医療情報室レポート
 

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2005年10月28日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:介護保険と医療保険 −その2−

 先の衆院選後、予想通りとも言えるのか、国の歳出削減策の矛先が医療費の抑制に向けられてきている。診療報酬のマイナス改定や保険免責制度の創設、医療費の総額伸び率管理制度の導入など次から次に国民への負担増、医療機関の報酬削減を求める案が浮上している。
 このような状況の中、今月19日に厚生労働省は医療費の抑制に向けた「医療制度構造改革試案」を発表、医療費抑制政策として高齢者への負担増を中心に、高齢者保険制度の新設や診療報酬体系の見直しなどが並ぶ。
 介護保険においては、既に先の法改正により今月から食費と居住費が原則全額利用者負担となり、全国の施設入所者80万人を始め、施設側にも深刻な打撃を与えることになり、現場は混乱、弱者切り捨てだとの意見が多い。
 日本医師会は今までも国民への負担増、医療機関の報酬削減方針には反対の姿勢で、今回の厚労省の改革試案にも医療費抑制の内容で首尾一貫しているとして批判。
 今回のレポートでは前回に引き続き介護保険・医療保険の制度改正内容の方向性などについてまとめてみた。



介護保険

  ★介護報酬改定の方向性

  厚労省では今月から年末にかけて次回介護報酬の改定について検討が重ねられ、改定率は12月に決定予定。
制度改正に伴う改定(新予防給付・地域密着型サービスなど)や在宅医療推進のための改定が中心。

  1. 介護度の維持・改善で加算
      新予防給付の通所系サービスで一定以上の利用者の要介護度を維持・改善した事業所に報酬を加算する。
「運動器の機能向上」「栄養改善」「口腔機能の向上」の新しいサービスを実施する事業所が対象。

  2. 地域密着型サービスの評価・基準
      グループホーム
        @ 看護師の配置や「看取り」指針の策定など利用者の医療の要望に対応すれば介護報酬上で加算。
        看護師1名以上確保や医療機関等と24時間連絡体制の確保など必要。

        A 空室や短期利用者の居室で1ユニット1人、30日以内に限りショートステイ的な利用を認め、介護報酬上で評価。

      小規模多機能型居宅介護
        @ 基準案 ・・・1事業所当たり登録数25人程度、1日当たり通い利用15人程度、泊まり利用5〜9人程度

        A 人員配置・・・管理者常勤1名、介護・看護職員は通い利用3名につき1名、夜間泊まり・夜間訪問介護対応2名

      夜間対応型訪問看護
        要介護度別の定額報酬と訪問回数に応じた出来高報酬の組み合わせか、要介護度別の定額報酬から事業者が選択。

  3. 新予防給付の評価・基準

      新予防給付の通所系サービスについて、基本的には現行の通所介護と通所リハと同じ方針。

        選択的3サービスについては次の新基準設定。
        「運動機能の向上」・・・ 専用の器械・器具を使う場合は利用者の活動面積を確保
介護予防通所介護では機能訓練指導員の配置
        「口腔機能の向上」・・・ 歯科衛生士または言語聴覚士の配置
        「栄養改善サービス」 ・・・ 管理栄養士の配置

      通所系サービスの報酬 ・・・ 日常生活支援などの共通的サービス、選択3サービスについて月単位定額報酬が適当。
目標の達成度合いに応じた加算も設定。

      介護予防訪問介護の報酬・・・ 月単位の定額報酬、「身体介護」と「生活援助」のサービス区分は1本化。

      介護予防福祉用具貸与(販売)・・・ 要支援・要介護1の高齢者の利用が想定されにくい「車いす」「特殊寝台」「床ずれ防止用具」「体位変換器」「移動用リフト」は原則保険給付外。

医療保険

  厚労省の医療制度改革試案では、高齢者患者の窓口負担引き上げや新たな保険制度の新設、生活習慣病の予防、長期入院の是正などの内容となっている。以下は診療報酬体系の在り方の見直しから抜粋。

