医療情報室レポート
No.219

2017年9月29日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:福岡市における地域包括ケアシステム構築に向けた取組み

  近団塊の世代が一斉に75歳以上の後期高齢者となる2025年を目前に控え、全国の各市町村で、地域包括ケアシステムの構築に向けた取組みが本格化している。福岡市では、地域包括ケアシステムの実現に向けた短・中期的な行動計画をとりまとめた「福岡市地域包括ケアアクションプラン」を掲げるとともに、全市的な情報通信基盤となる「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」の運用を一部の機能を除いて今年度より進めている。また、これを受けて市内7つの行政区においては、地域の医師会員等が主体となって、それぞれの地域の特性に応じたシステムを構築するための様々な独自の取組みを行っている。 
 今回の医療情報室レポートでは、福岡市における高齢化の現状と将来像を示し、福岡市全体と各区における地域包括ケアシステムへの取組みなどを紹介する。

●福岡市の高齢化の状況と地域包括ケアシステムをめぐる全市的な取組み


○福岡市における高齢化の現状と今後
 
福岡市は、全国第五位の人口を抱える政令指定都市であり、全国一の人口増加率となっている。その福岡市においても高齢化の進展は不可避なものとなっており、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、65歳以上の高齢化率は24.8%となり、福岡市の人口がピークと予想される2040年には、31%に達すると予測されている。

○「地域包括ケアアクションプラン」に基づいた全市的な取組み
 福岡市では、地域包括ケアの実現を後押しするため、平成27年度から3年間の具体的な行動計画を取りまとめた「福岡市地域包括ケアアクションプラン2015〜2017」を策定し、同プランに基づき、関係機関・団体と行政が連携して、様々な取組みを進めている。

○「福岡100」−人生100年時代の健寿社会モデルを作る100のアクション−
 福岡市では、100歳まで生きるのが特別でなくなる「人生100年時代」の到来を見据えた新たな取組みとして今年3月に「福岡100」を策定した。これは、誰もが100歳まで健康で自分らしく生き続けられる持続可能な社会システムをつくるため、2025年までに100のアクションを実践するというもので、現在、ホームページ上で7つのアクションが公開されている。なお、アクションの一番目には、早期に実現を目指すべき重要な取組みの一つとして「地域包括ケア情報プラットフォーム」が取り上げられている。
 

●医師会と行政(福岡市)による取組み

 ○医師会と行政(福岡市)の協議の場
 
福岡市医師会では、本会と福岡市で構成する福岡市在宅医療協議会の下に「地域包括ケアシステム推進委員会」を設け、平成28年6月から現在までの間に計5回の委員会を開催し、在宅医療を行う医師の確保や病診連携・診診連携体制構築など在宅医療・介護連携の推進についての具体的な取組み等を検討している。具体的には、千葉県柏市や横須賀市の先進事例を参考に、在宅医療の24時間体制を補完する「代診医システム」の確立や、市内7つの行政区を複数のブロックに分け、その拠点となる病院を通じて在宅医の支援や情報交換の場を提供する「ブロック支援病院」体制の構築など、地域の在宅医の負担軽減を図るための体制等を構築している。

【推進委員会の具体的な取組み】
@在宅医療に携わる医師を増やすための医師間の関係づくり
A在宅医を支える急変時受入体制づくり
B代診医システムの確立
Cブロック支援病院体制の構築 など
 
