医療情報室レポート
No.194

2014年6月27日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
印刷用

特集:在宅医療への課題と期待〜その1〜

 今月18日、医療法と介護保険法改正案を一本化した「医療・介護総合推進法」が成立した。この法案は、“団塊の世代”が後期高齢者となる“2025年問題”などを見据え、医療・介護のあり方を一体的に見直そうというものである。介護分野では、高齢者の自己負担割合の引き上げなど負担増・給付縮小の厳しい内容が並ぶが、医療分野では、医療提供体制の見直しに向けた制度、施策面に踏み込んだ内容となっている。一方、先だって今年4月に実施された診療報酬改定では医療機関の機能分化と連携、在宅医療の推進を踏まえた「地域包括ケア病棟入院料」など複数の項目が新設されており、医療・介護の改革への動きが本格化しているといえる。
 医療情報室レポートでは、在宅医療をテーマに2回に亘り特集を組むこととし、今号では、2025年の節目に向けて動き出した国の施策の流れなどについてまとめてみた。

●これからの超高齢社会像と様々な問題


         現状のままでは様々な問題が生じる
   2015年  2025年  2055年    
 65歳以上人口  3,395万人(26.8%)  3,657万人(30.3%)  3,626万人(39.4%)
 75歳以上人口  1,646万人(13.0%)  2,179万人(18.1%)   2,401万人(26.1%)
 年間死亡者数   131万人  153万人  155万人
          

●医療提供体制の大改革 −「医療・介護総合推進法」の成立−

  今月18日、医療法と介護保険法改正案を一本化した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」(医療・介護総合推進法)が成立した。特に医療分野に関しては、より実効性のある改革を進めるため、地域の医療提供体制づくりに対する都道府県の権限が強化された。ここでは、医療・介護総合推進法の医療分野のポイントを取り上げてみる。

 ■ 医療・介護総合推進法のポイント(医療分野)

  ○病院(ベッド)の役割分担の見直し
    病床を「高度急性期」、「急性期」、「回復期」、「慢性期」の4区分に再編し、機能を明確にする。(図1)
  ○「病床機能報告制度」の創設(平成26年度〜)
    医療機関は上記病床4区分のいずれかを自主的に選択し、構造設備や人員配置等に関する内容を、
    病棟単位で都道府県に報告する義務を負う。(図2)
  ○「地域医療構想(ビジョン)」の策定(平成27年度〜)

    都道府県は、医療機関からの報告等を基に医療需要などを推計し、地域に適した医療構想を策定。
    都道府県知事は、病床機能の転換などを要請できる権限を持つ。(図2)
  ○新たな財政支援制度の創設
     消費税増収分を財源として活用した基金(904億円)を都道府県に設置し、病床の機能転換や在宅医療
    の推進など必要な事業の支援を行う。

 2025年に向けた病床再編のイメージ(図1)    「病床報告制度」と「地域医療構想」のイメージ(図2)
     
 出 典:H23.11 中央社会保険医療協議会総会 厚労省提出資料を基に作成    
 
                 

●連携促進のための2014診療報酬改定の概要と課題

○地域包括ケア病棟、地域包括ケア病棟入院料・同入院医療管理料1(2,558点/日)の新設
    【目  的】   「亜急性期病棟」の後継として新設
     【機  能】  急性期後の受け入れ、緊急時の受け入れ、在宅復帰支援など
    【施設基準】 在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院として年3件以上の在宅患者の受け入れ実績
             二次救急医療施設の指定
            救急告示病院       ※いずれかの要件を満たす
    【課  題】  医療法上の「急性期」と「回復期」のいずれに該当するのか、医療法と診療報酬での整合性が不明確
○「地域包括診療料」、「地域包括診療加算」の新設
    外来の機能分化の更なる推進の観点から「主治医機能の評価」として新設。ただし、24時間開局(対応)している薬局は極め
    て少数であることや常勤医師3人以上の確保は人的、経済的にハードルが高いことなどが指摘されている。
算定区分  地域包括診療料(1503点/月):200床以下の病院、または診療所 地域包括診療加算(20点/回):診療所のみ 
 算定要件  複数の慢性疾患(高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾患のうち2つ以上)をもつ患者に対し、健康管理や服薬管理等、継続的な医療を行う  
 施設基準等   ※以下すべての要件を満たす病院 ※以下すべての要件を満たす診療所   ※以下いずれかの要件を満たす診療所
 院内処方を原則とし、院外処方の場合は24時間薬局と連携すること 
@救急告示病院
A地域包括ケア病棟入院料または
地域包括ケア入院管理料算定
B在宅療養支援病院の指定
@時間外対応加算1算定
A常勤医師3人以上確保
B在宅療養支援診療所の指定

