンピックは緊急事態宣言期間中に、全国大半の会場で無観客で開催する事態に至っている。
 政府は「10月から11月にかけ、希望する国民全てにワクチン接種を終えたい」との目標を打ち出し、5月24日から自治体が独自に行う大規模接種や、6月21日には企業や大学での職域接種を開始するなど、接種を加速させるために様々な策を講じていたが、想定を上回る申請が相次ぎ、職域接種は新規受付が停止、肝心のワクチン供給が制限されるなど、政府の甘い見通しに自治体や企業だけでなく、医療現場にも混乱が生じている。
 今回は、福岡県の医療提供体制の状況やワクチン接種事業の現状について特集する。

●福岡県の感染状況と医療提供体制

○福岡県「緊急事態宣言」解除
 5月12日に福岡県へ発出された3度目の「緊急事態宣言」は、当初宣言期限であった5月31日時点では新規感染者数が1日200人前後で推移、病床使用率も高い水準が続いていたことから、期間は6月20日まで延長された。その後、県内の新規感染者数は減少傾向が続いたものの、病床使用率が30%程度と高い水準にあり、6月21日に福岡県は「緊急事態宣言」から「まん延防止等重点措置」の対象区域に移行した。
「まん延防止等重点措置」は7月11日で解除)
 福岡県独自の指標である「福岡コロナ警報」は7月8日に解除された。
 県は感染状況や病床使用率に応じて「福岡コロナ警報」「福岡コロナ特別警報」に分けた新指標を7月15日に策定。第4波の実績や変異株の影響を考慮し、国のステージ判断指標の数値よりも厳しい数値を設定している。
(感染再拡大に伴い、「福岡コロナ警報」を7月28日に発出)
 県はこれまで新型コロナウイルスに対応する病床を設置していなかった中小規模の民間病院にも積極的な患者受入を要請し、各医療機関では限られた設備や人材で苦慮しながら受入体制を整えたものの、感染者減少に伴い、短期間で一般病床に戻すことを求められるといった対応に困惑している。
 現在の確保病床数は1,413床(うち重症病床確保数201床)、民間の宿泊療養施設は10施設2,106室(市内6施設1,427室)となっている。

○福岡市医師会「自宅療養検討ワーキンググループ」開催
 福岡県は原則、無症状者や軽症者は宿泊療養施設への入所を求めていたが、第4波では重症化し易い変異株の感染拡大により、自宅での症状悪化や、感染者死亡の事例が発生したことを踏まえ、今後、感染が急拡大した場合には、「自宅療養」も容認する方針を公表した。
 本会では早速、2回目となる「自宅療養検討ワーキンググループ」を開催し、「かかりつけ医」が中心となる患者のフォローアップ体制の構築に現在取り組んでいる。

○「デルタ株」への警戒
 世界保健機関(WHO)は、特定国への偏見や風評被害を避けるため、変異株をギリシャ文字で呼ぶことを提唱しており、特に強い感染力や感染時の重症度が高い変異ウイルスを「懸念される変異株(VOC)」として、国際的に警戒することを呼びかけている。現在、VOCに認定されているのは下表の4種類で、インドで確認された「L452R」の変異があるウイルスのうち、最も拡大しているタイプは「デルタ株」と呼ばれ、首都圏における感染再拡大の要因の一つとされている。
 国立感染症研究所は、首都圏では今月末に7割超が、8月中にはほとんどが「デルタ株」に置き換わると推定。福岡県では6月14日に開始した「L452R」変異株の検査にて、7月19日から25日の週は陽性率31.2%(215件中、陽性67件)と「デルタ株」への置き換わりが進みつつある。
 北海道大学と京都大学のグループが行った分析結果では、「デルタ株」の国内での感染力は従来株と比べて1.95倍高いと推定しており、全国への拡大が懸念されている。

