医療情報室レポート
 

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2005年 1月28日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:介護保険 −その8−

 厚生労働省の調査によれば、介護保険の要介護認定者数は平成12年4月の制度開始当初の218万人から、平成16年9月末時点では400万人を突破し、約1.8倍となっている。
 このような状況を踏まえ、今国会へは制度の持続可能性を高める為の介護保険法改正案が提出される。
 改正案では、要支援や要介護度1など比較的介護度が軽い人を対象とした介護予防施策の充実(予防重視型システムへの転換)と、特別養護老人ホームなどの利用者の食費及び居住費の徴収(施設給付の見直し)などが中心となっている。注目されていた保険料負担とサービス受給者の拡大については今回の改定では見送られることとなった。
 今回は介護保険制度改革についてまとめてみた。


改革の概要
平成17年 4月 地域介護・福祉空間整備等交付金(仮称)の創設
 市町村整備交付金(市町村対象) 地域密着型サービス拠点・介護予防拠点・地域包括支援センター(仮称)などの整備計画が国の基本方針に適当な時は市町村へ交付金交付。
 施設環境改善交付金(都道府県対象) 特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・ケアハウス・養護老人ホームなどの改善計画が国の基本方針に適当な時は都道府県に対して交付金交付。
 低所得者などに対する措置 介護保険施行前の特養入所者に対する経過措置延長。
平成17年10月 施設給付の見直し※
 居住費用・食費の見直し 特別養護老人ホーム・老人保健施設・介護療養型医療施設の居住費・食費は保険給付外。
 低所得者などに対する措置 高額介護サービスの見直しなど。
平成18年 4月 予防重視型システムへの転換※
 新予防給付の創設 軽度者を対象に新たな予防給付創設。地域包括支援センター(仮称)などで市町村が実施。
 地域支援事業(仮称)の創設 要支援・要介護になるおそれのある高齢者を対象に介護予防事業創設。市町村が実施。
新たなサービス体系の確立※
 地域密着型サービス(仮称)の創設 地域の特性に応じたサービス提供。
(例:小規模多機能型居宅介護・夜間対応型訪問介護・痴呆性高齢者グループホームなど)
 地域包括支援センター(仮称)の創設 地域の総合的マネジメント機関。
(1.総合相談窓口、2.介護予防マネジメント、3.包括的・継続的マネジメント)
 医療と介護の連携強化 介護予防における医療との連携、介護施設などにおける医療機能強化。
サービスの質の向上
 情報開示の標準化 すべての介護サービス事業者に事業所情報開示義務付け。
 事業者規制の見直し 指定更新制導入、指定の際の欠格要件見直し。
 ケアマネジメントの見直し ケアマネ資格更新制導入、1人当たりの標準件数見直しなど。
 人材育成 介護職員は将来的に「介護福祉士」に。ホームヘルパーの研修。
負担の在り方・制度運営の見直し
 第1号保険料の見直し 新第2段階創設(基礎年金以下の年金収入など)と保険料負担の軽減。
特別徴収の対象を遺族年金・障害年金に拡大。
普通徴収における生活保護からの代理納付など。
 市町村の保険者機能の強化 都道府県知事の事業者指定に市町村長の関与強化。
市町村長の事業所への調査権限強化。
 要介護認定の見直し 委託調査適正化(申請者の入所している施設への委託禁止)
代行申請適正化(初回認定時の代行申請範囲限定)
 介護サービスの適正化・効率化 H18.4介護報酬改訂で対応。

改革のポイント


 ★施設給付の見直し


年金給付と介護保険の重複給付の是正などの観点から、特別 養護老人ホーム・老人保健施設・介護療養型医療施設の居住費用や食費を保険給付外とする。

事業者は居住費用を自由に設定できるが、厚労省による基準額は右表。

低所得者については負担軽減の為、新たな補足給付が創設される。



 ★予防重視型システムへの転換


軽度者の生活機能維持・向上の為、新たな予防給付を創設。
軽度者が多い要支援・要介護1から介護予防効果が認められると判定された者を「要支援1」「要支援2」とする。

また、現行の要支援に該当しない者を「準要介護」として 施設利用等へ制限を設ける。


予防給付では訪問介護は「予防訪問介護」として、作業の代行をするのではなく、利用者の能力が向上するよう見直す。
通所介護は「予防通所介護」、通所リハは「予防通所リハビリテーション」として運動器の機能向上に関するサービスを導入する等、個別プログラムを重視。


 ★新たなサービス体系

要介護者を地域で24時間体制で支えるため「地域密着型サービス」を創設。
市町村単位で事業者の指定、必要量の決定、介護報酬の設定(国の水準が上限)を行い、利用者も当該地域住民に限定される。
「通い」を中心に要介護者の状態に応じて随時「訪問」や「泊まり」を組み合わせた新サービス「小規模多機能型居宅介護」も含まれる。
  ※太字は仮称
日本医師会の見解

介護施設利用者へのホテルコスト・食費負担の導入について
  野中博日医常任理事は「在宅の利用者負担とのバランスを図るというのは安易な考え方であり、受難者である施設利用者に対して、新たな負担を強いることは決して認められない」と改めて反対を表明。
今後は、その見直しに向けて、四病協並びに介護三施設の方々と連携を図りながら、国民に対して理解を求めていくとしている。
新予防給付の創設について
  野中博日医常任理事は「かねてから、日医はケアマネジメントの徹底の重要性を主張してきているが、介護予防の中にその理念が生かされており、その点は評価できる」とした。
その上で、医師には、新予防給付の創設によって、より深く患者さんに係わりをもつことが求められてくると指摘。
介護予防がうまく機能するためにも、今後、実際に患者さんを診ている現場の先生方には、介護予防への積極的な関与を求めていきたいとした。
  <日医白クマ通信No.59(2004.12.28)>

 

<医療情報室の目>

  ★改革内容への指摘
 介護施設での居住費・食費を患者負担とすることは(居住費・食費負担の低い)医療への逆流が起こり、社会的入院が増加する可能性がある。
 今後、社会保障制度は一体的に見直すとされており、医療保険への拡大(患者負担増)も懸念される。
 また、新予防給付の導入については、現場からは既に「要介護者が(機能訓練を)希望するのか」「予防の効果の検証はどうするのか」「指導者の確保について」などの指摘が上がっている。介護度も更に細分化され、利用者にとっては判りづらいと考えられる。
  ★医師会の主張
 介護保険制度における要介護者は制度開始当初から約1.8倍に増え、また、給付費も平成12年度3.2兆円(実績)から平成16年度5.5兆円(予算時)へと膨れあがっている。
 医師会では一貫して主張を続けている処であるが、政府が数年来唱えている規制改革の一貫である「株式会社の医療参入」には、参入後に起こりうる弊害が既に介護保険制度の中に現れてきている。
 介護保険制度には開始当初から民間企業の参入が認められており、不採算部門からの撤退・患者の選別・利用者の機能低下を助長するような過剰なサービス提供を行う等、利益の追求が介護保険制度財政を圧迫する要因となっている。
 株式会社の医療参入が認められれば、医療保険制度も介護保険制度同様、財政難に陥る可能性が大であると考えられる。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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