医療情報室レポート
 

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2010年11月5日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : よりよき医療政策の実現を目指して
           〜医療政策の現状〜
 

 選挙マニフェストで社会保障の充実を掲げた民主党が政権交代を果たして1年余り、その間社会保障費年2,200億円の削減が完全に撤廃されるなど様々な対策がとられてきたが、決して十分な成果を上げているとは言えない。こと医療政策に関しては、2010年民主党マニフェストにおいて、高齢者医療制度の見直し、地域の医師不足解消、診療報酬の引き上げ等を謳っているが、本年4月の診療報酬改定ではプラス改定に転じるなどある程度評価を得られる内容とはなっているものの診療所の再診料が引き下げられるなど非常に厳しい内容だったといえる。
 さらに、先の参院選において、与党民主党の惨敗により“ねじれ国会”となった今、各政党とも社会保障の充実を謳ってはいるが、打ち出された政策が果たして近い将来に現実のものとなるのか一抹の不安を残す。今回は今後の展開を読み解くためにも、これまでの医療政策の大きな流れを振り返るとともに、民主党における現在の医療施策の状況についてまとめてみた。

これからの「社会保障制度」
 社会保障制度は、失業や疾病、老齢による生活不安などの生活問題に対して、すべての国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的とし、公的責任で生活を支える給付を行う制度である。もともとは、戦後、日本国憲法において、国民の生存権の保障や社会福祉、社会保障、公衆衛生等について制度の創設や行政機構の整備が進められ、生活環境等の変化に伴いそれぞれの時代において異なる役割が求められ制度の見直しが行われてきた。今後我が国においては、高齢化による社会保障関係給付の増加、社会経済を支える労働力人口減少などにより、一層困難な舵取りが求められることは確かであり、民主党においては、これからの社会保障制度と財源としての税のあり方を一体的に考える「税と社会保障の抜本改革調査会」(会長・藤井裕久元財務相)が始まったところである。
我が国における医療政策の変遷
菅改造内閣における医療政策担当者の顔
9月17日、民主党代表選での勝利を受け、菅直人首相による新たな改造内閣がスタートした。新内閣では厚生労働大臣に細川律夫前厚生労働副大臣が起用される等、同省政務三役の顔ぶれが一新された。主に医療・介護分野は藤村修副大臣と医師である岡本充功政務官の二氏が担当する。
<主なプロフィール>
  厚生労働大臣 細川 律夫(ほそかわ りつお)
    昭和18年8月8日生(67歳)
    衆議院議員(当選7回)
昭和41年3月  明治大学法学部卒業
昭和49年4月  弁護士開業
平成 2年2月  衆議院議員初当選
平成18年9月  衆議院厚生労働委員
平成21年9月  厚生労働副大臣

  厚生労働副大臣 藤村 修(ふじむら おさむ)
    昭和24年11月3日生(61歳)
    衆議院議員(当選6回)
昭和48年3月  広島大学工学部卒業
平成 5年7月  衆議院議員初当選
平成21年9月  衆議院厚生労働委員長
平成22年6月  外務副大臣

