医療情報室レポート
 

bP35  
 

2009年 8月 28日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特 集 :看護職の需給 その3
     〜看護職の確保について〜
 
 
看護職の高学歴化が進む中、看護職の資質の向上を目指し、また、医療現場における看護職不足を改
善して行くには、看護職の多種多様な教育・養成の方策を検討する必要がある。

 平成18年の診療報酬改定において、「入院基本料7対1」を満たせば高い診療報酬が得られる看護基準が新たに設定された為、看護職の争奪戦が起こり、地域医療に混乱を招いたことは記憶に新しい。現在はこの状況は少し緩和された感はあるが、今でも看護職の不足は続いており、医療現場では看護職の確保は頭の痛い問題である。
 我が国の看護職には、保健師・助産師・看護師・准看護師があり、その内、医療機関等で医師の医療行為の補助、患者の療養の世話を主に行う看護師は81万人、准看護師は38万人も存在し、准看護師は看護職のマンパワーとして重要な役割を担っている。それにもかかわらず、最近は、准看護師を目指す人たちが減少してきている。時代の流れとして、看護職の養成課程は、専門学校から短大、短大から大学と高学歴化が進んでおり、厚生労働省を含めた関係機関は、看護職の養成政策として大学4年制を基本にすべきか否かを議論・検討している。また、看護職の資格はあるが、就業していない、いわゆる潜在看護師が約55万人も存在すると言われている。今回は、看護職の需給をテーマに看護職の現状や確保対策をまとめた。

看護職の現状
看護職の業務
我が国には看護職が約126万人おり、内訳は看護師約81.2万人、
准看護師約38.2万人、保健師約4万人、助産師2.6万人である。
医師の診察の補助、疾病・障害を持つ人の日常生活における援助、
疾病の予防や健康の維持増進を目的とする教育等を主な業務とする。
看護職になるには
看護職に就くには高校卒業後に専門学校の看護課程を修了し、国
家試験に合格するというのが一般的であるが、まず、准看護師免
許を取得してから、次に看護師を目指すという方法もある。また、
看護学科を設置する大学も増えてきており、看護職になるには様
々な方法がある。(詳細は、医療情報室レポートNo.104「看護職の需
給」に掲載)
看護師の需給は?
我が国の看護師の数を国際比較すると、人口1,000人あたり9.3人
(平成18年:准看護師を含む)であり、OECD平均をやや上回っ
ているが、我が国は、OECD加盟諸国と比較して医療・介護を必
要とする高齢者の割合が高く看護師不足の実情がある。平成22
年の看護職員の需要見通しについては、約140万6千人に達す
ると推計されている。
我が国は、東南アジア諸国と自由貿易協定(FTA)経済連携協定
(EPA)を締結したことにより、日本語が話せる等を条件にフィ
リピン(平成18年度より2年間で看護師400人、介護福祉士600人
を上限)・インドネシア(平成21年度で看護師200人、介護福
祉士300人を上限)より看護師候補者の受け入れ、資格取得後の
日本での就業が可能となった。)
看護職のいろいろ
看護師(主な就業先:病院)
 高校卒業後に専門学校・短期大学・大学の看護課程を経て、看護師
 国家試験に合格し、厚労大臣の免許を受けた者を言う。俗に准看
 護師に対し正看護師と呼ぶこともある。

准看護師(主な就業先:病院、診療所)
 中学卒業後に准看護学校または看護高等学校の看護課程を経て
 各都道府県が実施する准看護師試験に合格し、知事の免許を受
 けた者を言う。我が国においては、中卒者に就業の機会を与える為
 に准看護師の制度が設けられたと言われている。

保健師(主な就業先:市町村の保健福祉センター)
 看護師免許をベースとして、さらに保健師養成課程(1年間)を経て、
 保健師国家試験に合格し、厚労大臣の免許を受けた者を言う。保
 健師免許があれば養護教諭になることもできる。1994年に男性に
 もこの資格取得が認められた。主な業務として保健福祉センター
 での健康教育・保健指導などを通じて、疾病の予防・健康増進等の
 公衆衛生活動を行う。 
 
助産師(主な就業先:助産所、病院、診療所)
 看護師免許をベースとして、さらに助産師養成課程(1年間)を経て、
 助産師国家試験に合格し、厚労大臣の免許を受けた者を言う。現
 在、女性のみ資格取得が認められている。主な業務として妊娠や出
 産に関する助産行為を行う。
看護職の現状
養成事情の変化
○ 近年の少子社会を踏まえ、看護職を養成する為に学生の確保が重
  要である。