  ★診療報酬体系の在り方の見直し

    1. 医療技術の適切な評価

    技術の難易度、時間、技術力等を踏まえた評価
生活習慣病の予防、医療技術の評価・再評価など

    2. 医療機関のコスト等の適切な反映

    疾病の特性等に応じた評価

    急性期入院医療・・・
診断群別分類別包括評価(DPC)に基づく
支払病院の拡大
    慢性期入院医療・・・
患者の状態像に応じた評価

    医療機関等の機能に応じた評価

    入院医療・・・
平均在院日数の短縮の促進、入院時の食事、
看護体制等に係る評価の在り方
    外来医療・・・
病診の機能分化と連携、初再診料の見直し 等

    3. 患者の視点の重視

    医療機関の機能などに関する情報提供促進、診療報酬点数表
の簡素化 等

    4. 医療提供体制に係る改革・介護報酬改訂との連携

    医療機能の分化・連携の促進の為の地域における疾患毎の医療
機能の連携体制に対する評価。

    入院から在宅への円滑な移行の為の24時間対応が出来る在宅
医療や終末期医療への対応に係る評価 等

  ★保険診療と保険外診療との併用の在り方の見直し
(いわゆる「混合診療」への対応)

    〜(略)現行の特定療養費制度を「将来的な保険導入のための評価を行うかどうか」の観点から、「保険導入検討医療(仮称)」(保険導入の為の評価を行うもの)及び「患者選択同意医療(仮称)」(保険導入を前提としないもの)に再構成する。
          (※平成18年10月目途より実施)







  ★医療機関への影響

    ○医療費抑制政策は国民への負担増を強いると共に医療機関の診療報酬減を求めている。
    患者負担増による影響
      受信抑制 → 更なる疾病増悪 → 更なる医療費の高騰

    診療報酬減による医療機関への影響
      医療機関の収入減 → 人件費などコスト削減 → 過重な労働 → 医療の安全性・質への影響
    H10年を基点とすると医療従事者は10数%以上増加しているにも拘わらず、医療機関の収入である診療報酬はH14年には-2.7%、H16年には0%(実質-1%)の改定が行われ、人件費は下がり続けている。

 

<医療情報室の目>
★医療を代表する意見
  昨年より続けられてきた中央社会保険医療協議会(中医協)の見直しの議論の結果、従来、診療側の代表医師5名(他に歯科医師2名、薬剤師1名)の内2名が病院代表となった。
 「中医協の在り方に関する有識者会議」では日本医師会が有識者会議における説明の機会を求めたにも拘わらず、それに応じること無く、更に有識者会議委員は毎週開催の中医協の会議を一度も見ることもないまま議論が終始した。
 来年の介護報酬・診療報酬の同時改定の議論に於いては、先の衆院選の結果を受け、歳出削減を求める財務省や厚労省、経済財政諮問会議、規制改革・民間開放推進会議などの攻勢が益々強く、国民・医療機関への負担増を求めてきている。
 今後の議論の中では、医療を代表する意見として開業医の代表、病院代表と分け隔てることなく、足並みを揃えた主張を展開することが不可欠である。
★医療費の総額管理制度導入論
 厚労省が示した「医療制度構造改革試案」では高齢者への負担増ばかりの弱者切り捨てともとれる医療費抑制策に終始している。また、経済財政諮問会議は経済の伸び率に合わせて医療費を抑制する総額管理制度(マクロ指標導入)について既に合意済みとした発言をしている。
 「日本の医療費は高い」との意見ばかりが主張されているが、国際比較の中で「健康寿命」「健康達成度の総合評価」で日本は1位、そして国民一人当りの国内総生産(GDP/国の経済力の指標)は世界5位と高いレベルにあるにも拘わらず、それに占める総医療費の割合は17位であり、日本の医療費は決して高いとは言えない。
 総額管理制度は正に先ず財政ありきの視点に基づいた政策であるが、生命・健康を経済の目標に添って管理していけば、医療現場におけるコスト削減によるひずみを生じ、医療の質・安全性の低下をもたらす悪影響が予想される。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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