医療情報室レポート
No.213

2016年11月25日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:地域医療連携推進法人制度について

  人口減少や医師不足にあえぐ地方都市が急増する中、複数の医療法人等が容易に再編・統合することを可能とする新しい仕組みである「地域医療連携推進法人制度」が平成29年4月からスタートする。この制度は、複数の医療法人等が「地域医療連携推進法人」と呼ばれる新たな法人の下に参画することで、グループとしての経営の効率化や病床の融通等を図ることを可能とし、地域医療構想を達成するための一つの選択肢としても期待されているものである。
 本制度をめぐっては、厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」でおよそ1年間に亘り議論され、平成27年2月に「取りまとめ」が公表された。その中身は、参加法人の横の連携や協調を前面に打ち出し、あくまで非営利性を前提とする内容であるが、もともとの始まりは、政府の成長戦略の一環として検討が開始された経緯もあり、医療の営利産業化に繋がる可能性を危惧する声もある。
 今回の医療情報室レポートでは、特に非営利性の確保という点に焦点をあて、「地域医療連携推進法人制度」のこれまでの議論と仕組みを整理してみた。

●“地域医療連携推進法人制度”創設の背景と経緯

  「地域医療連携推進法人制度」の枠組みが最初に示されたのは、平成25年8月に、社会保障制度改革国民会議がまとめた報告書の中で、「非営利を前提とする“ホールディングカンパニー型(持ち株会社型)”のような法人間の合併等を速やかに行える仕組みが必要…」と記されことが始まりとされている。 
 その後、平成26年1月に開催されたダボス会議で、安倍総理が「日本にもメイヨー・クリニック※のような、ホールディングカンパニー型の大型医療法人ができてしかるべき」と発言。政府は「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」の創設を日本再興戦略に盛り込むなど、当初は成長戦略を強く意識した形で制度の検討がはじまった。
 しかし、制度の具体的設計を引き渡された「医療法人の事業展開等に関する検討会」では、“非営利性”の担保を確保すべきとの視点から議論が交わされ、次第に地域医療を立て直すための手段としての役割が強調されていった。
 制度の名称をめぐっても、検討会の座長自らが「非営利ホールディングカンパニー」という名称への違和感を示したため、いくつかの案を経て、最終的には「地域医療連携推進法人」に落ちつき、平成27年2月に「地域医療連携推進法人制度(仮称)の創設及び医療法人制度の見直しについて」が取りまとめられ、大方の方針が示された。
 

●制度の概要と“非営利性”の確保

  平成27年2月に「医療法人の事業展開等に関する検討会」が公表した「取りまとめ」では、地域医療連携推進法人制度の概要が示され“非営利性”を担保するための様々な方策が設けられている。ここでは“非営利性の確保”という点に注目しながら制度のポイントを紹介する。
 
○参加法人の要件と地域医療連携推進法人の“法人格”について  
  地域医療連携推進法人に参加できる法人(社員)は、医療機関等を開設する医療法人など複数の非営利法人(医療法人、公益法人、社会 福祉法人、学校法人、国立大学法人、独立行政法人、自治体など)のほか、地域包括ケア推進に資する介護事業等を行う非営利法人も可能とされているが、医療系法人が2つ以上あることが最低条件とされており、例えば、1つの医療法人と1つの社会福祉法人の組合せでは認められない。
  また、地域医療連携推進法人の法人格は、医療法人ではなく「一般社団法人」とされた。これは、医療法人に限らず複数の非営利法人の連携を目的とするための措置と考えられるが、法人の理事長は医師でなくても可能であるため、非営利性の担保という点では、若干の懸念材料といえるのかもしれない。ただし、法人の設立にあたっては、医療法上の非営利性を確保するための基準を満たしている必要があり、各都道府県医療審議会の意見に沿って、都道府県知事の認定を受けなければならないとされている。 
○非営利性の確保に向けたガバナンス
検討会が公表した「取りまとめ」では、非営利性を担保するため、以下のようなガバナンスが設けられている。
ただし、議決権については、1社員1議決権以外の在り方を定款で定めることも可能とされ、新型法人に委ねられている。

・営利法人役職員を役員にしないこと
・剰余金の配当は禁止
・「地域医療連携推進協議会」の意見を尊重すること
・社員の議決権は各1個(1社員1議決権)
 (ただし、不当に差別的取扱いをしないことを条件に定款で定めることが可能)
・都道府県が都道府県医療審議会の意見に沿って法人の認定および重要事項の認可・監督等を行う
 
 

●“地域医療連携推進法人制度”これからの展望

  現在、山形、岡山、鹿児島などをはじめ、約30の地域で、地域医療連携推進法人の設立に向けた検討が進められているが、これらは、いずれも人口減少や医師不足が顕著な地方都市とみられており、中には、長年に亘り患者獲得競争を繰り広げてきた病院同士が検討を進めている地域もある。
 一方、福岡市のように今後高齢化が進み、医療資源が集中する都市などでは、経営余力のある医療機関同士が利害関係を乗り越えてまで統合するとは考えにくく、地域医療連携推進法人は広がりにくいのではないかとみられている。
 なお、岐阜県では、地域医療構想の策定において、地域医療連携推進法人の導入も視野に、診療科や病床区分のすみ分けなどを検討する研究会を立ち上げるとしている。そもそも、地域医療連携推進法人は、地域医療構想を達成するための選択肢と位置付けられていることから、このように行政が主導するケースが広がる可能性もあるし、制度の普及に向けて、今後診療報酬等のインセンティブが付与されることも考えられるかもしれない。                      

医療情報室の目

★地域医療連携推進法人制度が、医療の営利産業化の「火種」となってはならない。

  
地域医療連携推進法人制度は、当初、医療から介護、福祉まで含めた、巨大な株式会社のホールディングカンパニーを想起させるものとして大きな注目を集めたが、最終的には厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」において、非営利性を前面に打ち出した内容となった。
 しかし、検討会の議論の過程を注視してきた日本福祉大学長の二木立氏は、「検討会が公表した「取りまとめ」には、将来的な医療の営利産業化につながる(3つの)火種が残っている」と自身のニューズレターの中で指摘している。それは、今回の新型法人が一般社団法人とされたことで、理事長が医師であるとする縛り(原則)が外された点、そして、国家戦略特区において特例的な「メガ医療事業体」が認可されてしまう可能性を秘めている点、新型法人の関連事業者への出資が医療の外部に流出する可能性が否定できないという点であるが、これらの懸念については、地域医療連携推進法人が医療の営利産業化に利用されることのないよう、今後の動向を注視するしかないだろう。 [二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻129号)]
 地域医療連携推進法人は、当面、それほど動きは広がらないかもしれないが、人口減少や医師不足にあえぐ地方都市では、いずれ、病院の生き残り戦略の一つとして重要なツールになる可能性はある。しかし、それは、自院が生き残るためだけの術ではなく、地域住民への適正な医療提供体制の確保という大切な役割があることを忘れてはならない。常に地域の実情を把握し、どのような医療提供体制が求められているのかを見極めたうえで、自院の体制を決定していくことが求められる。

編 集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・岡本 育(広報担当)・一宮 仁(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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