   
○各区(医師会と行政)による取組み   
行政区 人口(高齢化率) 各区の地域包括ケアシステム構築に向けた取組み
東 区 295,816人
(21.6%)
いち早く「地域完結型医療」を提唱してきたことや「福岡東在宅ケアネットワーク(H21〜)」の構築、モデル事業(H25・26)の実施などにより「医療・介護の連携強化」を進めている。また、区内4ブロックの内、東区南部においては、東区南部在宅ネットワークが構築され、代診医制度も始まっている。
博多区 216,669人
(18.4%)
多職種連携推進のため、博多区医師会主催により多職種研修会を年3回、市民啓発活動を年1回行っている。医療連携推進のため、区内を3ブロックに分けブロック支援病院を選定し、ブロック会議を開催している。また、認知症初期集中支援チーム(医療職、介護職、専門医の計3名で編成)を設置し、モデル事業も実施している。
中央区 179,390人
(18.6%)
医療・介護の多職種の任意団体「中央区医療と介護のまちづくりプロジェクト」と「地域ケア会議」を中心にシステム作りを進めており、多職種連携研修会の開催、在宅医療に関する市民啓発や社会資源情報ブックの活用等を推進している。
南 区 252,853人
 (22.3%)
三師会を中心に医療と介護の多職種間での連携の取組み等が活発に行われている。南区在宅医療ネットワーク(H11〜)や南区認知症診療ネットワーク(H24〜)などを独自に構築しており、平成28年には、多職種の専門職による医療介護専用SNS(メディカルケアステーション)を導入。現在は、南区あんしん病院ネットワーク(在宅患者の緊急入院後方支援システム)の構築を目指している。
城南区 122,752人
(23.5%)
区の重点事業として「認知症になっても安心して暮らせるまちづくり事業」(H20〜28)を実施。   
在宅医療・介護連携においては、区内を3ブロックに分け、多職種連携研修会等を開催している。
早良区 214,692人
(22.4%)
多職種連携研修会を開催している。また、認知症初期集中支援チーム(医療職、介護職、専門医の計3名で編成)を設置し、モデル事業も実施している。
西 区 202,304人
(22.4%)
区内を3ブロックに分け、多職種連携研修会を開催している。また、認知症に関する市民啓発セミナー等を開催している。

●地域包括ケアシステム構築の先進事例

  全国で地域包括ケアシステムの構築が進められる中、既に理想的なシステムの基盤を作り上げ、一定の成果を見せている地域も存在するが、在宅医療や多職種連携のモデルとなる事例はあまり多くない。今回は、その中から比較的人口規模が中程度の地域で、行政と医師会の協働による取組みを行っている「柏モデル(千葉県柏市)」をとりあげてみた。 ※厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例」より

地域特性

  柏市:人口 404,949人、65歳以上高齢化率 21.86%

取組みのポイント    

○行政が中心となって、多職種(医師会等)と連携し、在宅医療を推進。

○医療・看護・介護の関係団体が、多職種連携のルール作り等について議論するために会議を開催し、関係作りやルール作りを進める。(右図)

○以下の取組みを推進
  ・在宅医療従事者の負担軽減の支援
   (主治医−副主治医システムの構築、 医療・看護・介護の
   連携体制の確立等)
  ・効率的な医療提供のための多職種連携
   (在宅医療チームのコーディネート、在宅医療を行う診療
   所・訪問看護 の充実)
  ・在宅医療に関する地域住民への普及啓発
  ・在宅医療に従事する人材育成(在宅医療研修等の実施)
 

医療情報室の目

★地域包括ケアシステムの中心的役割を期待されるのは、在宅医療を担う地域の「かかりつけ医」である。

 
福岡市では、医師会と行政による協議会・委員会を設置し、地域包括ケアシステムにおける医療を中心とした多職種連携体制の完成を急いでおり、各行政区においては、在宅医療支援機能等を有する病院を中心とした地域ブロック単位の連携体制が整備されつつある。しかしやはり、地域包括ケアシステムの中心的役割を期待されるのは、在宅医療を担う地域の「かかりつけ医」だろう。今回、本レポートで取り上げた「柏モデル」は、医師会と行政(柏市)の協働による在宅医療の推進や医療と介護の連携を進めた取組みだといえる。その連携体制が整備できた鍵のひとつは、医師会主導による研修の積み重ね等により、診療所医師の在宅医療やケアに対する意識の醸成が図られ、その医師らがリーダーシップをとりながら、地域医療拠点のための地域連携モデルづくりに積極的に関わり、医療・介護の専門職間の「顔の見える関係」づくりを築いていったところにある。地域包括ケアシステムの先進事例というのはいくつもあるが、それらの中で、在宅医療や多職種連携のモデル的事例というのは数少ない。まずは、かかりつけ医一人ひとりが、医療をめぐる国の施策や地域の実情に関心を持つとともに、地域包括ケアシステムにおける連携体制の中心的存在であるという意識を持つ必要があるだろう。2025年までに残された時間は僅かしかない。

編 集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・岡本 育(広報担当)・一宮 仁(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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