医療情報室レポート
 

bP74  
 

2012年10月26日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 医業類似行為と医療の関わり

 マッサージや指圧、整体、カイロプラクティックといった施術は、古くから一般に広く利用されている。これらの施術は医師が行う医療行為(医業)に対し、総称して“医業類似行為”とも呼ばれ、国の資格を要するものとして『柔道整復師』、『あん摩マッサージ指圧師』、『はり師』、『きゅう師』の4資格がある。特にここ10年ほどの間に、柔道整復をはじめとする養成校や施術所は急激に増え、現在では、法に基づく医業類似行為を行う施術所は、全国に約12万施設存在するとされている。その一方で、近年著しい療養費の増加や施術内容の地域格差といった問題が顕在化しており、厚生労働省は、医業類似行為における療養費の適正化等について検討するための委員会を設置し、今年10月19日、「柔道整復療養費検討専門委員会」および「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会」の初会合が開催された。
 他方、地域の医療機関も、患者を通じて施術同意書の作成を求められるなど、柔道整復をはじめとする医業類似行為の施術と日常的に関わる場面が少なくない。
 今回は、国の検討会が立ち上げられたことなどを機会に、いわゆる医業類似行為と呼ばれる施術の現状と併せ、医業との関わりなどについてまとめてみた。


医業類似行為の歴史
 医業類似行為の制度を振り返ると、明治7年に制定された「医制」において、はり・きゅうが医師の指示を受けた場合のみ施術可能と規定されたことが始まりである。その後、明治44年の「按摩術営業取締規制」ならびに「鍼術、灸術営業取締規制」によりあん摩、はり、きゅうの営業が免許制(柔道整復は大正9年の「按摩術営業取締規制」の法改正により公認された)となり、昭和22年の「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法」により営業免許が医師等と同じく身分免許として取り扱われるなど次第にその地位を確立していった。数次の改定を経て昭和45年に「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」と「柔道整復師法」が明確に区別された後、昭和63年の法改正で都道府県知事免許から国家資格となり、現在に至っている。

○医業類似行為の区別
  医業類似行為は法的な資格制度の有無により次の2つに大別される。
1) 法で認められた医業類似行為(下図参照)
文部科学大臣の認定した学校または厚生労働大臣の認定した養成施設において3年以上の教育を受け、国家試験に合格した者が業として行うことが出来る。特定の疾病に係る施術に関しては健康保険が適用され、その施術に係る費用を療養費という。
2) 法に基づかない医業類似行為
法的な資格制度がない施術をいい、整体やカイロプラクティック等が該当する。特にカイロプラクティック療法による施術を行う者が増えているが、その医学的効果についての科学的評価は定まっていない。同療法による事故を未然に防止するため、平成3年に厚生省(当時)は“一部の危険な手技の禁止”や“適切な医療受領の遅延防止”などを謳った通達を出している。
分 類 医 業 医業類似行為
職 種 医 師 柔道整復師 あん摩マッサージ指圧師 はり師 きゅう師
根拠法 医師法 柔道整復師法 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律
健康保険が適用となる業務の範囲 一.診察
二.薬剤又は治療材料の支給
三.処置、手術その他の治療
四.居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五.病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
療養費の支給対象疾患は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲、捻挫。ただし、骨折、脱臼に対する施術については応急手当をする場合以外は医師の同意が必要 療養費の支給対象疾患は、筋麻痺関節拘縮等で医療上マッサージを必要とするもの 療養費の支給対象疾患は、慢性病であって医師による適当な治療手段がないもの
就業者数(H22) 28万431人 5万428人 10万4,663人 9万2,421人 9万664人
給付方式 健康保険(現物給付) 受領委任払い 療養費払い(償還払い)

医業類似行為の現況
 この10年余りの間に医業類似行為の国家資格取得者が急速に増えている。平成10年、柔道整復師養成学校の設立認可をめぐって国が訴えられ、当時の厚生省の設立許可規制が裁量権を逸脱しているとの判決が福岡地裁において下された経緯がある。以降、柔道整復をはじめとする養成施設や資格取得者が右肩上がりに増加し続けており、これらの施術に係る療養費も年々増え続けている。

