医療情報室レポート
No.206

2015年11月27日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:『マイナンバー』と『医療等ID』

 すべての国民に12桁の番号を付与する『マイナンバー制度』が、平成28年1月より、いよいよ開始される。現在、マイナンバーの番号通知カードが全国の各世帯に順次配付される一方で、民間企業は従業員のマイナンバー収集やシステムの改修等に追われているが、マイナンバーを含む「特定個人情報」の取り扱いには様々な安全管理措置を講じることが求められており、病院、診療所もその例外ではない。
 マイナンバーは、当面、「社会保障」、「税」、「災害対策」の3分野に限り利用されるが、今後、金融や医療、民間での活用も視野に入れられている。特に、医療・介護分野における利用に関しては、11月18日に開催された厚生労働省「医療等番号制度の活用等に関する研究会」において報告書案がまとめられ、専用のデジタル符号となる『医療等ID』を導入し、2018年度より、マイナンバー制度のインフラである「個人番号カード」を使って医療保険資格のオンライン確認等に利用するなどの具体案が示された。
 今回の医療情報室レポートでは、マイナンバーを取り扱う上で、医療機関等の事業所において特に留意すべき点に焦点をあてるとともに、厚生労働省の研究会がまとめた「医療等ID」の概要等を紹介する。

●事業所における「安全管理措置」と求められる対応

 ○マイナンバーと「特定個人情報」
いわゆる「個人情報」とは、氏名や住所、生年月日など個人を特定できる情報を指すが、これに個人番号(マイナンバー)が含まれると「特定個人情報」として取り扱われる。特定個人情報に関しては、従来の個人情報保護法に比べ厳格な規定や厳しい罰則が設けられており、ガイドライン等において、特定個人情報が漏えいすることのないよう全ての事業所に対し必要な安全管理措置(表1)を講じるよう定められている。また、新たに設立された組織「特定個人情報保護委員会」は、事業所に対する立入検査や資料提出要求等の強い権限を有している。
 
マイナンバーは、今後も制度や施行規則等の改正が予定されているため、事業所は、特定個人情報保護委員会のホームページ(http://www.ppc.go.jp/)等を参考に、法令やガイドライン等の変更を常に確認しておく必要があるだろう。
 
 
○「マイナンバー」の利用範囲は限られている

 マイナンバー制度において、事業所は、主として源泉徴収票や社会保障の手続き書類に従業員等のマイナンバーを記載し関係機関に提出しなければならない。ただし、収集したマイナンバーの利用範囲は厳格に定められており、例えば、職員コードをマイナンバーに代えて管理を行うことなどは利用範囲外の取り扱いとなる。さらに、マイナンバーを取り扱う担当者等が、万一これを不正に利用した場合は、厳しい刑事罰が個人、事業所の両方に併科されることとなっている。
 
   
 ○「個人番号カード」は預からない
 
希望する国民には、マイナンバーが記載された「個人番号カード」が発行され、「身分証」として様々なサービス窓口での利用が可能となるが、事業所が、カードをコピーしたりマイナンバーを書き写す等の行為は利用目的外として禁止されている。
 医療機関等においては、今後“医療保険のオンライン資格確認”の手続きが始まった場合に、個人番号カードを窓口に提出されるケースが想定されるが、厚生労働省の研究会の報告書では、医療機関窓口でICチップの情報をカードリーダーで読み取る際も、カードを預からないよう留意することとしている。
 

●諸外国に見る『共通番号制度』の運用と問題事例

 先進国の多くはいわゆる「国民番号制度」を導入しており、その歴史も長い。しかし、国連の電子政府に関するランキングで首位を保っている韓国では、繰り返されるサイバー攻撃により殆どの国民の住民登録番号が既に流出しているともいわれている。また、アメリカは戦前から社会保障番号を導入しているが、パソコンが普及し始めた1990年代頃から、社会保障番号を利用した「なりすまし」犯罪等の常態化が大きな社会問題となっており、さらに今年6月には、米連邦政府への不正アクセスにより2150万人分もの社会保障番号が流出するといった大規模な事件も発生している。このように、多くの分野で共通の番号を用いる“フラットモデル”のアメリカや韓国では、民間企業においても共通番号が広く利用されている反面、情報漏洩のリスクが高まっているといえる。
 @“フラットモデル”(米国、カナダ、オランダ、韓国など)
多くの分野で共通の番号を用いる。      
→ 利便性はあるが情報漏えいの影響が大きい。

