医療情報室レポート
No.220

2017年12月1日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:少子化社会の現状と課題

  今年公表された厚生労働省の人口動態統計によると、日本の2016年の出生数は、統計開始以来初めて100万人を割り97万6,979人となった。また、一人の女性が生涯に産む子どもの数である「合計特殊出生率」は、2016年は1.44と前年を0.01ポイント下回っており、近年続いていた出生率の微増傾向も頭打ちの様相を呈している。政府は、2020年代半ばまでに、若いカップルが望む子どもの数である「希望出生率1.8」を実現するという目標を掲げ、幼児教育の無償化など新たな対策に乗り出しているが、果たして少子化に歯止めをかけることはできるのだろうか。
 今回の医療情報室レポートでは、我が国の少子化の現状と課題を確認し、今後のあるべき方向性を考えてみたい。

●諸外国における少子化のこれまでと対策


○諸外国にみる出生率の推移 
  諸外国の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)の推移をみると、1960年代までは、全ての国で2.0以上の水準であったが、1970(昭和45)年以降、全体的に低下している。この背景には、子供の養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊の普及などの要因があったといわれているが、1990(平成2)年頃からは、出生率が伸びる国もみられるようになり、特に2015年時点では、フランスが1.92、スウェーデンが1.85と目覚ましい回復をみせている。

○出生率の回復に成功した国々の少子化対策 
これらの国の家族政策の特徴をみると、フランスでは、かつては家族手当等の経済的支援が中心であったが、1990年代以降、保育の充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で政策が進められた。スウェーデンでは、比較的早い時期から、経済的支援と併せ、保育や育児休業制度といった「両立支援」の施策が進められてきた。また、ドイツでは、依然として経済的支援が中心となっているが、近年、「両立支援」へと転換を図り、育児休業制度や保育の充実等を相次いで打ち出している。
 

●日本の少子化の要因と問題点

  我が国では、1994年に打ち出された少子化対策推進基本方針「エンゼルプラン」を皮切りに、20年余りに亘って少子化に歯止めをかけるための様々な施策が打ち出されてきた。それらの中には、フランスやスウェーデンと同じく、子育てと就労の「両立支援」を実現するための施策も盛り込まれたが、残念ながら目覚ましい出生率の改善には繋がっていない。
これは、我が国の少子化対策が、1999年に制定された男女共同参画と対をなすものとして進められてきた側面があり、共働き世帯への支援や女性の就労促進といった「両立支援」に重点が置かれたものの、専業主婦世帯への支援や、未婚率の解消に向けた政策が手薄だったからとの指摘もある。さらに、決定的な違いは、日本は欧米諸国に比べて児童手当や出産育児一時金、就学援助といった家族政策に対する財政規模が圧倒的に少ないという点であろう。右の資料でも、日本の家族関係社会支出の対GDP比(1.32%)は、フランスやスウェーデンと比べておよそ4割程度と非常に低いことがわかる。 北欧諸国では、少子化対策を含む社会保障費は、約20〜25%の消費税による収入が大きな財源となっているが、日本においては、社会保障費の財源をどう確保していくかが大きな課題となっている。
  さらに、政策面以外の問題点としては、結婚・出産に対する価値観の変化に加え、日本特有の硬直的な職場優先の企業風土や経済的不安を拭えない非正規雇用者の増加、核家族化や都市化の進行など、様々な社会環境や事情により、仕事と子育ての両立への負担感が増していることなども考えられる。
  晩婚化・未婚化について総務省国勢調査では、平均初婚年齢は1990年に男性28.4歳、女性25.9歳であったが、2015年には男性31.1歳、女性29.4歳へと上昇している。生涯未婚率(50歳時点の未婚割合)もこの25年間に男性は5.6%から23.4%へ、女性も4.3%から14.1%へと大きく上昇している。 
   

●福岡市における出産・育児への不安を軽減するための取組み

  福岡市においても、2015年度の合計特殊出生率は1.33と全国に比較して低い値で推移しており、少子化問題は深刻化している。
 福岡市では「第4次福岡市子ども総合計画(H27〜H31)」に基づき、市民のニーズに即した総合的な子ども施策を推進しているが、今年度から特に強化事業として取り組んでいる「子育て世代包括支援センター」、「福岡市不妊専門相談センター」の紹介と併せ、福岡市医師会が独自の事業として長年に亘り実施している「出産前後子育て支援事業」を紹介する。