◎就業者数の増加
 平成12年以降の増加傾向を就業者ベースでみてみると、“あん摩マッサージ指圧師”はほぼ横ばいであるものの、他の3職種は、わずか10年の間におよそ2万人増えており、それぞれ、増加率は“柔道整復師”が1.64倍、“はり師・きゅう師”が1.29倍となっている。
 なお、表には記載していないが、これに対し就業医師数については、平成12年が約24万3千人、平成22年が約28万人と4万人弱の増加となっており、増加率は10年間で1.15倍である。
 このことから、特に柔道整復師については、医師と比較しても増加率が非常に高いといえる。
国家資格が必要な医業類似行為の就業者数
◎療養費の増加
 周知のとおり、柔道整復師が施術を行う整骨院・接骨院や、あん摩マッサージ・鍼灸では、対象疾患に対し健康保険が適用される。下図に示すように、平成22年度の医業類似行為全般に係った療養費は4,909億円となっており、これは国民医療費の1.3%に相当する。なお、最近5ヵ年の療養費の平均伸び率は約5%であり、これは国民医療費の伸び率である2.3%を大きく上回る数字である。療養費の内訳を見てみると、柔道整復に係る療養費の割合が高く、全体の約8割を占めている。この金額は、医科における小児科、産婦人科等の医療費を上回っており、整形外科の約5割に相当する額となっている。
国家資格が必要な医業類似行為による療養費
国民医療費の比較(平成22年度)


『受領委任払い制度』と『療養費払い制度』
 医療類似行為に係る療養費は通常患者が全額負担し、施術証明書等を保険者に提出して自己負担分を除く療養費を受け取る「療養費払い」制度が適用される。しかし柔道整復に関しては、施術を受けた患者は一部負担金を柔道整復師に支払い、その“委任”を受けた柔道整復師が直接保険者に療養費を請求する『受領委任払い』制度が認められている。これは、制度が始まった1936年当時は整形外科医が不足しており、柔道整復師による施術が必要だったことや施術の緊急性を考慮して例外的に現物給付と同様な取り扱いにする必要があったためといわれている。
 また、医療における診療報酬制度と大きく異なる点は、“審査機関”の仕組みである。診療報酬制度においては、支払基金や国保連合会の審査を経た上で、保険者から診療報酬が支払われる。医業類似行為の療養費については、「協会けんぽ」等の保険者に審査のための“委員会”が設置されている。なお、国保など自治体によっては、国保連合会に審査を委託するケースもある。
療養費(医療費)支払いの仕組み

医業類似行為をめぐる課題

◎施術同意書の交付について
 あん摩・マッサージ・指圧師等が健康保険適用の施術を行う際には医師の同意書が必要となる。医師は、同意書を交付した際に“療養費同意書交付料※1(100点)”を保険請求することが出来るが、はり、きゅうの施術に対し同意書を交付した後はその病名に対する保険診療が出来なくなることや、療養担当規則で無診察同意が禁止されている※2ことなどを踏まえ、同意書を交付する際には留意が必要である。
※1療養費同意書交付料
原則として当該疾病に係る主治の医師が、診察に基づき、療養の給付を行うことが困難であると認めた患者に対し、あん摩・マッサージ・指圧、はり、きゅうの施術に係る同意書又は診断書を交付した場合に算定する。
※2療養担当規則第1章17条
「保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にあたるという理由で、みだりに施術業者の施術を受けさせることに同意を与えてはならない」

◎療養費適正化へ向けた動き
 柔道整復等の療養費改定は、通常、2年に1回、4月に行われる医科診療報酬改定を踏まえて6月に実施される。しかし、都道府県別の請求部位数や月間施術回数、施術期間などの地域差が依然大きいこと等を受け、今年6月の療養費改定を延期し、次期改定の具体的な議論や中長期的課題について検討するため、社会保障審議会医療保険部会の下に「柔道整復療養費検討専門委員会」及び「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会」を設置し、10月19日にその初会合が開催された。

<医療情報室の目>
 はり・きゅうや柔道整復、整体、カイロプラクティックといった様々な医業類似行為が人々の間に広まっている。欧米では現代医学(西洋医学)では対処しきれない症状への補完代替医療として、鍼灸や脊椎の徒手整復術(カイロ)などが注目されている。しかし、「医学的な判断に基づいてなされなければ人体に対して危害を生ずるおそれがある行為」を行えるのはあくまで医師だけである。国民が受ける医療を選択する際に混乱をきたさないように医業と医業類似行為の棲み分けは明確にする必要がある。
 医業類似行為に係る療養費については、保険者が設置する委員会で審査が行われている。しかし、過去に会計検査院により柔道整復師の施術内容や請求に疑義があるとして指摘を受けた経緯があり、十分な点検や審査のあり方が求められている。国民医療費は年々増大しており、国の予算を圧迫している現状がある以上、医療と財源を同じくする健康保険が適用される療養費の請求に関する審査体制の強化が急務と言え、厚労省の療養費検討専門委員会等での議論の行方が注目されるところである。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 今任信彦(情報企画担当)・松尾圭三(広報担当)・寺坂禮治(地域医療、地域ケア担当)


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