医療情報室レポート No.237 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応

2020年3月27日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510

特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応

 令和元年12月に中華人民共和国 湖北省 武漢市で発生が報告された新型コロナウイルス関連肺炎(COVID-19)は、中国を中心に全世界への感染が拡大し続けている。国内では1月16日に武漢市から帰国した中国人男性に感染が確認され、1月28日には武漢市に渡航歴がない日本人の感染が確認された。
 1月31日にWHO(世界保健機関)が緊急事態宣言を発令したことを受け、日本政府は2月1日に新型コロナウイルス感染症に対して、感染症法の「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を施行した。
 福岡市では2月20日に感染した患者が初確認され、その後市内では大きな感染拡大は見られないものの、北海道や愛知県、大阪府、首都圏など一部地域では小規模な患者集団(クラスター)が発生している。さらなる感染拡大を防止するため、徹底した予防対策が医療関係者だけではなく国民にも求められている。今回は、現時点における新型コロナウイルス感染症への対応について特集する。

●医師会・行政との連携

○感染防止に必要な備品供給状況
 新型コロナウイルス感染症の院内感染防止としてのマスク着用や手指消毒の標準予防策、接触・飛沫予防策は必須であるが、現在、市場のマスクや消毒用エタノールは枯渇し、会員医療機関からは感染防止対策に限界がきているとの切実な声が寄せられている。
 本会では福岡市にマスク等供給に関する要望書を提出、市からは備蓄分や友好都市の中国・広州市から届いたマスクの提供を受けたが、医療現場に十分行き渡る枚数確保には至らず引き続き行政への支援を求めている。

中国・広州市より届いたマスクを受け取る長柄 均 会長
(3月16日 福岡市医師会館にて )

○感染拡大・医療崩壊防止に向けて
 福岡県では医師会と行政の関係者を集めた会議を逐次開催し、感染拡大や医療崩壊を防止するために緊密な連携と情報共有に努めている。
 今後、現実的に感染拡大期・蔓延期に患者が増加した場合には、「帰国者・接触者外来」を増やしたり、医療機関の役割変更や重症患者の病床確保(重症患者入院受入医療機関の選定)等、医療提供体制の整備を行政と議論していく必要がある。

<新型コロナウイルスに関する一般的な問い合わせ先>

・厚生労働省の相談窓口
  TEL 0120-565-653
  受付時間 9:00~21:00(土日・祝日も実施)

・福岡市の相談窓口
  TEL 092-711-4126(24時間対応)

 

<帰国者・接触者相談センター(各保健所)>

・東保健所   TEL 092-645-1078
・博多保健所  TEL 092-419-1091
・中央保健所  TEL 092-761-7340
・南保健所   TEL 092-559-5116
・城南保健所  TEL 092-831-4261
・早良保健所  TEL 092-851-6012
・西保健所   TEL 092-895-7073

※市民の方で新型コロナウイルスの感染が疑われる症状がある場合は、各保健所に設置の「帰国者・接触者相談センター」へご相談ください。
通常の風邪やインフルエンザ等の心配がある場合にお近くのかかりつけ医を受診する際には、まずは電話等での事前連絡をお願いします。

●医療機関における対応

 一般の医療機関の対応として、患者に右図の症状がある場合、まずは各保健所に設置の「帰国者・接触者相談センター」に相談をすることになる。
 その結果、感染が疑われる患者は「帰国者・接触者外来」を設けている医療機関を受診し、医師が必要と認めれば「PCR検査」を実施する。
 患者が事前に相談センターに連絡せずに一般の医療機関を受診する場合や、患者が相談センターに直接相談した結果、一般の医療機関への受診勧奨が行われる場合もあり得る。

 地域の医療機関では、来院患者が新型コロナウイルスを保有している可能性を考慮して診療体制を整える必要がある。今後の地域の感染状況や医療提供体制により対応の流れは変わる可能性もあるため、本会では引き続き会員医療機関への迅速な情報発信に努めていく。

福岡市医師会発行 新型コロナウイルス関連No.23より抜粋

厚生労働省は症例定義や診断など現時点の情報を整理した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版」を3月17日付で公表しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/000609467.pdf
診療の一助としてご活用ください。

●検査・治療・予防(ワクチン)について

 新型コロナウイルスの診断には、喉から採取した粘液やたんに含まれるウイルスの遺伝子を専用の装置で増幅して検出する「PCR検査」が主流であるが、結果の判明まで約6時間かかることや検体採取時に医師の感染リスクが高いことなどの問題点がある。日本医師会では、インフルエンザなどの場合は検体採取をせずに臨床診断にて治療薬を処方することの検討を求めている。
 また、新型コロナウイルスに効く薬は現時点ではなく、感染が発覚しても熱や咳などの症状の緩和を目指す「対症療法」が治療の中心である。
 今後のウイルス対策に向けて、国や民間企業が検査キットや治療薬の開発に奔走しているが、国立感染症研究所では新型コロナウイルスの分離に成功、横浜市立大学では新型コロナウイルス患者の血液からウイルス抗体の検出に成功するなど明るい兆しもある。
 ここでは、検査・治療・予防(ワクチン)について現在の動きをまとめてみた。