○「子育て世代包括支援センター」

  福岡市では、2017年7月より妊娠期から子育て期における母親の悩みなどを聞き、対応を助言する相談・支援機能を備えた「子育て世代包括支援センター」を各区保健福祉センター内7カ所に開設している。
  同センターは、6歳まで切れ目ないサポートが提供されるフィンランドの育児支援サービス「ネウボラ」をモデルとした取り組みである。同センターには、ネウボラ同様、保健師や助産師、ソーシャルワーカーなどの専門職が配置され、相談支援や産後ケア、育児のサポートなどきめ細やかな支援が行われてる。
 
○「福岡市不妊専門相談センター」
  不妊に悩む夫婦を支援するために、福岡市では、2017年11月に「福岡市不妊専門相談センター」を開設した。
同センターは、医師や不妊カウンセラーなどの専門職による、妊娠に伴うからだとこころの悩みに関する一般相談や不妊・不育に関する検査や治療方法に関する専門相談に対応している。また、働いている夫婦への相談に柔軟に対応するため、平日18時以降や休日にも開設している。
 
○福岡市医師会「出産前後子育て支援事業」
  福岡市医師会では、妊娠期に抱えやすい子育てへの不安を軽減するため、産婦人科医と小児科医が連携し、2006年から「出産前後子育て支援事業」を実施している。
  具体的な流れは、まず、産婦人科医は子育てに不安を抱える妊産婦を小児科医に紹介し、小児科医は出産前の早い時期から保健相談や指導を行うことで妊婦の不安軽減を図るというもので、「妊娠期から出産・育児期まで一貫した育児支援」を行っている。
  これまでは産婦人科医と小児科医のボランティア事業であったが、昨年度より福岡市医師会で紹介料と相談料を予算化するとともに、更なる広報・啓発に努めた結果、紹介件数は過去最高となった。
  今後、本事業の更なる発展に向けては、産婦人科医や小児科医、そして行政等による密接な「ネットワーク」の構築が求められており、そのためにも「出産前後子育て支援事業」が、福岡市の行政事業として実施されることが期待される。
 

医療情報室の目

★我が国の少子化対策は「待ったなし」である。  

 
先進国では、1960年代までは一人の女性が生涯に生む子どもの数である合計特殊出生率は2.0を超えていたが、時代の変化に伴う女性の社会進出とともに晩婚化や未婚化が進み、出生率は大幅に下がっていった。
 しかし、深刻な少子化に強い危機感を抱いたフランスやスウェーデンでは、仕事と子育ての両立に重点を置く政策を推し進めるとともに、多子家庭への減税策などを実施し、出生率の改善に成功した。
 一方、我が国では、合計特殊出生率が戦後最低記録を更新した1.57ショックを機に、子育て支援のための総合計画である「エンゼルプラン」などをはじめ様々な政策を打ち出してきたが、依然として少子化という潮目が変わる気配はない。この背景には、硬直的な長時間労働を是とする日本特有の企業社会のあり方や、経済的な不安感がぬぐえない非正規雇用者の増加など様々な理由があると考えられるが、そもそも男女共同参画に基づく女性労働力の向上と少子化対策という相反する施策を同時に進めてきたことに問題はなかったのだろうか。
 我が国が将来にわたって人口を維持するためには2.07以上の出生率が必要といわれているが、2016年の合計特殊出生率は1.44となっており、安倍政権が目標値として掲げる「希望出生率1.8」にすらほど遠い状況にある。しかも、長年の少子化により子どもを産む女性そのものの人口が減っており、対策が遅れれば遅れるほど悪循環に陥り、少子化に歯止めをかけるのは難しくなるだろう。加えて、日本は超高齢化も同時に進行するという深刻な局面にあり、出生率の回復はまさに「待ったなし」の状況である。
 政府は、これまでに打ち出した少子化対策が中々功を奏しない現状を反省し、少子化の根本的対策の見直しとともに、我が国の将来に向けて抜本的な財源の確保を図るべきではないだろうか。

編 集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・岡本 育(広報担当)・一宮 仁(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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