医療情報室レポート No.279 特集:令和7年度補正予算、改正医療法のポイント

2026年3月27日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:令和7年度補正予算、改正医療法のポイント

 公定価格の診療報酬で運営する医療機関は近年の賃金上昇や物価高騰により、厳しい経営環境に直面している。医療現場への迅速な支援のため、令和7年11月28日に「令和7年度補正予算」が閣議決定され、厚生労働省関係では医療・介護分野に約1.4兆円、医療分だけでも1兆円を超える予算が計上された。
 また、2040年を見据えた高齢化に伴う医療ニーズの変化や人口減少などの課題に対応し、地域で良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の構築を目的として、同年12月5日に「医療法等の一部を改正する法律」(改正医療法)が可決・成立した。「地域医療構想の見直し」、「医師偏在対策」、「医療DX推進」を柱に多岐に亘る内容になっており、令和8年4月以降に順次施行される予定である。
 今回は「令和7年度補正予算」と「改正医療法」のポイント、医療現場への影響について特集する。

●令和7年度補正予算の主な内容

○「医療・介護等支援パッケージ」
 令和7年度補正予算に基づき、医療・介護・障害福祉分野への支援施策として「医療・介護等支援パッケージ」が策定された。
 令和8年度診療報酬改定までの緊急的な措置で、医療分野では総額1兆円規模の6事業で構成。

<「医療・介護等支援パッケージ」における医療分野の内容>

項目 金額
  ① 賃上げ・物価上昇に対する支援
  ② 施設整備の促進に対する支援
  ③ 福祉医療機構による優遇融資等の実施
  ④ 生産性向上に対する支援
  ⑤ 病床数の適正化に対する支援
  ⑥ 出生数・患者数の減少等を踏まえた産科・小児科への支援
5,341億円
462億円
804億円
200億円
3,490億円
72億円

○「賃上げ・物価上昇支援事業」
 「医療・介護等支援パッケージ」では、賃上げ支援に1,536億円、物価支援に3,805億円を計上、無床・有床診療所および病院を対象に「医療機関等における賃上げ・物価上昇支援事業」が創設。
 受給には申請が必要で、賃上げ支援の給付には「ベースアップ評価料」の届出が要件。

<医療機関等における賃上げ・物価上昇支援事業>

対象 「賃上げ支援」
支給額(※1)
「物価支援」
支給額
申請先
(実施主体)
備考
無床診療所 15万円
(1施設あたり)
17万円
(1施設あたり)
都道府県 申請手続き等は都道府県毎に異なる
詳細は福岡県ホームページ参照(※2)
有床診療所 7.2万円
(1床あたり)
1.3万円
(1床あたり)
賃上げ支援…2床以下は一律15万円
物価支援…13床以下は一律17万円
病院 8.4万円
(1床あたり)
11.1万円
(1床あたり)
厚生労働省 物価支援…救急受入、手術・分娩件数に応じた加算有(500万円~2億円)

※1 診療報酬「ベースアップ評価料」の届出、実績報告書(賃金改善報告書)提出が必要
※2 https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/iryo-juujisyasyoguukaizentousokushinhi.html

●医療法等の主な改正点

1.地域医療構想の見直し等
 2040年頃の医療提供体制を確保するため、外来や在宅医療・介護も含めた「新たな地域医療構想」の構築、オンライン診療美容医療に関する法整備を実施。

①地域医療構想の見直し(R8/10/1・R9/4/1施行)

入院だけでなく外来や在宅医療等の診療所も含めた地域医療計画、病院対象に「医療機関機能報告制度」(高齢者救急・地域急性期・在宅医療等連携・急性期拠点)を新設
②オンライン診療を医療法に定義(R8/4/1施行)

オンライン診療を行う医療機関は都道府県に届出、「⁠オンライン診療受診施設⁠」創設等の規定整備
③美容医療の規制強化(公布後2年以内)

美容医療を行う医療機関は医療安全指針の策定や事故防止対策等の安全管理措置を講じ、年1回の定期報告を義務化

2.医師偏在是正に向けた総合的な対策
 令和6年12月策定の「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」に沿った、医師不足地域医師過多区域への対応についての法的枠組みを強化。

①「重点的医師確保区域」を設定(公布後2年以内)

医療計画で「重点的に医師を確保すべき区域」を定め、保険者からの拠出金を財源に当該区域での勤務に医師手当を支給
②「外来医師過多区域」への対応強化(R8/4/1施行)

当該区域の無床診療所の新規開設に対し、事前届出制、要請・勧告・公表、保険医療機関の指定期間の短縮等の対応を実施
③保険医療機関の管理者の要件化(R8/4/1施行)

