医療情報室レポート
 

bP79
 

2013年4月5日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : “地域包括ケア”の現状と課題 −その3−

 地域包括ケアシステムは、日常生活圏域を基本に、医療や介護といったケアの包括的提供体制を目指すものであるため、地域の実状により目指すべきシステムの方向性は大きく異なってくる。前号の医療情報室レポートでは、広島県尾道市と京都府の2地域が実践している地域連携システムの先駆的事例を紹介したが、例えば、社会資源や人口が集中するような大都市圏に対し、同じ仕組みをそのまま当てはめることはできない。特に大都市圏では、住民同士の“つながり”の希薄さが指摘されがちであるが、これは、医介連携の場面についても同様の問題を抱えているといえるものであり、地域包括ケアの根幹ともいえる“多職種連携”を適切に機能させるためには、都市圏特有の課題を踏まえたシステム構築を図っていく必要がある。
 “地域包括ケア”シリーズ最後となる今号では、政令市6番目の人口(約149万人)を擁する福岡市の地域包括ケアシステムが目指すべき方向性について、様々な選択肢はあると思うが、いくつかの論点について考えてみた。


福岡市における『地域包括ケアシステム』のあるべき姿

■総合的なケア提供体制の具現化に向けて 〜患者代理人としての役割〜
 前号で紹介した広島県尾道市の連携システムの特徴は、地域の主治医(かかりつけ医)が、高齢患者の入院時の段階から深く関わるとともに、退院後の在宅医療・介護が必要な患者については、集中的なケアカンファレンスを徹底するシステムを根付かせ、その中心となる役割を在宅の主治医(かかりつけ医)が担うところにある。また、一部の諸外国では、イギリスやフランスのようにファンドや自治体からの予算を得て、医師や多職種で構成される医療・介護・福祉のマネジメントグループ(ネットワーク)を制度化し、患者の“代理人”として、サービスの選択・提供・管理・評価を一体的に提供するシステムを有する国もある。
 これらの事例を踏まえながら、我が国の医療と介護の連携が不十分との指摘がある現状に照らしてみた場合、総合的なケアの提供に向けては、責任あるグループを制度化する必要があるのではなかろうか。
 ここで一つの例として紹介するが、民間の政策シンクタンクである公益財団法人東京財団が、医療と介護を統合したケアに、より責任を持たせるための『地域包括ケアグループ』という考え方を提唱している。特色としては、地域ごとに形成される中小病院や診療所、介護施設などのケア提供グループに対し、法人格を持たせることが望ましいとしている点にある。これは、患者・家族の代理人としてケア全体に対する責任をより明確にすることを目的としたもので、グループには市民代表の役員や会計監査を導入し、ケアに対する地域への説明責任や経費の節減を図り、グループ運営の安定化については、代理人としての責任に対し定額払い等による報酬制を導入すべきなどといった具体像を描いている。
   包括的なケア提供体制の概念


■『往診専門センター』という選択肢
 昨年の診療報酬改定では、従来の在宅療養支援診療所(在支診)・病院(在支病)の評価を高めた「機能強化型在宅療養支援診療所・病院」が新たに設けられたものの、全国の届出率(従来型を含む)は未だ13%程度と低い状況にあり、福岡市においては、今年1月の時点で、在支診が180施設(12.4%)、在支病が10施設(8.7%)となっている。特に、在宅療養支援診療所(在支診)を届け出ていない理由については、日医が昨年8月に医療機関向けに行ったアンケートによれば、「24時間訪問看護・往診体制の確保が困難」との回答が最も多かった。ソロプラクティス(個人診療)を基本とする日本の開業医にとって、常時、夜間の往診体制を構えることは大きな負担である。このように、診療報酬によるインセンティブだけでは難しい面はあるものの、24時間対応のシステム化は地域包括ケアの根幹ともいえるため、新たな視点に立った何らかの対策が必要かもしれない。
 例えば、かかりつけ医や連携医の往診が困難な場合の緊急の受け皿として、往診のみを専門とする施設も一つの可能性になり得ないだろうか。基本的には、在宅患者の容態急変等への対応は、かかりつけ医や第1、第2の連携医が行うべきであるが、何らかの事情で往診に出向けない場合に、かかりつけ医等からの要請を受けたうえで、『往診専門センター』が受け皿となる。ただしこの場合、センターには、交代制で専従医師・専従看護師が24時間常駐し、様々な疾患に対応する必要があるため、総合医としての高いスキルを有する医師が要件とされるだろう。また、センターの運営をどこが担うのか等、大きないくつもの課題を解決しなければならない。
『往診専門センター』の流れ

