医療情報室レポート
 

bP51  
 

2010年11月24日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 保険診療に役立つ基礎知識その1
 

 保険医には療養担当規則、健康保険法、医師法、薬事法など様々な遵守すべき規定・法令が定められている。また、診療報酬請求に関しては不適切な請求を防ぐため、審査支払機関による厳正な審査が行われているが、他方、保険医は地方厚生(支)局や行政による“指導”を受ける義務も課せられている。しかし、“指導”はその種類が様々であるうえに、昨今は、厚労省において指導・監査の強化についての議論が目立つ。
 医療情報室では今後、“保険診療に役立つ基礎知識”をシリーズとして発行することとし、今回は診療報酬の請求から支払いにいたるまでの流れ、そして特に、保険医療機関に対する“指導・監査”の区分等についてまとめた。


保険医療機関が遵守すべき主な法令等
連載Column「医療と経済学」vol.7

       〜ミヒャエル・エンデ〜

                           (1929〜1995没【独】)

 ミヒャエル・エンデは日本では「モモ」や「はてしない物語」などの児童文学作者として知られているドイツ作家ですが、一方で、現代の“通貨制度のあり方”についても警鐘を鳴らし続けてきたことで有名です。“物”は時間の経過とともに劣化し、商品価値は失われていきますが、現代の“貨幣”は普遍の物として扱われており、資産、資本としての機能も持っています。エンデは、とりわけ貨幣の貸借に利子という付加価値が生まれることを問題視し、現代の金融システムは常に物を消費し、経済成長を続けないと機能しないと指摘していました。エンデは「成長は無から生じるのではなく、何かが必ずその犠牲になっている。このまま経済成長の名の下の過剰な開発が続けられれば環境破壊や経済滅亡を招くことになる。それを回避するには現在の金融システムそのものの改革が必要である」と提唱しています。
療担規則・・・・





健康保険法・・




医 療 法・・・・・


医 師 法・・・・
「保険医療機関及び保険医療養担当規則」のことであり、保険診療を行う上で保険医療機関と保険医が遵守すべき事項として療養の給付の担当範囲、一部負担金等の受領、診療 の一般的・具体的方針、診療録の記載、処方せんの交付等について規定。厚生労働大臣が定めたもの。
保険者及び被保険者、費用負担、保険給付、健康保険組合等について規定。ほか同様に、保険種別に国民健康保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法が定められている。 
医療施設に関する法律。施設・管理等の基準、国・公立等の公的医療機関の設置・補助、医療法人、医業に関する広告等について規定。
医師たる者の資格及び業務などを規定。

診療報酬が支払われるまで
 医療機関は、診療報酬明細書(レセプト)を作成し、審査支払機関である支払基金及び国保連合会へ提出する。医療機関から提出されたレセプトは記載漏れ等事務的な誤りがないか点検され、その後内容等に疑義があるものについては審査委員会に諮られる。審査委員会の委員は医師や歯科医師により構成されており、医学的な根拠に基づき審査が行われる。これらの審査(原審査)を経て適正とされたレセプトは保険者の下で再度点検が行われるが、その際の審査員は非医師である。そこで疑義が問われるレセプトについては再審査請求が行われ、再度審査支払機関で審査を行う。その後保険者は請求された診療報酬を審査支払機関へ払い込み、審査支払機関で請求データとの照合後、各医療機関へ振り込まれる仕組みとなっている。
 審査については審査支払機関間(支払基金と国保連合会)、地域間での審査格差が長年問題となっている。今年3月に支払基金が発表した「今後の審査委員会のあり方に関する検討会」報告書では、47都道府県の査定状況が比較されており、最も平均査定点数の高い支部と低い支部の差は原審査で4倍、再審査では17倍もの開きがあるとされている。もちろんレセプトの査定は地域性や審査委員の保険診療への解釈等様々な要素が絡むため一概に査定率の高低だけで評価されるものではないが、厚生労働省はこのような問題の是正に向け、本年4月に「審査支払機関の在り方に関する検討会」を設置し、支払基金、国保連合会の統合または判断基準の統一化に向けた検討に乗り出した。

『指導』と『監査』
 医療機関に対する指導は、健康保険法第73条において「(前略)厚生労働大臣の指導を受けなければならない」と定められており、地方厚生(支)局や都道府県では保険診療の質的向上と適正化を目的に「指導大綱」や「監査要項」に基づき指導・監査を実施している。指導には集団指導集団的個別指導個別指導といった様々なものがあり、保険診療の取扱い、診療報酬請求等の適切な取扱いの徹底を主眼としている。なお、来年1月19日(水)に福岡市少年科学文化会館に於いて予定されている『保険指導会』は下表(3)の集団的個別指導にあたる。併せて福岡県医師会主催の保険集団指導講習会も開催され、これは6年間ですべての会員医療機関に出席を求めることとしている。一方、監査は診療内容および診療報酬請求に不正、又は著しい不当があったことを疑うに足る理由があるときに行われるものとなっており滅多に実施されることはないが、監査後の措置の中には保険医療機関の取消しや過去5年分の請求過分返還等の非常に厳しい取扱いもある。以下にそれぞれの概要を整理してみた。  
◎その他の調査・検査
施設基準の届出が適正か等を調査する地方厚生(支)局による適時調査や、適正な人員・構造設備の管理について検査する保健所の立入検査、レセプト内容の確認を目的とした支払基金や国保連合会による面接懇談などがある。また、生活保護法による指定医療機関については、医療扶助に関する事務取扱い等の徹底を図ることを目的とした市町村による一般指導(講習会形式)及び個別指導(院内立入)がある。

◎指導における主な指摘事項
<医療情報室の目>
 平成20年10月の社会保険庁改革により、保険医療機関の指導、監査を行ってきた社会保険事務局が地方厚生(支)局に移管されて以降、その権限が強化される傾向にある。厚生労働省においては、医療機関等への個別指導の実施件数が「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」に示された年間目標数値8,000件を大きく下回っていること等を踏まえ、今年5月に実施した行政事業レビューで医療給付費の適正化を理由に、個別指導の実施増加や指導・監査業務の基準統一化などといった改革案が俎上に上げられた。個別指導のノルマ達成や医療費の縮減を前提とする指導・監査のあり方は理不尽な行き過ぎた指導に傾く危うさを含んでおり、結果として医師の裁量権を奪い、いわゆる萎縮診療を引き起こす恐れがある。このことはひいては、本来患者が享受できる治療が受けられなくなるなど患者の権利侵害に繋がる恐れもある。なお、福岡県における個別指導は平成22年度に172件が計画されており、半年で昨年を超える件数(昨年度は25件実施)の指導がすでに行われている。(参考:福岡県保険医新聞) しかもその多くが不正等の理由ではなく、高点数を算定しているという理由により対象とされている傾向がある。また、指導・監査の基準についても、地域の事情が様々であることを十分考慮する必要があるため、一つの枠組みに縛るべきではなく、地元医師会と行政の緊密な連携のもとに実施されるのが望ましいのではないか。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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