医療情報室レポート
 

bP77
 

2013年2月8日 
福岡市医師会医療情報室  
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特 集 : “地域包括ケア”の現状と課題 −その1−

 住み慣れた地域で、医療と介護、そして福祉が切れ目なく提供される仕組みとして、「地域包括ケア」というキーワードはこれまでも広く使われてきたが、昨年4月に施行された介護保険一部改正法において「地域包括ケアに係る理念規定の創設」が条文に盛り込まれた。いわば平成24年度は、法制上の「地域包括ケア元年」ともいえる。また、これに先立ち、昨年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」では、2025年度に向けた「医療と介護の将来像」が具体的に描かれており、今後、国や自治体は「地域包括ケア体制(システム)」の確立を前提とした医療・介護の供給改革に取り組むものと考えられる。しかし、「地域包括ケアシステム」の構築には、入院医療の機能改革や診療所機能(プライマリ・ケア)の拡充、また多様な生活支援サービスとの連携推進といった検討を、各自治体や関係諸団体が地域の実状に合わせながら進めていく必要がある。
 医療情報室レポートでは、「地域包括ケアシステム」について特集を組むこととし、今号では地域包括ケアが必要とされる背景や現在の取り組みなどを概観してみた。


「地域包括ケアシステム」について
・国が描く「医療・介護」の将来像
図1:医療・介護の将来像(厚労省:社会保障・税一体改革で目指す将来像より)
 昨年2月に閣議決定した社会保障・税一体改革大綱において、国は2025年度における医療・介護供給体制の具体的な将来像を示している。このビジョンは、団塊世代の多くが後期高齢者となる2025年までに、入院医療の機能分化や高度急性期に対する医療資源の集中投入等により平均在院日数の短縮化を図るとともに、介護については、在宅医療を含めた様々な地域支援サービスの拡充を目指そうとするものである。しかし当然のことながら、受け皿となる施設やサービスの拡充が実現しなければ入院医療は崩壊に追い込まれること等から、医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスが切れ目なく連携できる包括的な支援体制、すなわち「地域包括ケアシステム」の構築が求められている。
・「地域包括ケアシステム」の概要(イメージ)
図2:2025年の地域包括ケアシステムの姿
(政府:第2回社会保障制度改革国民会議資料より)
 「地域包括ケアシステム」が求められる背景には、超高齢社会の到来に伴う人口構造の変化をはじめ、疾病構造の変化や高齢者単独(夫婦のみ)世帯、認知症高齢者の増加など様々な状況がある。また、平成22年度に厚労省が行った意識調査において、7割以上の回答者が、要介護となった場合は自宅での介護を望んでいるとの結果が示されたこと等からも、今後は在宅や施設を中心とした医療・介護並びに周辺サービスの提供体制の強化等が求められており、図2のような「地域包括ケアシステム」のサービスの展開がイメージされている。
 なお、「地域包括ケアシステム」は、医療・介護・予防・住まい・生活支援の5つのサービスが、24時間365日を通じて包括的に提供されることを条件としているため、迅速かつ適切なサービスを提供可能とするエリアとして、各サービスの提供者が“概ね30分以内に駆けつけられる”中学校区を標準的な基本単位と定めている。


地域包括ケアシステム整備の現状
 2025年に向けた医療・介護供給体制の改革にあたっては、今後、診療報酬や介護報酬、医療計画といった制度上の改正が必要になってくるものと思われるが、現時点で描かれている「地域包括ケアシステム」の姿は、全体像としての枠組みが示されているに過ぎない。「地域包括ケアシステム」は、あくまでも「地域」を主軸とし多職種間での連携が求められているシステムであることから、地域の実状を踏まえながら各論としての検討が必要となる課題は多い。
 以下では、地域包括ケアシステムの構築を見据えた現状の取り組みとともに、想定される主な課題などを確かめてみたい。

○地域包括支援センターの機能強化

Column「地域包括ケア」という言葉
 『地域包括ケア』という語は、“地域において医療・介護・福祉等が総合的に提供される概念”として従来から広く使われており必ずしも新しいキーワードではない。
 『地域包括ケア』という言葉の始まりは、昭和50年代、広島県御調町(現尾道市)にある公立みつぎ総合病院の医師が構築した御調町独自の包括ケアシステムの中で用いられたのが最初といわれている。
 その後、平成18年の介護保険法改正に伴う「地域包括支援センター」の創設に際し、今後目標とするべき政策概念として広く使われるようになり、平成20年度老人保健健康増進等事業における「地域包括ケア研究会」報告書により、現在の『地域包括ケアシステム』の仕組みが明確に定義された。
 平成18年の介護保険法改正に基づき設置された地域包括支援センターは、包括的な地域支援事業を実施する中核機関として、概ね人口2〜3万人を目安とした地域毎に、全ての市町村(4,224ヵ所)に整備されている。
 主たる業務は、1)高齢者本人や家族に対する「総合相談支援事業」、2)虐待防止等の「権利擁護」、3)ケアマネジャーに対する指導・助言・ネットワーク構築支援等の「包括的・継続的ケアマネジメント」、4)要支援者に対するケアプラン作成等の「介護予防ケアマネジメント」等であるが、今後は、日常生活圏域において、各々のセンターが地域包括ケアの中心的役割を担うことが期待されている。しかし、地域包括ケアシステムへの対応にあたっては、センター数の拡充や人員体制の強化、業務内容の適正化、また認知度の向上など整理すべき課題は多いとみられる。

