医療情報室レポート
No.208

2016年1月29日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:これからの在宅医療を考える

  2025年の医療・介護提供体制のあるべき姿を目指し、「地域包括ケアシステムの構築」と「地域医療構想の策定」を2本柱とした大きな施策が国のリーダーシップのもとに進められている。その施策の実現の方向性をコントロールする2016年度診療報酬改定が本体部分はプラス0.49%で決着したことを受け、中医協で改定の個別項目の算定要件や点数設定に関する議論がこれから本格化していく。
 超高齢社会を見据え「治す医療」から「治し支える医療」への変革が求められている中、在宅医療を重視した国の施策は進みつつあるが、受け皿となる多職種間の円滑な連携やかかりつけ医の在宅医療への積極的な参加など、地域における体制強化に向けた課題は多い。 今回の医療情報室レポートでは、土台となる在宅医療提供体制のあり方を改めて確認するとともに、福岡市行政の地域包括ケアシステムへの取り組みや、昨年11月に発足した専門医会「福岡市在宅医療医会」を紹介する。

●在宅医療推進に向けた2016診療報酬改定の方向性

  1月13日、中医協は、2016診療報酬改定をめぐるこれまでの議論を整理した「現時点の骨子」を取りまとめ公表した。骨子は、「地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点」をはじめとする4つの視点で項目立てられており、かかりつけ医の機能評価や在宅医療の評価見直しなど、在宅医療の推進を後押しするための項目が複数盛り込まれている。
 
<かかりつけ医機能、訪問診療、看取りに関する項目(医科)>

○主治医機能の評価推進
 
・地域包括診療料又は地域包括診療加算の対象範囲を、脂質異常症、高血圧症、糖尿病以外の疾患を有する認知症患者に拡大
・小児外来医療について、継続的に受診する患者の同意の下、適切な専門医療機関等との連携により継続的かつ全人的な医療を行うことを総合的に評価

○在宅時医学総合管理料・特定施設入居時等医学総合管理料の見直し 
ア 月1回の訪問診療による管理料の新設
イ 重症度が高い患者の評価の拡充
ウ 「同一建物居住者の場合」の定義の見直しと同一建物での診療人数による評価の細分化

○在宅患者訪問診療料に係る「同一建物居住者の場合」の評価の見直し 

○在宅医療の提供体制を補完するための外来応需体制を有しない在宅医療を専門に実施する診療所を評価 
 
○休日の往診及び十分な看取りの実績を有する医療機関に関する評価の充実 

●福岡市における地域包括ケアシステムの推進状況と今後の取り組み

 福岡市では、地域包括ケアシステムの推進に向けて、各分野の関係機関・団体の代表者で構成する「福岡市地域包括ケア推進会議」を設置し分野ごとに4つの「専門部会」を設置している。この推進会議及び専門部会には、福岡市医師会も加わり、福岡市当局とともに現状や課題、具体的な取り組みについて検討を重ねており、2015年3月に、3年間の検討の成果をまとめた「福岡市地域包括ケアアクションプラン2015〜2017」を策定した。現在は、同アクションプランに基づき、福岡市独自の地域包括ケアシステム実現に向けた取り組みを推進しているところである。

・「地域包括ケアアクションプラン」の取り組みを展開
  「アクションプラン」に基づき、関係機関・団体と行政が連携   して、地域包括ケアの実現に向けた取り組みを推進。

・「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」の構築
  福岡市が保有する医療・介護レセプトや健診、要介護認定   などに関する各種データを集約し、ビッグデータ分析を可能に  すると同時に、これらの情報を関係事業者間で共有し、効率  的な医療・介護サービスを支援するシステム。さらに本システ  ムでは、同意を得た患者の身体・生活情報等を多職種間で   共有できる福岡市独自の連携ツールを導入する予定。     2016年度のテスト運用後、2017年度より本格稼働の予定。

