『ペットと病気』

 いやしの時代の象徴としてペットを飼うご家庭も多くなりました。以前はペッ

トといえば、犬、ネコ小鳥、かめというのが主流でした。最近では種類も豊富

となりアライグマ、フェレット、イグアナ、リスザル、プレーリードックなどの
外国産の動物、風変わりな動物のペット化が定着してきました。そこでこれらの
動物から、新たな人畜共通感染症が問題になってきています。現在約200種類
の病原体がわかっています。
 そこで今回はネコ、犬、トリと、今まで日本ではまれであった病気のお話をし
ます。

◆皮膚科の立場から◆

 まずはじめは細菌の話です。ネコや鳥の口の中にはパスツレラ菌という細菌が
います。そこで噛まれたり引っかかれたりすると、初め48時間以内に局所が腫れ
て痛みが出ます。
 次にネコに引っかかれて起こるネコ引っかき病を紹介します。これは読んで字
のごとくネコに噛まれたり、引っかかれたりして2週間後に脇や足の付け根のリン
パが腫れてくる病気です。これはボートネラ菌という細菌感染によっておきます。
どちらの病気も全身に広がることもあり早めに病院で内服治療が必要です。
 次にカビを紹介します。ヒトにできるカビとしては足の水虫が知られています
が、イヌやネコからカビを移されると頭に脱毛をおこすことが多いです。この場
合塗り薬だけでは治らないため内服で治療します。
 次に昆虫で多いのはノミやダニです。ネコノミやイヌノミに刺されると、あと
が非常に痒く赤くなったり水疱ができたりします。また、イヌやネコに寄生する
ダニつまり疥癬もいます。毛が異常に抜けたペットをだっこするとペットと接す
る場所に一致して赤いぶつぶつができます。そして、海外旅行も一般的になった
現在、熱帯の砂地や砂浜ではスナノミがいます。これは皮膚に寄生します。寄生
されると足のゆびに黒い点を持つしこりができます。最後に

中南米に生息しているヒトヒフバエ、ウシバエやウマバエで

すが、これらもヒトに寄生します。刺されたり幼虫に触れる
ことで毛穴から幼虫が侵入し徐々に成長します。皮下に移動
するしこりが触れます。
 このように今まで知られていなかった病気も官公庁の規制
をかいくぐってペットを輸入することでやってきたり、海外
旅行が身近になった今、日本人が現地の風土病を知らずに被
害に遭うことがおきていますので、十分気をつけましょう。
                    (松尾 圭三 )


 
内科の立場から
 ペットと病気の関連性は2つの面から考えることができます。
 そのひとつは以前から良く指摘されているように、ペットが人間に病気を引
き起こすことがあるという困った面です。
 ペットが持つ病気が人に伝播する人畜感染症というものがあって、その病原
体の種類は細菌やウィルス、リケッチアなどが報告されています。直接ネコ等
のペットとの接触でおこるトキソプラズマ症、ネコ引っかき病、インコ、オウ
ム等では排泄物が乾燥し空中に舞い上がりそれを吸入して起こるオーム病、鳩
の糞によるクリプトコッカス症などがあります。また、ミドリガメではサルモ
ネラ症があります。これらの病原体の感染を避けるには、口移しに餌を与えな
い、ペットに触れた後は手を洗うといったことに注意して上手にペットと付き
合っていくことが大切です。
 一方、最近はペットを飼育することによって飼い主である人間が癒されると
う面も注目されています。本能で生きながらも決して飼い主を裏切らない、




いわば人間社会の乱れを取り除いた面をもっているのです。
アニマルテラピーといって、ペットの持つ癒しの力を利用
する考えもあります。例えば自閉症の子ども達とイルカと
の触れあい、あるいは長期療養中の小児病棟や高齢者の病

棟、ホスピスなどでのイヌを代表とするペットとの触れあ

い。動物と触れあう中で人間が本来もつ免疫力を強くする
力があると考えられます。以上のようにペットと病気の関
連性にはマイナス、プラスの両面があることを忘れてはい
けないと思われます。
                   (上野 俊幸)
 
獣医の立場から
 ペットも人間も同じ哺乳動物である以上、お互いに共通する伝染病あるいは
感染病は地球上に多数存在します。これはズーノーシス「人獣共通感染症」と
いわれています。現在ペットは、人とペットがもっともいい関係であるために
家族の一員としてお互いに「伴侶」としてかわいがっていく時代になって来て
います。しかし濃厚に接する機会が増大するとそれだけ危険率も増えるわけで
す。特に小児および妊婦、高齢者は注意が必要です。
 だからといっていたずらに恐れる必要はありません。幸にも日本には現在狂
犬病が発生していません。WHOによると世界87ヶ国が汚染されており、毎年
5万人が死亡していると推定されています。発展途上国に患者が多いのも「ズ
ーノーシス」の特徴でもあります。衛生的に気をつけて一定のルールを守って
動物との接触に心がける必要があります。
 
「代表的な人獣感染症」
<トキソプラズマ症>
 トキソプラズマ症は世界的に広く分布し
て、200種類以上の哺乳類及鳥類が感染
します。妊婦が感染すると流、死産をおこ
します。ネコはトキソプラズマの終宿主と
されていて、抵抗性の強い「オーシスト」
を便中に排泄するため、同居している衛生的なネコから感染するより、汚染さ
れた食物の摂取や砂場が、人や動物の感染源となっています。
 
<寄生虫の体内移行症>
 寄生虫にはそれぞれ特定の寄生する動物種がありますが、それらが他の動物
種に感染するとそれは寄生虫にとって決して住みやすい場所ではありません。
人間の体の中に入った寄生虫は快適な環境を求めてカラダの中を動きまわって、
嚢胞(のうほう)と呼ばれるすみ家をつくったりします。これは生命にかかわ
るような悪影響を及ぼすことがあります。エキノコックスはその代表的なもの
です。最近北海道だけでなく、本州でも報告されています。
 
<人獣共通感染症から身を守る10のルール>
1 犬と猫の健康チェックと予防
(ワクチン、フィラリア予防、ノミ予防、検便と駆虫)
2 犬と猫の衛生管理(手入れ)


3 口移しで物を与えない。
4 触ったら手を洗う。
5 食器は別にする。
6 食料保存や使う包丁は別にする。
7 寝床の掃除や消毒
8 迅速な便処理
9 土を触るときは手袋をし、手をなめない。
10 噛まれたらすぐ消毒をする。