医療情報室レポート No.276 特集:福岡市医師会 産業医マッチング事業

2025年11月27日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:福岡市医師会 産業医マッチング事業

 「産業医」とは職場で働く人々の健康を守るために活動する医師である。
 労働安全衛生法により、労働者が50人以上の事業場には産業医選任が義務づけられており、健康診断結果の評価や労働者との面談、職場環境の改善提案などを担っている。近年では過重労働やメンタルヘルス不調への対応など働き方の見直しが進められる中で対処すべき課題が広がっており、それに伴って産業医の役割も多岐に求められている。
 一方、事業者では事業場の特徴や要望に応じた産業医選任に苦慮している現状もあることから、福岡市医師会では「産業医を探している市内事業所」と「産業医活動希望の本会会員産業医」の最適なマッチングを無料で支援する「産業医マッチング事業」を令和7年7月より新たに開始した。
 今回は産業医の概要、要件と職務、そして福岡市医師会の取組みについて特集する。

●産業医とは?

 労働者の健康管理等を効果的に行うには医学に関する専門知識が不可欠で、労働者50人以上の事業場では「産業医」選任が労働安全衛生法により定められている。
 事業者は事業場の規模に応じて産業医を選任(下表)、産業医は労働者や事業者に対して専門的な助言や指導を行う、働く人の健康を守る専門家である。

<産業医の選任>

事業場の規模 選任義務
50人未満 産業医選任義務無(※1)
50~499人 嘱託産業医1名以上
500~999人 嘱託産業医1名以上(※2)
1,000~3,000人 専属産業医1名以上
3,001人以上 専属産業医2名以上

※1 労働者数50人未満の小規模事業場に産業保健サービスを無料提供する「地域産業保健センター」が支援

※2 有害業務の事業場では専属産業医が必要

※厚生労働省資料をもとに作成

●産業医の要件と職務

 産業医の要件は医師免許に加え、産業医学の専門知識について厚生労働省が定める基準のいずれかを満たす必要がある。(下記参照)
 主な職務として、労働者の健康管理、長時間労働や高ストレス者、復職者への面談、職場巡視や衛生委員会への出席、健康教育の実施など活動内容は多岐に亘る。
 医療機関で診断や治療を行う医師とは違い、産業医は企業やそこで働く人々の健康管理や健康増進が主な役割である。

<産業医の要件>※1~4のいずれかを満たすこと

  1. 厚生労働大臣が定める研修の修了者
    ○日本医師会の産業医学基礎研修※福岡市医師会でも研修開催
    ○産業医科大学の産業医学基本講座
  2. 労働衛生コンサルタント試験の合格者(試験区分:保健衛生)
  3. 大学で労働衛生を担当する教授、准教授、常勤講師またはこれらの経験者
  4. 産業医養成課程を設置する産業医科大学やその他大学で大学が定める実習の履修者

<産業医の職務>

項目 内容
①健康診断とその結果に基づく措置 ・労働者の健康管理(定期健康診断の結果確認等)
・医療機関への受診勧奨や保健指導
②治療と仕事の両立支援 ・治療中の労働者からの相談対応
・事業者への適切な意見や助言
③ストレスチェック制度や長時間労働者への対応 ・ストレスチェックの実施
・高ストレス者への面接指導
④職場巡視 ・職場環境の定期的な確認
・労働者の作業状況や安全衛生上の問題点の確認
⑤衛生委員会 ・委員会への参加と医学的な助言
・労働者の健康に関する情報共有や課題の報告
⑥健康教育 ・生活習慣病予防やメンタルヘルス等の啓発
・職場の健康意識向上

●福岡市医師会の取組み

○産業医活動の支援
 福岡市医師会では産業医資格の取得や更新のための研修会開催に加え、各医師会や行政、専門家等の連携を通じて、産業医の活動を多面的に支援している。

<福岡市医師会による産業医活動のサポート>

  • 研修会の開催
    日本医師会認定産業医制度基礎・生涯研修会(年6回)
  • 各医師会との連携
    日本医師会(全国医師会産業医部会連絡協議会)、福岡県医師会(定例会議)、市内各医師会(各区医師会・勤務医会産業保健担当理事者会)
  • 行政との連携
    管轄の労働基準監督署、福岡産業保健総合支援センター(さんぽセンター)
  • 専門家との連携
    顧問弁護士

○「産業医と事業所のマッチング事業」
 産業医資格を取得したが、活動の仕方が分からず活動機会が限られるといった産業医側の課題、産業医の探し方が分からず選任が困難という事業所側の課題があり、これら課題解決のため、福岡市医師会では「産業医マッチング事業」を令和7年7月より新たに開始。
 本会会員で本事業に登録希望の際は本会会員専用ページで登録要件等を確認。
https://www.city.fukuoka.med.or.jp/members/sangyouimatching/
 マッチングは無料で利用可能なため、産業医をお探しの福岡市内の事業所においては下記をご参照いただき是非ご利用ください。

「福岡市医師会 産業医マッチング事業」

※詳細は福岡市医師会ホームページ参照( https://www.city.fukuoka.med.or.jp/citizens/sangyouimatching/ )

医療情報室の目

★「産業医マッチング事業」の活用

 産業医の選任が義務づけられている事業所のうち選任率は約8割に留まり、未だ十分とは言えない状況である。事業者の「産業保健」に関する認知不足などの要因が指摘されるが、「産業医の探し方が分からない」、「適切な産業医を見つける手間が大きい」といった点が主な要因となっている。
 全国には日本医師会認定産業医が約7万人いるものの実際に活動している医師は約5割に留まり、「自分に合った事業所を見つけることが難しい」と感じる医師も多く、産業医としての活動を希望していても、いわゆる“1社目の壁”が依然として高い状況にある。また、Web上で検索した民間仲介業者では「様々な要求や手数料により報酬が低くなる」といった問題も指摘されている。
 これら諸課題解決に本会では前述のマッチング事業を立ち上げたところであるが、令和7年6月から「職場における熱中症対策」が義務化され、令和8年4月施行の改正労働安全衛生法では多様な人材が働き続けられる職場環境の推進に向け、現在は努力義務である50人未満の事業所における「ストレスチェック」の義務化が公布後3年以内に予定されている。さらに、2040年を見据えた新たな地域医療構想の議論では地域のかかりつけ医の役割が幅広く検討され、産業医活動もその機能の一つとして位置付けられており、社会のニーズに併せて労働者の健康管理を担う産業医の役割はこれまで以上に求められてくると考えられる。
 本会としては産業医活動の環境整備を進め、地域における産業保健体制の充実に一層取り組む所存である。

編集
福岡市医師会:担当理事 江口 徹(情報企画・広報・地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)