■患者データの管理・運用のあり方
 今後、地域包括ケアシステムにおける機関連携や情報共有等、様々な場面にICT(情報通信技術)の活用は欠かせないだろう。既に、全国の多くの拠点で電子カルテ等の診療情報共有を軸とする医療連携システムが稼働しており、ICTの技術的な仕組み自体はほぼ確立されているといえる。しかし、現在のシステムの主流である「病院カルテ閲覧方式」に関しては、医療者側に膨大な患者情報等の確認義務が生じ、万一の見落としにより患者の容体が悪化した場合の責任が問われる可能性も否定できない。また、患者側としては、医師が閲覧できる情報の範囲を選ぶことができないため、本来、知られたくない情報まで晒さざるを得ない等、プライバシー上の問題も存在する(※医療情報室レポートNo.173に詳細記述)が、特に地域包括ケアシステムでは、患者の生活面も含めた多様な診療情報を扱う可能性がある。
 以上のことを踏まえ、国は、医師や介護側の責任範囲を明確にする緻密な運用面のルールづくりを行うとともに、秘匿性の高い膨大な患者情報(データベース)の管理・運用については、データの不適切な二次利用などを防ぐためにも、医師会や行政の責任下において運用される体制を構築すべきである。

■地域包括支援センター運営のあり方
 これまでの地域包括ケアに係る施策の流れでは、「地域包括支援センター」が地域包括ケアシステムの中核的拠点として機能することが求められており、福岡市においても、現在、市内に39ヵ所設置しているセンターを将来的には60ヵ所程度に拡充することが見込まれている。在宅患者や家族の利便性を考えれば、地域包括支援センターが、いわゆるワンストップサービスの拠点窓口として機能することが望ましい。しかし、高齢者虐待や権利擁護に関する相談をはじめ、要支援者の介護予防プラン作成等、地域住民の様々なニーズに適確に応えられるセンターとするためには、医療・介護を中心とした幅広い分野に対応できる有能なコーディネーターを養成し監督していく必要がある。
 福岡市医師会では、市内39ヵ所の地域包括支援センターのうち19ヵ所の委託を受けており、これは社団法人の全国平均(2.2%)に比べて非常に高い受託率である。スタッフの養成・監督に関しては、従来より職種別やテーマ別等、研修会を月に2〜3回以上開催しスキルアップを図るとともに、事例報告会の開催、問題点の報告等が速やかに行われるようシステム化している。また、医師会という組織が多くのセンターを運営していることから、介護に対する医師の理解が広く得られている。
 今後、福祉系サービス、民間サービスも含めた様々な職種が参入するであろう地域包括ケアシステムについては、ケアの公益性を損なわないためにも、医師会が責任をもってコーディネーターを養成し、地域包括ケアをリードしていくべきであると考える。
地域包括支援センター設置主体と委託の状況
(資料)平成23年度老健事業「地域包括支援センターにおける業務実態に関する調査研究事業」(三菱総研)

■『元気高齢者』のボランティア参加
 福岡市では今年2月、65歳以上市民の「介護支援ボランティア」参加に対しポイントを付与する新たな制度を開始したが、高齢者の生きがいづくりや介護予防を目的に、同様の取り組みを行う自治体が増えている。平成23年版高齢社会白書によれば、60歳以上で地域活動に参加したいと思っている人は70.3%、NPO活動に興味がある人は56.1%となっており、一定程度の関心の高さがうかがえる。同白書では、いくつかの事例を交え、高齢者が地域社会の支え手となる取り組みに向けた今後の方向性(※)を示しているが、このような取り組みが社会に根付くことで、高齢者自身の生きがいだけではなく地域の介護力を高めることにも繋がるのではないだろうか。
(1)取組主体の多様化
    自治会や老人クラブ等の「地縁」だけではなく、住む地域に拘わらず参加できる環境の拡大。
    地方自治体が、民生委員以外にも地域住民や学校、企業、NPO等とも協力して取り組める体制の実現。
 (2)多世代交流の促進
    高齢者と若者が交流・支え合いをすることで多世代間の連帯を深め、希薄化している地域の絆の再生に繋がる。
 (3)「有償」の仕組みを含めたきっかけづくり
    上記のポイント制や「援農ボランティア」のような収穫した野菜がもらえるといった「有償」の仕組みがあると、
    ボランティアを始めるきっかけづくりになるだけでなく、支援が必要な人にとっても助けが求めやすい。
                                                   (平成23年版高齢社会白書より一部抜粋要約)