@時間外対応加算1算定
A常勤医師3人以上確保
B在宅療養支援診療所の指定
 
                             

●在宅医療の質の確保に向けて−不適切事例に対する国の対応−

  昨年、高齢者住宅の事業者などが入居者を医療機関に紹介し、紹介料を徴収するといった不適切事例、いわゆる「患者紹介ビジネス」が相次いで発覚したことを受け、国は、療担規則の一部改正や2014診療報酬改定での減点など厳格な対策を図った。しかし、これは、在宅医療に熱心に取り組む医療機関に大きな影響を与える一方、施設側においても医師の訪問診療の撤退などが懸念され、在宅医療の推進に逆行しているとの指摘もある。今後、在宅医療に関わる施設やサービス全体を見据えた質の確保に向けて取り組んでいくことが求められる。

○保険医療機関及び保険医療養担当規則等(療担規則)の一部改正による対応
  保険医療機関及び保険医療養担当規則等の一部を改正する省令が、平成26年4月1日から適用された。今般の改正では、医療機関等が、事業者から患者を紹介してもらった対価として金品を提供し、自己の医療機関において診療を受けるように誘引することなどが禁止された。 
○同一建物への同一日の複数患者に訪問診療等をした際の点数引き下げと訪問診療料の要件厳格化 
 診療報酬の種類  区分  改定前  改定後  
 在宅時医学総合管理料
(機能強化型在支診・病で処方せんあり無床の場合) 
 同一建物  4,200点  1,000点  
 同一建物以外   4,200点  4,200点     
 訪問診療料  同一建物以外  830点  833点
 特定施設等  400点  203点
 特定施設以外の同一建物   200点  103点
  診療時間・場所・人数の記録を診療報酬請求書に添付すること  

○「機能強化型在宅療養支援診療所・病院」の実績要件引き上げ
  2014年度診療報酬改定では、機能強化型在支診・病の実績要件が引き上げられるとともに、連携して届け出る場合、個々の医 療機関に対しても一定の要件が課せられた。これは、今後の看取りを見据えた改正であるとともに、看取りの実績が少ない在支診 の届け出医療機関に対し意識改革を促すものである。
                
 改定前 改定後
 実績要件   過去1年間緊急往診実績5件以上 過去1年間緊急往診実績10件以上 
 過去1年間在宅看取りの実績2件以上 過去1年間在宅看取りの実績4件以上
   備 考  複数医療機関が連携して上記の要件を満たしても
 差し支えない
複数医療機関が連携して上記の要件を満たしても差し支えない
が、それぞれの医療機関が以下の要件をみたしていること。
 ・過去1年間の緊急往診の実績4件以上
 ・過去1年間の看取りの実績2件以上
 

医療情報室の目

★『川上』の改革ばかりに目を奪われるな
  
  昨今、診療報酬改定や医療計画等において、在宅医療にシフトするための様々な政策誘導が図られてきたが、今国会で成立した「医療介護総合推進法」は、病床の機能分化と連携の実効性を高めるといった面では、一定の強制力を持った政策といえよう。従来の都道府県による医療計画では、基準病床数に対する一般・療養病床全体の過不足は示されていたものの、各医療機関の病床機能の実態までは把握されていなかった。しかし今回の総合推進法では、入院施設を持つ医療機関に対し、病棟単位での病床機能等の報告を義務付け、都道府県ごとに地域の詳細な医療需給バランスを分析することなどが盛り込まれている。しかも、都道府県はこのデータを基に、機能や実績が不足していると判断した病院などに機能転換等の勧告を行うことができ、従わない医療機関には地域医療支援病院や特定機能病院の承認を取り消すなど、地域医療構想(ビジョン)の策定に際し強力な権限を持つこととなる。この点について厚生労働省は、地域医療構想策定の前段として、当事者である医療機関や関係者との協議の場を都道府県に設置し、十分な議論を行うと説明しているが、あくまでも最終的な決定を下すのは県である。協議そのものがパフォーマンスと化し、県民の声や医療現場の実態を軽視した「適正化ありき」の改革が進めらることのないよう、自治体や医師会などを交えた綿密な検討の仕組みが図られることを求めたい。
 今回の病床機能の改革を「川上」に例えるならば、受け皿となる地域の連携システムや施設といった「川下」の整備はまだこれからというのが現状である。改革のタイミングと方向性を見誤り、流れ出た県民が行き場を失い地域に溢れかえるような事態だけは絶対に避けなければならない。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
  医療情報室レボートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。