A“セパレートモデル”(フランス、ドイツ、イギリスなど)
分野別に異なる番号を使用し、番号間には関連性をもた
ない。
→ 利便性は少ないが、情報漏洩の影響も少ない。

B“セクトラルモデル”(オーストリア)
分野別に異なる番号を用いるが(番号間関連性あり)国民
は1つの番号を使用する。
→ 利便性を確保しつつ情報漏えいの影響も少ないが
   コストが高くシステムの構築が難しい。
      

●『医療等ID』の概要と今後の方向性

  今年9月に成立した改正マイナンバー法では、医療等分野に関し、自治体における特定健診や定期予防接種の履歴の管理等にも活用されることとなったが、現時点で、医療現場において患者のマイナンバーを取り扱うことは想定されていない。しかし、厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」がまとめた報告書(案)では、2018年度から医療機関で「医療等ID」を導入し医療保険のオンライン資格の確認や地域医療連携、研究分野への活用を図るなどの具体案が示されており、今年12月に最終報告がとりまとめられる見込みだ。
 
  【 研究会報告書(案)の論点 】

○個人番号カードの公的個人認証を活用した仕組みを基本と
  して、医療機関等の受診時には、個人番号カードを利用し、
  オンラインの資格確認を行う。

○原則として、変更しない、見えない電磁的符号「キーとなる識
  別子(ID)」を国民一人ひとりに発行する。

○IDの生成・発行及び取りまとめ機関は、支払基金と国保中央
  会が保険者の委託を受けて行う。

○カードの普及が進むまでの措置として、健康保険証の券面に
 「資格確認用番号(仮称)」(保険者を異動しても変わらない見
 える番号)を記載する。

○各地域の医療連携ネットワークを超えて情報連携する場合、
 患者本人を一意的に把握する「地域医療連携用ID(仮称)」
 を発行する。
      
                      

医療情報室の目

★患者等の個人情報の取扱いに更なる配慮が求められる
 
いよいよ10月から国民への通知が始まった我が国のマイナンバー制度であるが、9月に公表された内閣府の世論調査では、マイナンバー制度で個人情報が漏洩、不正利用されることへの懸念を持つとの回答が72.5%にものぼった。マイナンバーは、当面、社会保障、税、災害分野での公的な利用に限られているが、今後は、国民の利便性向上を理由に、医療や金融、民間も含め広く利用されることが見込まれており、国や関係機関には、国民が安心し納得できる仕組みの構築が求められる。
 
一方、医療・介護分野に関しては、11月18日に開催された厚生労働省の「医療等番号制度の活用等に関する研究会」で、一定の方向性がまとめられ、マイナンバーとは別の扱いとなる医療専用の「キーID」を全国民に付与し、2018年度から段階的に、医療保険資格のオンライン確認や地域医療連携システムに利用することなどが示された。この仕組みにより、電子的な面での安全性はある程度担保されるのかもしれないが、今後、医療機関等の窓口では、従来の健康保険証に代わり「個人番号カード」を扱う場面が想定されるため、医療現場個々における運用面での対策や教育といったことが欠かせなくなってくるものと思われる。
 
いずれにしても、すべての国民が変更できない一意の番号を持つということにおいては、関連する様々な個人情報が常に漏洩のリスクに晒されてしまうことを忘れてはならない。私たち医療関係者が預かる患者の個人情報は、お互いの信頼関係を基盤として成り立っているものであり、これまで以上にそのことを意識しながら、患者のプライバシーや個人情報の取り扱いに留意していく必要があるだろう。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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