○「地域ケア会議」の活性化
 厚労省が昨年6月に行った調査によれば、多職種が集い利用者支援を検討する「地域ケア会議」を開催している自治体は8割に満たず、会議の内容も支援困難事例等の問題解決や地域課題の把握程度に留まっており、また参加者も介護関係者に偏っているとされている。しかし昨年4月に改定された地域支援事業実施要項等の中で、今後の「地域ケア会議」の役割として、行政職員、地域包括支援センター職員、ケアマネジャー、介護事業者、医療関係者、民生委員等が参集し、個別に利用者のQOL向上や自立支援に資するケアマネジメントの実現等を図る場とすること等が明文化されている。

○マンパワーの確保
 離職率が高く、低賃金であるといわれる介護職員の処遇改善を目的に、平成21年4月の介護報酬改定では3%のプラス改定となり、同年10月からは処遇改善交付金(介護職員1人当たり月額平均1.5万円)の交付が行われるなどの対応がされてきた。介護職員の数は平成12年度の55万人から22年度には133万人と増えてはきたが、同年度の離職率は17.8%で、製造業や金融業など16大産業平均の14.5%を未だ上回っている。前述の処遇改善交付金は平成23年度に廃止されたため、それに代わる手当として平成24年4月の介護報酬改定において介護職員処遇改善加算が設けられたが、2025年に必要とされる介護職員数は約240万人ともいわれており、労働人口が減少しつつあるわが国においてさらなる人材確保を行うためには、より一層の環境改善が必要である。

○高齢者住まいの整備
図3:「高齢者向け住宅」と施設の整備状況の比較
 今後の高齢者の増加、高齢者の単身者や夫婦のみの世帯の増加を踏まえると、高齢者を支援するサービスを提供する住まいの確保が必要となる。地域包括ケアシステムの柱の一つとして位置づけられている「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、かつて「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」などと呼ばれた3つの類型が法改正により一本化され、2011年10月から新たにスタートした制度である。政府は多額の補助や税制上の補助を行い、10年間で60万戸の整備を目標としており、2012年末現在での登録数は約8万9,000戸となっている。高齢者住まいの確保の足掛かりができたともいえるが、一方で、これらの住まいを利用できるのはある程度の資産を持つ世帯に限られ、低所得者の高齢者には十分対応できていないこと、さらには特別養護老人ホームなどで認められている住所地特例制度(他の市町村の高齢者が施設に入居しても介護保険等の保険給付は入居前の市町村が負担する)が適用されないことから入居先の市町村の介護保険財政が圧迫される恐れがあるなどの課題が指摘されている。

○平成24年度診療報酬・介護報酬同時改定における見直し
 昨年4月に実施された同時改定は、地域包括ケア体制の構築を見据えた様々な見直しが行われており、本格的に「在宅(地域)へのシフト」に舵を切った内容といえる。在宅医療に関しては、特に「強化型在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院」が創設されるなど、地域医療機関の連携や、看取り・24時間対応の充実を促す内容となっている。一方、介護報酬については、24時間かつ臨時的な対応を可能とする「定期巡回・臨時対応サービス」を創設し、訪問介護と訪問看護の密接な連携による訪問対応の拡充を図るとともに、従来からある小規模多機能型居宅介護と訪問看護を一つの事業所で提供可能とした「複合型サービス」が創られるなど、特に、中重度の介護利用者のニーズに対応できるサービスの構築を可能とする内容となっている。

<医療情報室の目>
 この半世紀余りの間に、日本の社会形態、家族のあり方は大きく変わった。1950年代頃、在宅で看取られる人は8割を超えていたが、現在、その割合はわずか1割ほどで殆どの方が病院等で亡くなっているといわれており、この背景には、医療資源や疾病構造の変化に加え、国民の“受療”意識が大きく変化したこと等が要因として考えられる。国は、地域包括ケアシステムの構築にあたり、多職種が連携し24時間365日の対応を可能とする、いわば地域全体を病棟とみなしたシステムを目指そうとしているが、実現に向けて検討すべき課題は多い。
 地域医師会は医療、保健、介護、福祉全体を見据え主体的・包括的に活動しており、医師会活動そのものが地域包括ケアともいえる。急性期から在宅までの切れ目のない地域連携の確立には地域医師会と行政が協働してシステムの構築に当たらなくてはならず、地域医師会が果たす役割は大きい。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)
担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)

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