医療情報室レポート
 

bP83
 

2013年7月26日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

印刷用

特 集 : 医療改革の方向性と今後の課題

 先の第23回参議院議員選挙は自民党が圧勝し、参議院においても与党で過半数の議席を確保した。今後は様々な施策について実質的に自公政権により改革が推し進められると見られ、社会保障・医療政策も例外ではない。
 我が国は昭和36年に国民皆保険制度を実現、その後も医療提供体制の一層の充実が図られてきたこともあり、世界一ともいえる保健医療水準を確立した。一方で、少子高齢化などの人口構造の変化、国民の医療に対するニーズの変化など、医療を取り巻く環境は大きく変化し、世界に冠たる国民皆保険制度を将来にわたって維持・発展するためにも時代のニーズに合う形への医療提供体制の改善が求められており、現在、内閣に設置された社会保障改革国民会議や厚生労働省の社会保障審議会などで医療制度改革に向けた議論が進められている。
 今回のレポートでは、医療を取り巻く現状や現在検討されている医療改革の方向性についてまとめてみた。


これからの医療改革に向けた総論的課題
○将来推計人口でみる今後の超高齢社会
 今年6月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」によれば、高齢者人口は今後、いわゆる「団塊の世代」が65歳以上となる2015年に3,395万人、同世代が75歳以上となる2025年には3,657万人に達すると見込まれており、同時に、死亡者の数も増加すると予測されている。その後も高齢者人口及び死亡数は増加を続け、2042年頃にピークを迎えた後に減少に転じるとされているが、総人口の減少に伴い高齢化率は今後も上昇を続け、現状の医療提供体制での対応は不十分と予測されている。

○医師等の不足・偏在や平均在院日数の問題
 日本はOECD諸国との比較において、病床当たりの医師や看護師といった医療従事者の数が少なく、加えて、入院患者の平均在院日数が突出して長いことが指摘されている。
 また、医師の地域偏在や診療科の偏在といった問題も長年の懸案となっているが、根本的な解決には至っていない。

医療を取り巻く課題と今後の改革の具体的方向性

現状と課題
今後の方向性
医療提供体制の見直し
一般病床の機能分担が不明確
急性期の患者と回復期等の患者が混在
急性期対応の病院が多く、亜急性期・回復期の提供体制が不十分
突出して長い平均在院日数
高齢化に伴う医療・介護サービスのニーズ増大
国民の多くが自宅での療養を希望
医師の地域・診療科間の偏在等
国際的にみて医師数が少ない
長時間労働や当直など厳しい勤務環境
医療技術・機器の高度化、インフォームドコンセントの実践、医療安全の確保等に伴い、医師や医療スタッフの業務が増大
医療計画の強化
医療機関から都道府県への病床機能等の報告を制度化
都道府県は医療機能の分化・連携を推進するための地域医療ビジョンを策定し医療計画に盛り込む
平均在院日数の短縮に繋がる医療資源の適切な投入
医療計画、報酬面等を含めた包括的な在宅医療の推進
地域包括ケアシステムの構築
在宅チーム医療を担う人材育成
医療と介護の連携に必要な診療報酬、介護報酬上の評価
看取り体制の整備と強化
医師の確保対策
医学部入学定員の増員
医療現場での雇用環境改善の推進
財政基盤の安定化
市町村国保が抱える財政基盤のリスク
市町村国保の加入者は、相対的に低所得者や高齢者、医療を必要とする人が多く保険料負担が重い
財政運営が不安定な小規模保険者が存在し、市町村間の格差がある
保険料負担の格差
各保険者間の保険料率の格差拡大
市町村国保の財政基盤の安定化
国民健康保険の都道府県単位化
市町村国保の低所得者に対する財政支援強化
保険料負担の公平性の確保
協会けんぽと共済組合の統合、被用者保険の料率平準化
現在、特例措置として1割負担としている70〜74歳の患者窓口負担を法定どおり2割負担に戻すことも視野に検討
医療費の適正化
増大する医療費
高齢化や医療の高度化に伴い、今後、医療費はGDPの伸びを上回って増加
保険給付の対象となる療養の範囲の適正化
後発医薬品推進のロードマップを作成し、総合的な使用促進を図る
特定健診・保健指導の実施による生活習慣病の発症予防
在宅医療・地域ケアの推進等による平均在院日数の短縮
ICTの活用による重複受診・重複検査、過剰な薬剤投与等の削減

