医療情報室レポート
 

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2004年10月 1日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:医療安全対策その1
        −リスクマネジメントを考える−


 医療は、本来、患者と医療従事者の信頼関係、言わば医療における信頼の下で、救命や健康回復を最優先として行われるべきものである。しかしながら、昨今は、日々の報道の中で医療事故に関する内容の占める割合が増加傾向にあり、それに伴い医療に対する国民の不安も増大してきている。
 医療への信頼回復のためには、我々医療関係者が改めて「生命を預かっている」という基本理念に立ち、組織を挙げて取り組むことが重要である。
 医療事故の多くは、医療従事者の単純な誤りや、組織としての取組不足で起こった誤りである場合など様々だが、こうした事故の防止対策を図り、医療に対する国民の信頼を高めることが緊急の課題である。
 医療安全対策を考えるとき、現在の医療技術の高度化や治療内容の複雑化を、「人」(医療従事者に関する施策)、「もの」(医薬品・医療機器・情報などに関する施策)、「施設・組織」(医療機関に関する施策)を軸として体系的に捉えることが必要である。
 本レポートでは、数回に亘って医療安全対策について特集してみたい。第1回目は医療安全に関する現状や日医における安全対策に対する取り組み等について紹介する。


医事関係訴訟の増加
 
★裁判所による調査
 
最高裁判所医事関係調査委員会による医療事故訴訟の調査によれば、地方裁判所における民事事件中、医事関係訴訟の新受付件数は平成6年に約500件であったものが、平成15年には987件と10年間で約2倍に増加している。 (数値は各庁からの報告による概数)


全国地方裁判所に係属した訴訟事件だけでも、増加傾向が示されており、示談交渉や調停事件を含めると医事紛争は我々の身近でかなり日常的に起こっていることが推測される。



 ★意識調査

   


日本医師会の主な取り組み

平成 9年 7月 医療安全対策委員会 設置
平成10年 3月 「医療におけるリスクマネジメントについて」 医療安全対策委員会発表。(医療情報室レポートNo26で特集)
平成11年 2月 「医療事故の発生防止について」声明発表
平成12年 1月 「診療情報の提供に関する指針」 前年制定の指針を実施。全国の医師会に「診療に関する相談窓口」を設置。
平成12年 7月 患者の安全確保対策室 「患者の安全」を守ることが何事にも優先する医師の責務として、患者の安全に関するセミナーの開催や医療安全推進者養成講座の設置を行っている。
平成13年 2月 医療安全推進者養成講座 医療機関における組織的な安全管理体制の推進確立を図ることを目的として開講。
安全管理に対する知識と技術を身につけた人材を育成・養成する。
平成15年より厚生労働大臣指定講座。
平成13年 8月 「患者の安全を確保するための諸対策について」 医療安全の基本理念を人・もの・組織の観点から捉え、より具体的に纏めている。
平成14年 2月 「接続器具・シリンジ・輸血セット・輸血機器等に関わる安全確保の検討」 医療従事者のアンケート結果を基に安全な医療器材の開発への意見を纏めている。
平成14年 9月 「医療安全管理指針のモデルについて」 病院、診療所における2つの医療安全管理指針のモデルを作成。
平成14年10月 「患者の安全に関するWMA宣言」 日医提案の「患者の安全に関するWMA宣言案」が世界医師会ワシントン総会にて採択。
平成15年12月 患者の安全確保に資する「医療事故の防止策」 繰り返し医療事故を起こすいわゆるリピーター会員医師に対して会員資格停止も視野に入れた厳正な対応をすること、生涯学習の義務化について検討を進め、会員医師の資質向上に繋げていく方針を明示。
平成16年 2月 「自浄作用活性化を目指した具体的方策」 自浄作用活性化委員会作成 。不正行為や無責任で放漫な医療行為が原因で医療事故を起した会員医師には、医師会が組織として厳正に対処するとした答申書。
地域医師会に専門の委員会を置くこと、医師の生涯教育に医療事故を繰り返し起こすリピーター対象の特別講座を設けること等を提案。
平成16年 3月 「医師の職業倫理指針」 患者の意思を最優先して治療法を決定することや、質の高い医療を提供するため、生涯に亘って学習に励むこと等を定めている。
(1)医師の責務(2)生殖医療(3)人を対象とする研究と先端医療 の3章構成。
3〜5年周期で改訂される予定。
平成17年予定 医療安全再教育制度(仮称) いわゆるリピーター医師及び行政処分を受けた医師会員を対象に、倫理教育や技量の確認を再教育カリキュラムとして設け、通告から除名に至る制裁制度の一つに位置付ける制度。
再教育制度の対象となる医師の選定には、医療安全対策委等、関係委員会による合同委にて各地の医師会と連携する予定。(各医師会の相談窓口からの情報提供を含む)
未 定 医師免許更新制度 日医寺岡暉副会長は、質の確保から議論されている医師免許更新制度については、社会的にも要望が強いこと等から検討の余地はあるとし、医師会としてどの様に取り組むか検討すると慎重な姿勢。

 

<医療情報室の目>
  ★医療の安全を目指して
 医療安全対策には、医療従事者である我々が改めて生命に携わるという意識に立ち、様々な角度から事故の要因を検証し、組織全体で問題の解決に取り組むことが必要である。
 医療安全対策が求められるようになり数年が経過した。医療安全対策に関する議論、課題は既に出し尽くされ、今後は実行のみと言われることもあるが、最近では安全対策上、日本の医療提供における構造的な問題が浮き彫りにされてきている。
 例を上げれば、医師が数年で交代してしまう病院等に於いては組織的な安全対策への取り組みが十分に出来ない場合があること、医療の急速な進歩に伴い、取得すべき知識・業務等も複雑多様化しているため、同時に多くの業務量が必要とされる状況が発生していること、医師不足により夜勤明けでそのまま通常の日勤を強いられているといった過酷な勤務状況等があげられる。
 このようにこれまでの医療が従事者による犠牲的な努力により保たれていることはあまり知られていないのではないだろうか。
 医療安全対策を考える時、国全体の医療提供システムの見直しが必要であるのかもしれない。
 行政による医療費抑制政策は益々強くなってきている様相を呈してきているが、安全な医療の提供には、十分な環境整備及び人材の登用等が必要であり、それが引いては国民の安全にも繋がるという認識の基、現状を踏まえた政策を検討してもらいたいと切に願う所である。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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