保険医療機関の管理者(院長等)になるには、保険医として一定年数の従事経験を持つこと等を要件化

3.医療DXの推進
 2030年までに電子カルテ普及率100%の達成、情報共有や組織体制など国が進める「医療DX」に関連する制度改革の法整備を実施。

①電子カルテの普及目標(公布後1年以内)

令和12年(2030年)末までに、電子カルテの普及率100%を達成するよう、医療機関業務の電子化を実現
②情報共有と二次利用の推進(公布後1~3年以内)

電子カルテ情報の医療機関での共有を実現、仮名化情報の利用・提供を可能とし、医療情報の二次利用を推進
③支払基金の組織体制見直し(公布後1~2年以内)

厚労大臣は「医療情報化推進方針」を策定、社会保険診療報酬支払基金を医療DXの運営主体となるよう、名称や組織体制を見直し

●医療機関への影響

○医師の偏在対策
 令和8年1月、厚生労働省は「外来医師過多区域」の候補となる二次医療圏9か所を公表した。
 令和8年4月以降、各知事は医療圏内の一部地域を「外来医師過多区域」として指定することができ、当該区域で新規開業する場合、原則6か月前までの事前届出を求め、地域で不足している医療機能の提供要請などが可能となる。従わない場合には施設名公表保険医療機関の指定期間短縮などの一定措置が講じられ、令和8年10月以降の新規開業から対象となる見込みである。
 福岡県では「福岡・糸島区域」が対象だが、医療機関の分布や人口規模を踏まえると、福岡市が中心区域になると考えられる。

<「外来医師過多区域」の候補地域>

  都道府県 二次医療圏名 該当市区町村
1 東京都 区中央部 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区
2 区西部 新宿区、中野区、杉並区
3 区西南部 目黒区、世田谷区、渋谷区
4 区南部 品川区、大田区
5 区西北部 豊島区、北区、板橋区、練馬区
6 京都府 京都・乙訓 京都市、向日市、長岡京市、大山崎町
7 大阪府 大阪市 大阪市
8 兵庫県 神戸 神戸市
9 福岡県 福岡・糸島 福岡市、糸島市

※厚生労働省資料をもとに作成

○地域での役割分担を明確化
 病院は「医療機関機能報告制度」、診療所は「かかりつけ医機能報告制度」を通じて自院の役割を明確化し、2040年を見据えた地域完結型の医療・介護提供体制の構築が求められている。
 現行の「地域医療構想」は二次医療圏が基本区域となるが、医療需要の変化や医療従事者の確保等、医療提供体制上の課題がある場合には必要に応じて構想区域を見直すことも可能となる。

<2040年に求められる地域医療構想のイメージ>

※厚生労働省資料より抜粋

医療情報室の目

★持続可能な地域医療提供体制へ

 物価高騰や人材不足など、医療現場を取り巻く環境は依然として厳しい状況が続いている。こうした中、全国の地域医師会や医療関係団体、医療従事者からの切実な声を背景に「令和7年度補正予算」が措置された。本予算には、医療機関の経営環境の改善を目的とした「賃上げ・物価上昇支援事業」が盛り込まれており、その活用には「ベースアップ評価料」の届出が必要である。今後は各都道府県から示される手続き等の情報を確認し、適切に申請を進めていくことが重要である。ただし、今回の措置は過年度に生じた負担増への補完的対応の側面が強いので、来たる令和8年度診療報酬改定では、新たな加算創設や既存評価の見直しを通じ、医療職を含む幅広い職員の賃上げや物価対応への更なる支援が予定されている。
 一方、2040年頃には高齢者人口がピークを迎え、医療と介護の需要は一層の増加が見込まれている。急速に進む高齢化と人口減少を背景に、今回の医療法改正は将来を見据えた医療提供体制の見直しを進める重要な転換点となる。制度改革の柱は、地域の医療機関それぞれの役割を明確化し、連携を強化する点にあり、地域の医療資源を有効に活用しながら、住民が安心して医療を受けられる体制づくりが求められている。
 もっとも、制度の整備だけで地域医療の課題が解決するわけではない。医療機関同士の信頼と連携、そして地域住民の理解と協力があってこそ地域完結型の医療提供体制は実現するもので、制度の趣旨を現場に着実に定着させつつ、地域の実情に応じた柔軟な運用を進めていくことが欠かせない。今回の医療法改正が将来にわたり持続可能で質の高い地域医療の確立につながることを強く望みたい。

編集
福岡市医師会:担当理事 江口 徹(情報企画・広報・地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)