■地域包括ケアシステムを支える中核的施設の設置
 地域包括ケアの5つの柱のひとつである『予防』に関しては、「介護予防・日常生活支援総合事業」が平成24年度に創設されるなど、要支援者・二次予防事業対象者に対する介護予防や生活支援サービス等の市町村が主体となった取り組みが進められている。一方、一次予防事業についても、講演会やパンフレット等を通じた介護予防普及啓発事業や、ボランティア等の人材や地域活動組織の育成・支援等といった「地域介護予防活動支援事業」が行われている。
 これらの介護予防を推進するための市町村を主体とする取り組みや普及啓発事業については、自治体と連携し市民への効果的なアプローチを図ることのできる中核的施設が必要ではないだろうか。
 福岡市医師会は、今年4月1日から福岡市の指定管理を受け、市民の健康づくりや生活習慣病予防を支援する「健康づくりサポートセンター」をスタートさせた。同センターは、福岡市中央区に位置する複合施設『あいれふ』の一施設となっており、健康づくりの普及啓発(一次予防)、総合健診(二次予防)、糖尿病重症化予防(三次予防)といった事業を全市的に展開することとしているが、将来的には、在宅医療、疾病予防、介護サービス等の一体的な提供や人材育成にも主体的に取り組み、福岡市における地域包括ケアシステムの中核的存在となることを目指している。
複合施設『あいれふ』

医療政策の動向と地域包括ケア (福岡未来医療塾講演会報告)
 本年3月27日、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授の尾形裕也先生を講師に迎え、「医療政策の動向と地域包括ケア」をテーマに講演会を開催した。
 特に地域包括ケアが今後目指すべき方向性については、1)退院調整によるスムーズな在宅復帰、2)在宅医療の展開、3)居住系サービスへの展開の3つの局面が関わってくるとの持論を展開された。「退院調整によるスムーズな在宅復帰」については、日本では退院調整支援担当者の配置の有無により平均在院日数に差が出ていること。これらの現象はアメリカやイギリスなど諸外国も同様で高齢入院患者に対する適切な退院調整の実施が在院日数の縮減及び再入院率の低下といった効果に繋がっていること。一方で死亡率や医療費に対する効果については明らかになっていないことなどが紹介された。また、印象的だったのは、2003年にイギリスのNHS(National Health Service)がまとめた「入院」と「在宅」に対する基本的な考え方についても紹介があり、『「在宅」は退院後の「受け皿」と表現されがちだが、患者にとっては在宅が「常態」であり、入院が「常態」ではない。本来あるべき姿に出来るだけ早く復帰するのは当たり前であり、したがって退院調整が重要になる』との意識に基づき退院調整にあたる必要があると強調した。
講演会の模様


<医療情報室の目>
 地域包括ケアが語られるときに、『自助・互助・共助・公助』それぞれの役割が問われることが多いが、地域の関係の希薄さが指摘される都心部においては、“互助”の扱いが、今後、地域包括ケアシステムを構築するうえでのポイントとなるだろう。一方、これまで繰り返し述べた多職種との連携に関しては、上記で紹介したような、患者のケアに責任を持てるグループを作り上げることが、地域包括ケアシステムを成功に導く大きな道筋の一つといえるかもしれない。いずれにしても、多職種の連携をスムーズに機能させるためには、それぞれが他職種に関心を持つとともに、患者一人ひとりに対し、医療的な側面だけではなく、よりQOLを意識し生活面にも関心を寄せることが必要である。
 そもそも、『ケア』の本質は、他者への「関心」という人間の全的在り方そのものが前提であるといえる。すなわち、この「関心」という点を、全てのケアの提供者が受け入れ実践できるならば、地域包括ケアシステムを運用するための土壌は容易に形成されるのではないだろうか。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)
担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)

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