<新型コロナウイルスの「懸念される変異株(VOC:Variant of Concern)」>

種類 最初の検出 主な変異 感染性
(従来株比)
重篤度
(従来株比)
再感染やワクチン効果
(従来株比)
福岡県内での検出
(ゲノム解析件数
7/29現在)
アルファ株 英国
(2020年9月)
N501Y 1.32倍と推定
(5~7割程度高い可能性)
1.4倍(40~64歳1.66倍)と推定
(入院・死亡リスクが高い可能性)
効果に影響がある証拠なし
(2,708件)
ベータ株 南アフリカ
(2020年5月)
N501Y
E484K
5割程度高い可能性 入院時死亡リスクが高い可能性 効果を弱める可能性
(1件)
ガンマ株 ブラジル
(2020年11月)
N501Y
E484K
1.4~2.2倍高い可能性 入院リスクが高い可能性 効果を弱める可能性
従来株感染者の再感染事例の報告あり
デルタ株 インド
(2020年10月)
L452R 高い可能性(アルファ株の1.5倍高い可能性) 入院リスクが高い可能性 ワクチンと抗体医薬の効果を
弱める可能性

(37件)

※厚生労働省資料をもとに作成

●新型コロナウイルスワクチン接種事業

○福岡市ではワクチン対象者や接種体制を順次拡大

項目 内容
1 福岡市独自の優先接種開始 福岡市では感染拡大防止の要所となる介護施設や学校等について、独自の優先接種枠を設けて接種を実施
 ①訪問・通所介護等従事者 [開始]5月28日(金)  
 ②幼稚園・保育園職員等  [開始]6月  7日(月)
 ③災害支援等従事者    [開始]6月17日(木)  
 ④学校の教職員等     [開始]6月24日(木)
 ⑤公共交通機関の乗務員等 [開始]7月12日(月)  
 ⑥中洲地区の接待を伴う飲食店従業員等
              [開始]7月13日(火)
2 64歳以下の市民に接種券等発送 16歳以上64歳以下の市民(約100万人)に福岡市が接種券等を6月30日(水)に一斉発送(12~15歳は7月上旬に発送)
基礎疾患の有無や年齢区分に応じて予約開始日を分ける
 ※基礎疾患がある人(要事前登録)、60~64歳は接種券等が届き次第予約可能
 [予約受付開始]50~59歳→7月12日(月)、40~49歳→7月15日(木)、30~39歳→7月19日(月)、12~29歳→7月22日(木)
3 集団接種会場順次開設 地域の接種可能なクリニック(個別接種:市内約800箇所)以外に設置する集団接種会場を順次開設
 ①中央ふ頭クルーズセンター(開設時間 11~22時)
  [開始]6月21日(月)
  (5月13日から設置していた“マリンメッセ福岡B館”は6月末で終了)
 ②市内7区の公共施設等(開設時間 11~17時 ※一部11~22時)
  [開始]6月22日(火)より順次 
4 深夜接種会場開設 様々なライフスタイルの市民が円滑に接種できるよう、深夜帯(22時~翌8時)に接種可能な会場を7月20日(火)に開設
※設置会場:福岡市民病院

○ワクチン供給ペース減速と医療現場の困惑
 政府はワクチン接種加速のため、企業や大学等の「職域接種」を6月21日から開始したが、現役世代対象の接種に各企業等の関心は高く、申請が想定以上に殺到、申請開始から2週間で受付停止。ワクチンが不足し、今度はワクチン破棄の企業名を公表する方針を決めるなど政府の対応は混迷している。自治体の「大規模接種」「職域接種」で使用する米モデルナ社製のワクチンは、6月末までに4,000万回分が供給予定だったが、世界的な需要の高まりで、実際は6割減の1,370万回分だったことが判明し、準備を進めていた自治体や企業等でさえ接種開始を延期せざるを得ない事態に至っている。
 また、米ファイザー社製のワクチンは、4月から6月に1億回分が供給されたのに対し、7月から9月は3割減の7,000万回分と、国から供給されるワクチン量が減少、米モデルナ社製ワクチンを使用予定だった「大規模接種」向けに1,200万回分を回すなどの対応により、各市町村に希望するワクチンの量が届かず、予約受付停止や集団接種の会場を減らすといった動きが全国で続出した。
 福岡市では個別接種実施の約800医療機関に7月中旬以降の予約を制限、8月の予約を約2~3割減らすことが要請され、接種の最前線を担う各医療機関では混乱が広がっている。