  厚生労働大臣政務官 岡本 充功(おかもと みつのり)
    昭和46年6月18日生(39歳)
    衆議院議員(当選3回)
平成 8年 3月  名古屋大学医学部医学科卒業
平成15年11月  衆議院議員初当選
平成17年12月  衆議院厚生労働委員
平成22年 6月  民主党副幹事長
 我が国における公的医療保険は1922年(大正11年)に始まり、1961年(昭和36年)に確立された国民皆保険制度をもって今日の原型が完成したと言える。被用者保険や被用者年金に加入していない自営業者や農業従事者等に国民健康保険・国民年金への加入が義務づけられたことによりすべての国民が何らかの保険に加入している状態となり、疾病等にかかった時にはいつでもどこででも安心して安全な医療を受けられるようになったのである。
 このように安心して国民生活を送るための基本制度とも言える医療制度に影が見えてきたのは1980年代の中曽根政権より始まった新自由主義に基づく医療費抑制政策である。時の厚生省保険局長である吉村仁氏が発表した「医療費増大は国を滅ぼす」との考え方(俗に言う医療費亡国論)に後押しされるように患者一部負担金の導入、医師数抑制政策など、医療改革の名の下に医療費抑制政策が推し進められたのである。その流れは小泉政権下に最高潮に達する。2002年度の診療報酬改定では史上初めて医科本体のマイナス改定が行われ、「骨太方針2006」により5年間に亘る社会保障費自然増の2200億円抑制方針が閣議決定された。また2004年には新医師臨床研修制度が施行され医師不足問題に拍車がかかるなど、決して現場の状況に適しているとは言えない政策が採られ続けたのである。
民主党医療政策の“いま”
 民主党のマニフェストにおける医療政策を検証してみると参議院議員通常選挙のあった2007年を機に社会保障費抑制路線からの脱却に向けて方針転換を図り始めている。それまでも予防医療の充実や高齢者医療の改革などを謳ってはいたものの医療費拡大までには至っていなかった。しかし2007年のマニフェストにおいて医学部定員10%削減の撤廃、医師や看護師等の医療従事者不足といった課題に言及し、自民党が推し進めてきた医療費抑制政策に一石を投じる形となった。その後2009年のマニフェストにおいて後期高齢者医療制度の廃止、社会保障費2200億円の削減方針の撤回、総医療費対GDP比の引き上げ、OECD平均の人口当たり医師数を目指し医師養成数を1.5倍にするなど具体的な目標値を示し、先の参院選における2010年マニフェストにおいても、これら施策の推進を掲げたところである。
 日医の「平成22年度レセプト調査」によると、今年4月の診療報酬改定により医科点数本体が全体で前年比+2.64%、中でも病院は+4.43%となっており、ある程度評価できる内容となった。しかしながら一方で診療所は+0.43%と厚労省が提唱していた自然増3%より遙かに低い伸び率に留まっており、今後の診療報酬改定ではすべての医療機関を対象とした底上げが望まれる。また、民主党は当初高齢者医療制度の負担軽減措置の継続を示していたが、10月25日の高齢者医療制度改革会議において70〜74歳の窓口負担金を平成23年度から現行の凍結措置を解除し2割負担とする方針を固めた。
 このように、政権獲得後1年間で社会保障・医療政策に対するスタンスが大きく様変わりしているものもある。民主党の今後の医療政策の動向を見定めるためにも政府の“核”となる人物のこれまでのコメントを拾い上げてみた。
連載Column「医療と経済学」vol.6   〜ヘッジファンド〜
  ヘッジファンドはオルタナティブ投資(従来の株や債権を投資対象とはしない投資のこと。代替投資。不動産や未公開株などリスクの異なる投資対象を組み合わせ、多様な運用手法を用いてリターンを狙う)の一つです。ヘッジとは「価格変動リスクを回避・軽減すること」を指し、一般的な投資では利益が出ない下落相場でも、法的な規制が少ないヘッジファンドではカラ売りなどの手法により常にリターンを叩き出します。
 ヘッジファンドの元祖とも言えるカラ売りを主な手段とする「株式ロング・ショート」、同価値の商品が市場により設定価値が違うことを利用して利益を目指す「アービトラージ」、各国の為替、株式、債権等広範囲の市場から利益が得られるものに投資する「グローバル・マクロ」等、一口にヘッジファンドといっても投資手法は様々なものがあります。
 かつては限られた富裕層のみを対象とした金融商品でしたが、現在では個人投資家向けの商品も出てきており、身近なものとなってきています。
<医療情報室の目>
 結果として社会保障を蔑ろにし、医療崩壊を推し進める政策をとり続けた自民党に対し、将来への不安、政治不信を募らせた国民は先の衆議院議員総選挙で民主党の支持に回った。これは日本医師会の構成員である医師も同様であり、医療費抑制政策を推し進める自民党への反発から支持離れ、医政活動放棄の流れが生まれ、社会保障の充実を掲げた民主党の支持へと繋がった。しかしながら、先の参院選では中医協委員人事における日本医師会代表の委員外し、混合診療に繋がりかねない医療ツーリズムの推奨、また、降って湧いた消費税増額論等の影響を受け民主党は惨敗、ねじれ国会の様相を呈することとなったのである。
 社会保障は人が安心して生活する上での基盤であり、医療制度は社会保障制度のなかでもっとも暮らしに密着している制度の一つである。各政党とも選挙前は大きな目標を立て社会保障の充実を謳うが、いざ政策を実行するときにはトーンダウンする傾向がある。国民の医療を守るため、医療専門団体である日本医師会は党派を超えて社会保障・医療政策のあるべき姿を追求し、是々非々で安全で安心の医療政策を提言し、医療再生に向け全力を挙げる責務を担っている。本会でも来る11月19日に日本福祉大学副学長・常任理事である二木立先生をお招きし、医療制度や医療者のあるべき姿と未来についてご講演を頂く予定にしており、今後も各政党の医療施策の動向に注視し、よりよき医療政策の実現に繋げていきたい。

明日の医療を考えるセミナー

 日 時:11月19日(金) 19時    

 場 所:福岡市医師会館 8階講堂 

 講 演:「民主党政権の医療政策と 
           医療者の自己改革」
日本福祉大学 
     副学長・常任理事
        二木  立 氏
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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