今後の改革の流れの中で注視すべき事項
国民皆保険制度の維持
 安倍政権は、将来に亘り国民皆保険制度を堅持するとしながらも、先進医療の拡大や特区政策の推進など大胆な規制改革を打ち出している。国民皆保険制度を崩壊させる「蟻の一穴」とならないよう、今後の政府の動きを注視していく必要がある。
混合診療問題
 混合診療をめぐっては、平成23年の最高裁において、「混合診療の原則禁止は適法」とする判決が下されたが、対象範囲の拡大や全面解禁を求める声は絶えない。6月に閣議決定された「規制改革実施計画」には、先進医療の対象範囲を拡大する旨が謳われており、今後、混合診療に関する議論が再燃する可能性もある。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の動向
 日本の交渉参加の実現を背景に、今後の展開が注目されるTPPだが、医療の問題とも無関係ではない。特に米国は昭和60年のMOSS協議以降、日本の医療の市場開放を強く要求してきた経緯があり、今後、株式会社の医療経営参入や混合診療解禁といった諸問題が加速する可能性も否定できない。


第23回参議院議員選挙結果報告

○医療界代表の羽生田たかし氏、高位当選を果たす
 第23回参議院議員選挙において、医療界の代表として出馬した日本医師会副会長の羽生田たかし氏は、自民党比例区第6位という高位当選を果たした。投票率が低下した中、約25万票を獲得しての当選は、医療界が一致団結して臨んだ結果であり、医療界が結束すると大きな力となることを政治の世界に示せたといえる。

○投票率が大幅に低下。国民の政治離れが露呈
 今回の選挙の投票率は前回選挙から5.31ポイント減の52.61%と下がり、参議院議員選挙として過去3番目の低さとなった。(下図参照)また、福岡の投票率についても全国平均を大幅に下回る49.36%で過去2番目の低さであった。投票権は国民の権利であり、投票することが政治(医政)に関心を持つことにも繋がる。その点から見ても残念な結果であったといえよう。

第23回参議院議員選挙結果
(医師・歯科医師・薬剤師・看護師免許取得者および福岡選挙区)

<医療情報室の目>
★今秋は医療界にとってのターニングポイント
 第6次医療法改正を柱とする医療改革案は、現在、社会保障改革国民会議や社会保障審議会医療部会において検討が進められており、秋の臨時国会への提出を目指している。また、医療への影響が懸念されるTPPについては年内での締結を目指していることから、政府も秋頃にはTPPに参加するかどうかの判断を下すと考えられる。さらに、医療に対する消費税率の扱いなども含め、秋の臨時国会での議論の行方が医療界の未来を決めるといっても過言ではない。今後の動きには注視が必要だ。

★医政なくして医療なし
 今回の参議院議員選挙における羽生田たかし日本医師会副会長の当選は、国民の視座に立った医療提供体制を実現するための大きな一歩といえる。今後、羽生田副会長には、医療界の代表として存分に政界でのリーダーシップを発揮していただきたいが、これを機に、私たち医師会会員も、いままで以上に医政に関心を持つべきである。医療が大きな転換点に立たされている今、地域医療の現場に携わる私たちの主張や活動が必要になっている。ただ手をこまねいていても大きな医療政策の流れは変えられない。会員の一人ひとりが、自身の問題として“医政”と向き合い、組織としての声を結集してこそ大きな力となり得る。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)
担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)

  医療情報室レボートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。