医療情報室レポート
 

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2005年 2月25日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:個人情報保護法 −その3−

 経済・社会の情報化に伴い、大量の個人情報がコンピュータやネットワーク上で処理されている。個人情報は取り扱いを誤ると、個人へ重大な被害を及ぼす危険があるにも関わらず、昨今は、大量の個人情報を取り扱う事業者から、顧客情報の流出や個人情報の売買など事件が多発している。
 このような状況の中、国民のプライバシーに関する意識の高まりもあり、平成15年5月に個人情報保護法が成立・公布された。個人情報保護法は本年4月より施行され、対象は「5,000件を超える個人情報を保有している個人情報取扱事業者」とされ、医療機関もその対象に含まれる。
 個人情報保護法は全ての事業分野を対象とする法律である為、厚生労働省では昨年末医療関係者向けに「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」を定めた。本会でも平成17年2月16日に日医松原謙二常任理事を講師に迎え、個人情報保護法について講演会を開催した。
 今回のレポートでは講演会の内容を踏まえ、医療機関における個人情報の取り扱いについてまとめてみた。
 (日本医師会作成「医療機関における個人情報の保護」(3月15日付発行予定)のPDF版が、日医ホームページのメンバーズルームに掲載されている。)



医療分野における個人情報保護

 ★医療の場における個人情報
患者に関するあらゆる情報
医療分野・・・診療録・処方箋・手術記録・助産録・看護記録・検査所見記録・エックス線写真・紹介状 等
介護分野・・・ケアプラン・介護サービス提供に係る計画・提供したサービス内容等の記録 等
医療機関の従業員に関する情報も対象となる。

 ★適用対象となる医療機関

5,000件以上の個人情報を取り扱う医療機関
5,000件を超えない医療機関は努力義務
識別される特定の個人の数の合計が過去6ヶ月以内の
  いずれの日においても5,000を超えない事業者を除くもの
 ★厚労省によるガイドライン
「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(平成16年12月)
                  (http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/h1227-6.html )
医療分野、介護分野への対応
カルテ開示については日医作成「診療情報の提供等に関する指針」(平成14年10月)との二本立てとする。
              (http://www.med.or.jp/nichikara/joho2.html)

 ★医療機関の義務
利用目的の特定、第三者提供の制限 →  ポスターによる院内掲示
安全管理措置 →  院内規則の制定  
→  従業員の監督 →  誓約書を交わす
→  委託先の監督 →  確認書を交わす
開示義務・訂正義務・利用停止義務・苦情処理体制の整備

 ★診療記録類の保管
盗難、紛失、漏洩、毀損対策が必要。
診療中は不用意な放置防止、休診中は盗難予防。
電子情報にはIDやパスワード管理、オンラインにはファイアウォール等のセキュリティーが必要。
※ネットワークを不法侵入から保護するシステム

第三者提供の例外

1. 法令に基づく場合
2. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって本人の同意が困難であるとき
3. 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難な場合
4. 国の機関もしくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令に定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合
であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれのある場合

  ○警察・検察庁に対して
令状による場合は原則として個人情報保護法には抵触しない。但し、医師には一定の条件のもと押収拒絶の権利有。
捜査関係事項照会は任意協力なので「警察への協力」と「患者の秘密保持」の優先を慎重に判断する必要がある。
損害賠償請求に発展する可能性が残る。

  ○裁判所に対して
文書提出命令・・・守秘義務を主張した後、本人同意無しで提出可。
調査嘱託、文書送付嘱託、刑事裁判での照会・・・回答の内容、方法如何によっては後に損害賠償請求を受ける
可能性がある。
訴えの提起前における照会・・・守秘義務の対象である場合には回答拒否が可能。

  ○家族に対して
家族等への情報提供については本人の確認が必要。
患者本人の意向に応じた対応が要求される。
本人と家族へ同時に説明する場合には了解の上とする。

  ○行政機関・監督官庁に対して
法令に基づく報告、届出義務が課されている場合には提供できる。(感染症の届け、家庭内暴力の通報など)

  ○学会・研究会・学術雑誌への報告
一般の人が特定の個人を識別できない程度に匿名化すれば個人情報にあたらない。
可能な限り本人の同意を得ることが望ましい。
学術研究機関が学術研究のために個人情報を利用する場合には義務はない。

罰則について

  個人情報の取り扱いについて必要な措置を行わなかった場合、次の罰則がある。(番号の順に行われる。)
@ 厚生労働大臣の是正勧告
A 是正勧告に従わない場合は是正措置
B 命令に従わない場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑

講演会の質問から

 ○福岡市医師会にて開催された「個人情報保護法講演会」における質問事項をいくつかまとめてみた。

Q: 外来患者の名前を呼んではいけないのか?
A: 従来通り、外来患者の名前を呼んで良い。(院内掲示のポスターが必要)
但し、患者本人から、名前を呼んで欲しくない、個人情報の妨害になる等、要望の際には、受付番号で呼ぶ、
呼び出し用のカードを渡すなどの対応が必要。(番号による呼び出しは、患者取り違え等医療事故に繋がる危険
があるのでより慎重な対応が必要)
Q: Eメールによる患者の個人情報のやりとりは可能か?
A: Eメールの性質上、中継局において情報を抜き取られる可能性があり、事故が起きた場合には個人情報保護法
違反となる。二重・三重の安全対策を推奨。FAXによる情報のやりとりについても同様。
Q: 例えば、未成年の精神疾患について、親に説明を行おうとした時、患者である未成年が親への情報提供を拒否
すれば、親への説明はできないか?
A: (患者本人の希望により)親への情報提供を拒否することは可能であるが、第3者提供の例外に当たる(人の身
体に影響を与える)場合で、身体の方が重要であると医師として判断した場合には情報を提供しても構わない。
性病や妊娠のケースについても同様で、状況により適切な判断をすることが必要。

 

<医療情報室の目>
★今後の取り組み
 日医では個人情報保護法について、3/15号日医雑誌に冊子「医療機関における個人情報の保護」を同封する予定であり、また、厚労省でもQ&Aを作成する予定である。福岡市医師会でも、今回開催した講演会の内容を本会のホームページ等を通して公開する予定であるので、各医療機関においては参照されたい。
 医療機関では今までも守秘義務の中で診療に携わっており、基本的な医療情報の取り扱いについては細心の注意を払い、管理してきたところである。個人情報保護法施行にあたって、医療機関にとって特に注意すべきは、義務化された点及びIT情報の取り扱いに関する点であり、医療分野における個人情報保護法は医療情報の利活用が円滑に進むよう定められたものとして捉え、我々医療従事者は今後ともこの法律を上手く活用し、より良い医療の提供を続けていけばよいと考える。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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