医療情報室レポート
 

bP06  
 

2007年 3月 30日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:看護職の需給−その2−

 医療現場に於ける看護職員の不足が深刻な状況にある。平成18年の診療報酬改定で病院の収入が大幅減となった一方で、新たな看護基準(入院基本料7対1の設定)を 満たせば高い診療報酬が得られる為、看護職員の争奪に拍車がかかっている。 需給状況の基礎情報となるはずの厚労省の「第六次看護職員需給見通し」はこうした現場の需給実態及び将来見通しからは大きく乖離している。
 本年1月31日、中央社会保険医療協議会は総会を開催し、7対1入院基本料に看護必要度を導入する事等を盛り込んだ建議書を厚生労働大臣に提出した。これを受けて、厚労省は来年の診療報酬改定に於ける看護必要度の導入を 視野に、3月に7対1を算定している病院の調査を行う予定である。医療情報室レポートNo104(1月26日発行)では看護職の需給問題を過去から遡って概観したが、今回は現状の問題点について、日本医師会の看護需給調査や中医協 の建議内容、また、看護職員の養成施設について特集する。
  


日本医師会の看護職員需給調査-2006年10月調査

調査目的 今後の看護職員確保対策における基礎データの把握
調査対象 全国3,185病院
全国1,310校の看護師、准看護師養成施設
回 答 数 2,091病院(回答率65.7%)
1,014施設(回答率77.4%)
※調査は速報版の為、変更があり得る

〜調査結果に対する日医の見解〜

1. 看護配置基準の引き上げは、段階的に行うように方向修正をすべきである。(激変緩和)
  ここ1年半の間に、急激な基準引き上げが予定されている。
  看護配置基準達成の為、一般病床2万床以上の閉鎖も検討されている。
  病棟・病床を閉鎖しても、今後1年半の間に看護職員約7万人の増員 が必要である。
  都市部の病院からの求人が増えている。給与面で国公立・公的病院 に水をあけられている民間中小病院では経営が成り立たない。


2. 早急に准看護師養成策を見直すべきである。
  看護師・准看護師不足の背景の一つは、准看護師課程卒業者が激減していることにもある。
  病院は看護配置基準の引き上げのため、診療所の准看護師もターゲットにしかねない。 地域の診療所で深刻な准看護師不足が起きる。







中医協の建議書-厚労相へ12年ぶりに意見表明-

中医協では平成19年1月31日に総会を開催、入院基本料7対1看護の見直しを求める建議書を取りまとめ、 柳澤厚労相へ提出した。

  1. 看護職員の配置数等を満たした病院について届出を認めるという現行の7対1入院基本料の基準を見直し、急性期等 手厚い看護が必要な入院患者が多い病院等に限って届出が可能となるようなものとすること。

  2. 手厚い看護を必要とする患者の判定方法等に関する基準の在り方について、必要な研究に早急に着手し、その結果を 踏まえて、平成20年度の診療報酬改定において対応すること。

  3. 看護職員確保に関する各般の施策について、積極的に取り組むこと。
※建議書の骨子、原文のまま

看護職員の養成施設
   

   

<医療情報室の目>
 7対1看護入院基本料が導入されたことで、医療現場 では看護職員の争奪戦が起きてしまった。必要な看護師を揃えることができない病院は、病棟閉鎖、更には病院の閉鎖を余儀なくされている。急性期医療から始まって いる「医療崩壊」対策として導入された手厚い看護師の配置が皮肉にも地域医療の崩壊を助長してしまっている。厚生労働省による医療費抑制策のもとに起こってしまった 「医療崩壊」に対し、非現実的で極端な施策が事態を更に悪化させてしまっている。
 7対1看護では、介護職の配置評価は全くないのであるが、入院患者の半数は高齢者と言われる中、看護職のみで患者のQOLを改善できるはずもなく、手術は成功したが、 褥瘡を作って退院した、ADLが低下し廃用症候群となってしまったなどの症例は枚挙にいとまがない。診療報酬のルールは最終的に中医協が承認するが、実質的には 厚生労働省保険局が作成しており、この政策策定能力の低下がこのような非現実的なルールを増産している。
 看護職員を増員し、離職を防ぐためには待遇の改善が必要であるが、診療報酬のみで経営をしなければならない民間病院は診療報酬の削減の中、待遇の改善を図る ことは不可能になりつつある。官立病院(独立行政法人国立病院機構、自治体立病院等)と公的病院は診療報酬以外の補助金の投入があるため、民間病院の比ではない 待遇を維持できている。しかし、これも早晩、社会医療法人などに吸収され、職員の処遇は悪化していくだろう。経済財政諮問会議、財務省が進める医療費抑制策の下、 人材育成や待遇改善は蔑ろにされ、市場原理主義により医療職に将来の希望がなくなり、優秀な人材は早晩姿を消してしまう。そうなれば、被害を被るのは患者さんたちであり、 結局は全ての国民である。短期的な施策によって医療費の国庫負担額を減らしてしまうと、長期的な国民の不安を招き、国力が低下してしまい、取り返しのつかない事態になって しまうだろう。
 明治維新が起き近代日本が生まれ、2度の世界大戦を経て数百万人の犠牲を払い、ようやく100年の経過を経て成立した「医療受診の権利」が10年程度の財政難によって蔑ろに されようとしている。このことにわれわれ医療者は強く異議を唱える必要があるのではないだろうか。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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