○ 看護職は、高齢化や医療の高度化等の理由により、より高度で専
  門的な知識や技術が要求されるようになっており、看護学科を
  たに設置する大学が増えてきているが、短期大学や専門学校と
  比較して入学金・授業料が高額である。(※表面 表-1参照)

○ 看護職の高学歴化は進み、大学に進学する学生が増加し、短期
  大学・専門学校へ進学する学生が減少していることに伴い、看
  護課程を設置している大学の数は増加し、短期大学・専門学校
  の数は減少している。(※表-2参照)平成16年より、10年以上
  臨床経験のある准看護師を対象に看護師となる為の通信制の移行
  教育が開始された。
  (※准看護師養成課程を設置している専門学校はここ10年で半減
     したが、福岡市医師会が運営する看護専門学校は、福岡市
    内で唯一、准看護師養成課程を有している。詳細は、医療情
    報室レポートNo.106「看護職の需給その2」に掲載)
 
離職防止の強化・再就業の促進
○ 離職する理由として、自身の状況に関することについては、結婚、
  妊娠・出産、子育てが大半を占め、職場環境に関することについ
  ては超過勤務や夜勤の負担等があげられている。
○ 看護職の資格はあるが、諸事情により就業していない潜在看護職
  は約55万人存在すると推計されている。その中で、出来れば復
  職したいと考えている人が多いと言われている。
 ・多様な勤務形態・環境の導入(24時間保育、病児保育、院内保育)
 ・新人看護職員の卒後研修の制度化
 ・定年後の人材活用、男性の看護職員の養成・増員
 ・再就職者の看護職としての養成(准看護師制度の利用等)
 ・ナースバンク事業の普及、就業に関する相談窓口の設置 etc…
今後の看護職のあり方
○ 今後ますます医療機能分化が進むことから、看護職を含む医療従
  事者も医療連携に対応する体制を整える必要がある。こうしたチ
  ーム医療の推進は、看護職員間だけでなく医師の業務量も軽減す
  ることにも繋がる。

○ 限られた人的資源を有効活用する為、看護師、准看護師それぞれ
  が行える業務の範囲を考慮して人材配置・活用をする必要がある。
  高齢化に伴い在宅医療が重視される中、看護師は病院(特に特定
  機能病院や急性期病院)から必要とされ、准看護師は病院よりも
  介護保健施設や訪問看護ステーションから必要とされている傾
  向にあると推測できる。(※表-3,4参照)

○ 基礎教育の充実や見直しを行うと共に、専門看護師・認定看護師
  の資格を取得する等、専門的知識も習得することにより、看護サ
  ービス向上の為の生涯にわたる看護のキャリアアップを図る必要
  がある。
<医療情報室の目>
  安心で安全な医療を提供する為には、医療従事者の資質向上とマンパワーの確保は必須条件である。国民のニーズの変化や医療技術の進歩に伴い、高度な専門性を有する医療従事者が、各専門領域間で連携しながら医療を行うチーム医療の重要性が高まっている。医師と共にチーム医療の要の役割を担う看護職については、厚生労働省や文部科学省、関係機関との間で看護基礎教育の大学化、新人看護職の卒後臨床研修の制度化、ナースプラクティショナー(Nurse Practitioner)の養成等を含んだ看護の質の向上・確保や新たな看護のあり方について議論・検討されている。しかしながら、全ての看護職に対して高度な看護教育や専門領域の知識が求められているわけではなく、訪問看護・かかりつけ医レベルの現場等においては、基礎看護技術を以て十分に対応が可能である。
 そもそも、このようなことが論じられるようになったのは、近年、看護専門学校より大学での教育を希望する人たちが増え、看護職の高学歴化が進んでいる状況がある。実際に、全国の看護師養成所では、准看護師養成課程が減少しているが、一方では、正看護師へのステップとして、まず、准看護師の資格を取得して医療機関で就業しながら、定時制や通信制の養成所で勉強し、正看護師の資格を取得するという人も多い。大学は入学金・授業料が高く、時間的な制約もあり、一旦、社会人となった人は簡単に行きづらい等の理由もあることから、2年課程で修了し、安定した収入が得られる准看護師の資格取得は人生の再チャレンジの場として評価され、准看護師養成課程への社会人入学の割合は増加している。
 また、准看護師養成課程の卒業者は、大卒者よりも地元で就業する傾向が強く、地域医療を支える貴重な即戦力となっている。看護職には、ますます高度な医療知識・技術が求められて行く一方で、医療や介護の現場では、しっかりとした基礎看護技術を有し、実践とコミュニケーション能力豊かな、いわゆる「現場力」を持った人材が、正看護師・准看護師を問わず活躍している状況は今後
も求められるので、現場のニーズに応じた看護職の適正配置や、看護職の多様な教育・養成のあり方を考えて行くべきであろう。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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