医療情報室レポート
 

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2004年11月26日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:混合診療 −その2−

 小泉首相が9月の経済財政諮問会議で「混合診療」について年内解禁の方向で結論を出すよう指示したことで、政府内を始め関係団体における議論が活発化している。医師会としては混合診療の議論が始まった当初から導入に対し一貫して反対の姿勢を続けている。
 新聞などのメディアや医療に関する情報誌は連日、混合診療に関する内容で紙面を割いているが、元々の「混合診療」の定義が曖昧であることから、医療関係者の中でも理解が区々である。
 本レポートでは昨年混合診療についての特集を行っている(医療情報室レポートNO.67 )が、今回は現状における各団体の主張や問題点などについて改めて紹介してみたい。


現状の医療制度と混合診療

  ○「混合診療」は公的保険が対象とする診療と、保険で認められていない診療を同時に行うことを可能とする制度である。

  



各団体の立場

  

反対・賛成の主な主張

  

★国民への影響

 
公的保険範囲縮小による自己負担増
→ 個人の総医療費の内現行3割の自己負担が、総医療費は変わらずに自己負担が4割・5割と引き上げられる。

 
自己負担増のため、民間保険への加入を余儀なくされる。
→ 疾病リスクの高い人には加入の制限・また、高い保険料が課料される。
→ 医療の不平等化(富裕層のみが医療を受けられ、中産階級以下は受けられなくなる。)

 
国内で未承認の薬や医療技術を選択することにより、健康被害がおこる可能性が高くなる。 (安全の保障が無くなる。)

★医療機関への影響

 
有効性・安全性が確認できていない医療を患者に提供する裁量権が医師へ求められる。

 
医療費増による患者の受診困難

 
保険外の診療が将来保険の対象とならなくなる。

★行政への影響

 
政府・財務省 → 社会保障費(公的保険支出)の削減
           (政府・財務省にとってはメリット)

 
厚生労働省  → 国民の健康被害・医療費の際限なき増大により国民が実際に支払う
            医療費全体の把握が不可能になる。



★保険会社など企業への影響

 
公的保険料企業負担増の回避

 
医療における保険分野の市場拡大・顧客獲得
(保険会社にとってはメリット)

 

<医療情報室の目>
  ★患者・病院の視点
 混合診療の議論の際に、がん患者や難病の方が新しい薬を使いたい場合や病院が自由に新しい診療を取り入れたい場合が取り上げられるが、現行制度にある特定療養費の迅速・的確な運用を行うことにより解決することが出来る。

  ★制度改革の目的

 経済財政諮問会議をはじめとした混合診療導入賛成派には、財源が無いという理由で社会保障を最小限にし、サービスの向上という名目のみを強調している。しかし、混合診療導入や株式会社の医療参入には日本医師会など反対派が主張するように隠された危険性がある。政府の医療制度改革は「自己責任の原則」に基づき、各自が民間保険に加入し 「自分の健康は自分で守る」という制度にしようとしている。(その結果、国民への負担は更に大きくなる。)

 混合診療賛成派が手本としているアメリカの医療制度は、自己責任の原則に基づき失敗している。市場原理・競争原理で行ってきたアメリカの医療制度は(経済的)強者がシステムの根幹になることで、(経済的)弱者はそのシステムからこぼれ落ち、無保険者が国民の7分の1(5,000万人近く)になっている。民間保険は契約料が高いため、保険に加入しない人が増え、大部分の中産階級以下(経済的弱者)が医療を享受出来ない状況が生まれている。

 アメリカの手法による医療制度の実現は、民間保険会社にとっては都合が良い制度であると言える。企業が負担している保険料の支払いが減り、自社保険の市場が拡大し販売が促進されるためである。市場原理主義による医療制度の導入は既に国民の健康・安心は二の次となっている。

 失敗している制度から教訓とすることはあるが、模倣することに意味はない。日医植松会長が指摘している通り、国の医療政策は国民の安心や幸せこそが目的であるべきものだが、この数年の医療制度改革は国の財政回復が最終的な目的のように感じられる。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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