医療情報室レポート
 

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2004年 1月30日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:財源から見た医療保険制度

平成15年12月24日に平成16年度の予算案が閣議決定された。
一般会計82兆1109億円のうち、社会保障関係費は前年度比4.2%増の約19兆7900億円で、その内、8兆1445億円は医療費に割り当てられることになっている。しかし、予算編成の議論は主に一般会計の中での議論が中心で、特別会計については不透明な部分も多く、予算全体として捉えにくい点が多い。
この数年間は、老人一部負担定率制導入や社保本人3割負担、診療報酬のマイナス改定等の医療制度改革が行われているが、そもそも医療保険制度がどのような財源から成り立っているのか、今回の医療情報室レポートでは、財政的な面から見た医療保険制度の全体像について特集してみた。
  


平成16年度の医療費

 ★一般会計の内訳

 
@
平成16年度予算の一般会計総額 82兆1109億円(前年度比+0.4%)
 

 
A
平成16年度社会保障関係費総額 19兆7970億円(前年度比+4.2%)
 

 
B
平成16年度医療費 8兆1238億円(前年度比+4.8%)
 


 ★国民の目に触れない特別会計
 

一般に日本の国家予算は80兆円程度として認識されており、新聞などのメディアにおいても一般会計の内訳に多くの紙面を割いている。しかし、日医総研の「入門 国家予算の読み方−社会保障費を中心に−」では、国の予算には一般会計の数倍に上る金額が特別会計にあり、その一部が官僚の天下り先となる特殊法人などへ補助金として流れていることを指摘している。
平成15年度予算における歳出(支出)は一般会計81.8兆円、特別会計199.7兆円。これらを連結して重複部分を除いた国家予算の歳出合計は232.6兆円。
また、補助金をカットし、国家公務員の人件費と経費も民間企業のリストラ並みにカットすれば、歳出を12.5兆円削減できる可能性があると指摘している。

政府は、国家財政の逼迫のため、保険料への総報酬制導入や患者自己負担の引き上げなどに踏み切った経緯があるが、医療財源論議は一般会計にのみ焦点を当てて行われており、本来は特別会計を含み国家予算全体として捉える必要がある。

社会保険・国民健康保険の財政状況

 ★社会保険
 

政管健保決算の矛盾点
 
 
日本医師会では、政管健保平成14年度単年度収支決算について、赤字決算としながら、事実上の積立金を500億円程度確保していることや、保険料の収納率が低下していることなどを問題点として指摘している。
社会保険庁では平成14年度の単年度収支決算(収入7兆449億円、支出7兆6037億円)は5588億円の赤字で、事業運営安定資金(積立金)も枯渇したと発表しているが、日医は@老人保健拠出金とA保険料収納率の2つの視点から、決算の矛盾点を指摘している。

 
 
@
各保険者が負担する「老人保健拠出金」は、その年の老人医療費を見込んで一旦支払い、過不足分を2年後に精算する仕組み。
平成14年度は12年度分の精算時期にあたり、介護への移行が遅れ、当初の予測以上に医療費がかかったために、政管健保からは精算分として1669億円の追加支出があった。
ところが、老人保健拠出金の受け入れ先である社会保険診療報酬支払基金の「老人保健特別会計」のこの年度の決算は6090億円の黒字となった。各保険者が拠出金を払いすぎたためで、政管健保分はこのうちの511億円。

日医では、「511億円を特別会計に積み立てたまま表に出さない形で決算するマジックにかけられたという印象を受ける」と強い問題意識を示している。
 
 
A
保険料収納率はこの5年で最低となったが、日医の検証では、老人保健拠出金を適正に支払っていれば107億円、保険料収納率が過去4年の平均値程度であれば400億円の事業安定資金をそれぞれ残して平成15年度につなげることができた計算になるという。
 
 
 
<日本医師会「JMA PRESS NETWORK」ニュース(2003.8.5)>
 

平成15年度政管健保の単年度収支
 
 
政管健保の平成15年度単年度収支決算は、収入6兆8406億円、支出6兆7709億円で697億円の黒字となることが明らかとなっているが、昨年4月の被用者保険3割負担導入に伴う受診抑制の影響などによるものである。

 
 
 
<日医FAXニュース(2004.1.27.1421号)>
 ★国民健康保険
 

国民健康保険の財政状況
 
 
厚生労働省は昨年11月に国民健康保険の平成14年度の財政状況(速報値)を発表した。平成14年度の収支は収入9兆5726億円に対して支出は9兆3742億円。差し引き1984億の黒字となるも、会計年度の変更と赤字補填のため一般会計から繰り入れた分を差し引いた赤字額は前年度比22.6%増の4188億円と過去最大としている。

しかし、注意しなければならない点は、例年決算速報で取り上げられるのは市町村の分だけで、さらに市町村の中の一般被保険者分の単年度収支だけである。
収支状況の確定値は、平成14年6月に発行された「平成12年 国民健康保険事業年報」に掲載されており、これによると市町村と組合とを合わせた全体の収支差引額は3578億円の黒字で、市町村のみの収支差引額は2839億円の黒字となっている。

 

市町村国保の収納率の確保
 
 
国保では市町村の未収金問題が大きく、市町村での収納率は平成14年度で90.39%で、年々低下する傾向にある。
市町村国保の累計未収金残高は8788億円に上り、単年度分だけでも2959億円になる。
 
 
 
<日医総研報告書 第48号日本の医療・介護保険財政2000−保険者の統合・再編をにらんで−より>

医療費の国際比較

 ★日本の医療費
 

日本の医療費はOECD(経済協力開発機構)加盟国中18位という低い医療費だが、WHO(世界保健機関)による健康達成度は1位となっている。
一方、米国は世界一高い医療費で、健康達成度は15位、医療の平等性は32位である。現在、医療制度改革で議論されている株式会社の医療参入や混合診療といった米国型の医療制度が果たして本当に必要であろうか?




<医療情報室の目>
今回のレポートでは、我が国における医療費の内訳について概略を特集したが、新聞紙上などのマスコミで報じられている情報が不足していることは否定できない。従来の制度の中で、安い医療費で如何に良質の医療を提供してきたかについては、国際比較により明らかで、このような情報の偏りの中、医療制度改革についての議論が進められることについては些かの不安を覚える。
1月16日には、政府の経済財政諮問会議は「構造改革と経済財政の中期展望」について小泉首相からの諮問を受け、「持続可能な社会保障制度を確立し、各制度毎の改革を進めながら社会保障給付の伸びを抑制する」との考えを示している。今後も医療制度改革が引き続き行われるようであるが、小泉首相には医療給付の抑制や保険料の値上げ等といった国民に対しての「痛み」のみではなく、自身へ「改革のメス」を入れてもらうことを望む。
今回の特集では、医療保険財政の全体像について大まかに述べたが、それぞれ個別の財政状況については、今後のレポートで回を重ねて特集していきたい。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 長 柄 均(広報担当)・江 頭 啓 介(地域医療担当)・入 江  尚(情報担当)


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