・「認知症ケアパス」の作成
  認知症の状態に応じた適切なサービス提供の流れ等を示    すツール(認知症ケアパス)として、本人、家族向けのハンド   ブックと啓発リーフレットを作成中。2016年度以降、普及活動を展開予定。


・在宅医療・介護の連携の推進
  切れ目のない在宅医療・介護の提供体制の構築に向けて「福岡市  在宅医療協議会」を定期的に開催。今後、同協議会にて提供体制のモデル案などを検討。また、在宅医療・介護連携に関する相談支援を目的とした「在宅医療相談窓口」を福岡市医師会に開設中。  



 

●在宅医療で求められる“かかりつけ医”と地域医師会の役割

○在宅医療で求められる“かかりつけ医”の役割
 
在宅医療では、様々なシーンにおいて多職種間の連携が必要となるが、病院・診療所については、その全ての場面で重要な役割を担わなければならない。今後、高齢者の在宅医療のニーズが高まる中で、地域のかかりつけ医には様々な疾病に対応できる総合的な診療能力に加え、患者の生活機能やQOLの維持・向上支援、また場合によっては、専門医への紹介や症状改善後の受け入れといった幅広い対応が求められる。また、多職種との連携・調整についても、地域の医療・介護資源の把握や、強いリーダーシップに基づいたマネジメント力が必要になってくるだろう。

○円滑な「病診連携」、「診診連携」を実現する地域医師会の役割  
在宅医療では、一人の開業医が24時間365日対応することは事実上困難であり、地域における複数の医師(医療機関)との連携が必要となってくる。地域医師会は行政との連携だけでなく、様々な機会を通じて会員同士の密接な交流を図り、診療科を超えたネットワークを構築しており、円滑な在宅医療の推進においても非常に重要な役割を果たす存在といえる。

●診療科を超えた医師による在宅医療専門組織 −福岡市在宅医療医会の発足−

  地域包括ケアシステムの構築と在宅医療の質の向上を図るため、在宅医療を行う“かかりつけ医”が相互に顔の見える関係を深め連携強化を図るための基盤となる「福岡市在宅医療医会」が昨年11月に発足した。現在、140名の医師の入会申込があっているが、内科系以外の開業医や勤務医も多数参画しており、診療科を超えた在宅医療の専門組織としては、全国でも例をみない規模の組織といえるだろう。医会は、福岡市における充実した在宅医療提供体制の実現を目指し、在宅医療調査研究事業や医療従事者の連携促進強化事業などに取り組む。

      
                      

医療情報室の目

★“かかりつけ医”こそが在宅医療の中心的役割を担っている。
 
平成28年4月から外来応需体制を有しない「在宅医療を専門とする診療所」の開設が認められる見通しだ。これは、今後、自宅での療養を余儀なくされる要介護高齢者が増加することなどを背景に、訪問診療の担い手を増やすために認められるものといえるが、その役割は、あくまでも「かかりつけ医の補完」であることを明確にしておきたい。在宅医療をめぐっては、かかりつけ医や多職種との連携を無視した訪問診療、症例による患者の選別、特定の施設の患者のみを診療の対象とするなどの事例が散見され、在宅医療の質の確保が課題とされてきた。しかし今回、在宅医療を専門とする診療所の新設にあたっては、これらの事例を踏まえて厳格な開設要件の導入が議論されており、今後は地域のかかりつけ医・多職種との連携を前提とした、患者の視点に立った質の高い在宅医療の提供が期待される。ただし、円滑な連携を可能とするためには、地域の在宅医療に関わる医師・多職種が、日頃から「顔の見える関係」を築いておく必要がある。そのためには、在宅医療を専門に行う医師にも地域医師会への加入を通じて、会員同士のネットワークづくりに参加していただくことが望ましいといえるだろう。地域医師会は、それぞれの地域の特性に見合った在宅医療提供体制の構築に向けて、行政とともにその社会的責務を果たしていかなければならない。


編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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