項目 内容
検査 国内
  • ノロウイルス検査用の試薬をコロナウイルスに応用。従来のPCR検査の工程を一部省略することで、約1時間で結果が出る検査キットが開発完了。政府は今後活用していくことを決定。
  • ウイルスに感染したときに血液中にできる抗体を検出する「イムノクロマト法」を用いて、約15分で判定できる検査キットを研究機関向けに販売。検査時間の大幅な短縮につながることが期待。
治療 国内 新型コロナウイルスに対する治療薬を新たに開発することに着手。最短で9ヶ月での販売を目指す。
海外 既存の薬剤(抗HIV薬、インフルエンザ治療薬、吸入ステロイド喘息治療剤など)を転用できないか世界各国で検証中。中国では新型インフルエンザ治療薬の有効性を臨床試験で確認したことを発表。
予防
(ワクチン)
国内 大阪のバイオベンチャー企業がワクチンの開発に乗り出すことを表明。
海外 米国では新型コロナウイルスのワクチンの人への臨床試験を始めたことを発表。

●感染者数について

 3月11日にWHOのテドロス事務局長は「新型コロナウイルスはパンデミックと言える」と述べ世界的な大流行になっているとの認識を示した。感染者数は全世界で40万人を超え、死者は1万8千人を上回っている。感染者の過半数を占める中国が3月に入ってほぼ横ばいで推移しているのに対し、欧州を中心に世界各国へ感染が拡大している。
 国内では小規模に複数の患者が発生している例がみられ、感染拡大を最小限に抑えるための対策が引き続き必要である。

内容 感染者 死者
国内での感染事例(空港検疫分含む) 1,277  45 
チャーター便帰国者 15 
クルーズ船の乗船者 712  10 
合計 2,004  55 

内容 全国 東京都 北海道 愛知県 大阪府 福岡県
新型コロナウイルスのPCR検査総実施件数 22,858  2,087  1,821  1,987  2,350  747 
新型コロナウイルスのPCR陽性者数(チャーター便帰国者を除く) 1,254  218  167  154  150  12 
帰国者・接触者相談センターの相談件数 237,331  29,170  15,898  2,502  19,412  13,080 
帰国者・接触者外来の受診患者数 10,928  944  339  264  966  696 
帰国者・接触者外来のPCR検査実施件数 8,117  464  287  243  767  274 

※厚生労働省ホームページをもとに作成(数値は令和2年3月26日現在)

医療情報室の目

新型コロナウイルス感染症による医療崩壊は最悪のシナリオ

 新型コロナウイルス感染症は世界中に広がり、私たちの身近な生活の隅々まで影響を及ぼし、社会全体に閉塞感が漂っている。イベントの開催自粛や消費の落ち込みなどによる経済への悪影響も深刻化し、東京五輪・パラリンピック開催が延期されるなど、終息の見通しがつかない状況にある。
 2009年に発生した新型インフルエンザの後、厚労省が取りまとめた「新型インフルエンザ対策総括会議報告書」では、米国CDC(疾病予防管理センター)や各国の感染症担当機関を参考に、国立感染症研究所をより良い組織・体制に構築すること、地方衛生研究所のPCR検査体制強化などが提言されたが、果たしてこの内容は生かされているだろうか。SARSやMERSに今回の新型コロナウイルスといった「新興感染症」は、歴史を顧れば今後も発生の可能性は否定できず、グローバル化が一層進んだ現在の世界では、人・モノ・情報と共にウイルスも容易に国境を越え、感染症対策は一国のみの問題ではなく、国際的な共通認識をもってその対策に取り組まなければならない。
 我々地域医師会として最も警戒することは、新型コロナウイルス感染者が爆発的に増え、軽症者が感染症指定病院等の外来に押し寄せることでベッドや人工呼吸器などが不足し、重症患者に対応できなくなる地域の医療崩壊発生である。かかりつけ医として自院で風邪様症状を呈する患者を診察した場合は、新型コロナウイルス感染の可能性があるものとして、院内での感染予防策を遵守するだけではなく、患者に自宅療養を促したり、必要があれば、帰国者・接触者相談センターにつなぐ等、自らが感染拡大を防ぐという覚悟が必要だ。それがなされないと福岡でも感染が拡大し、最悪の医療崩壊へのシナリオに繋がることになってしまう。新たに発生したウイルスの為、試行錯誤の対応は当然で、関係各所からの支援も必要ではあるが、この困難を個々が自身の問題としてとらえ、地域医療の継続、医業の運営・継続のため、医療従事者をはじめ関係者と国民が一丸となって対峙し乗り越える意識を共有することが欠かせない。


編集
福岡市医師会:担当理事 庄司哲也(情報企画担当)・清松由美(広報担当)・松浦 弘(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)