○厚生労働省、ワクチン副反応に「重大な懸念なし」
 厚生労働省は7月21日の専門部会でワクチンの安全性を検討し、現在までの副反応疑い事例などの報告状況から「重大な懸念は認められない」と公表した。
 接種後に接種部位の痛み、頭痛や倦怠感などの症状が50%以上の割合で発現するが、大部分は接種後数日以内に回復している。
 また、若年層に心筋炎や心膜炎の事例も報告されているが、発生頻度は極めて稀で、軽症の場合が多いため、厚生労働省ではワクチン接種で感染の重症化予防を図るメリットの方が圧倒的に大きいとしている。

<新型コロナワクチンの副反応疑い報告について>

項目 ファイザー社 モデルナ社
接種期間 令和3年2月17日~7月11日 令和3年5月22日~7月11日
接種回数 5,843万9,259回 181万8,033回
死亡例 663件 4件
副反応疑い 1万7,887件(0.03%) 404件(0.02%)
  アナフィラキシー疑い 1,853件
(100万回接種あたり32件)
46件
(100万回接種あたり25件)
    アナフィラキシー
(ブライトン分類1~3)
325件
(100万回接種あたり6件)
2件
(100万回あたり1.1件)

※厚生労働省専門部会(令和3年7月21日)資料をもとに作成

医療情報室の目

全世代へのクチン接種を全力で推進

 首都圏では新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、東京オリンピックで来日した選手や関係者の陽性も確認されている。東京都のモニタリング会議では7月26日までの1週間における感染者の年代別割合について、20代33.3%、30代21.3%と若年層で5割、40代16%、50代11.5%と50代以下で全体の9割を占めていることを報告。7月29日には都内で過去最多を更新する1日3,865人、全国では初の1万人を超える感染者が確認されるなど、感染力が強いデルタ株への置き換わりが進んでおり、首都圏だけでなく、周辺地域や全国でも感染増加傾向が顕著になっている。
 一方、ワクチン接種が進む65歳以上の高齢者の新規感染者は減少傾向で、福岡県の65歳以上のワクチン接種は1回目接種を約8割、2回目接種を約6割の方が終えたこともあり、県内の新規感染者における65歳以上の割合が、第3波の5割程度に対して、7月には約1割程度まで低下し、ワクチン接種の効果が表れていることが伺える。ワクチンはデルタ株に対しても予防効果があるとされており、例え感染しても発症や重症化を防ぐ効果もあるため、感染拡大を抑え医療の逼迫を防ぐには、あらゆる世代のワクチン接種をいかに早く、速やかに進めてくことが重要となる。
 米国などでは若年層の接種率が低迷しており、我が国でも一部のインターネットやSNS等で広がるワクチンに関する誤った情報により、若年層が接種をためらう一因となっている。妊娠中、妊娠を希望する場合や子ども(12歳以上)への接種も可能なこのワクチンについて、全世代が接種の目的を理解し、接種を進めなければこの感染症の収束は一層遠のいてしまう。政府には、若年層を始めとする全世代への一層の理解推進のために具体的なメリットや目的、戦略や目標を明確に打ち出し、継続的に発信することを強く求めたい。
 新型コロナウイルスの新たな治療法として、2つの薬を同時投与する「抗体カクテル療法」と呼ばれる軽症患者に使用する初めての薬が承認された(令和3年7月19日)。正式承認は日本が世界初で、海外の治験では入院や死亡のリスクを約7割減らすことが確認されており、対象や供給量が限られていることから、当面は入院患者にのみ使用されるが、早期治療による重症化を防ぐことが見込まれる。デルタ株の出現で感染拡大は新たな局面を迎えており、感染力の強いデルタ株には個人の行動変容が更に強く求められる。また、拡大防止にはワクチンだけでなく、治療の選択肢拡充も不可欠で、国内企業による治療薬の治験が始まるなど、今後の開発促進が期待される。

編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)