博多人形師として、全国にその名を馳せ、内閣総理大臣賞などの数々の
賞を受賞し、ご自身も国指定卓越技能保持者、福岡県無形文化財保持者と

して認定されている井上あき子さん。故・井上長二郎氏との結婚を機に興

味をもっていた博多人形の世界に本格的に足を踏み入れ、現在もなお、現

役の人形師として活躍されています。


井上 あき子んプロフィール】
 昭和14年 博多人形師井上長二郎氏と結婚 人
       形師事
 昭和18年 夫長二郎氏出征中、1人で制作
 昭和39年 長二郎氏死去 この年博多人形組合
       加入
 昭和41年 名工小島与一師の公認で与一門下生
       進交会加入
 昭和54年 伝統工芸士に認定
 昭和58年 日本通産大臣指定伝統工芸産業功労
       賞受賞
 平成 4年 国際ソロプチミスト賞受賞
 平成 6年 叙勲 勲六等端宝賞
 平成 9年 福岡県無形文化財保持者
 平成10年 国指定卓越技能保持者
 これまで内閣総理大臣賞3回など数々の賞歴があ
 る。

博多人形師になったきっかけについて教えていただけますか?

 博多人形の魅力に引き込まれたんですね。もともと「手に職を」と思ってた

んですけど、博多人形に出会って、「これだ」と思い、本当に手に職をつけた
いと考えるようになりました。高等女学校を出て、勤めていましたが、旅先で

泊まった旅館の部屋の隣で夫(故・長二郎氏)が人形を作っていて、その人形

に魅せられました。それから、何度か長二郎と会う機会があって、いろいろと
話をするようになったんです。 
 
博多人形に惹かれて、すぐに人形師になったのですか?
 いえ、お嫁に来てほしいと言われまして。人形を作ると、それにかかりきり
なるので、家事がおろそかになるからと、女性がすることは嫌われていました。
でも、結婚後、夫が徴兵されて、それまで、夫の仕事や準備や手伝いをしてい
た経験をもとに、夫の型で作った人形の彩色をして、それを売って生計を立て
るようになりました。夫が戻って来てから、こっそり作った人形をコンクール
に出展したら一席を取りまして。人形師として踏み出したかんじですね。夫は
そのころ寝たきりの状態でしたが、そのことをとても喜んで「人形師として食
べていけるね」と言葉をかけてくれました。そして、安心したのかその後、他
界しました。
 
お若くていらっしゃいますが・・・。
 11月に83歳になりました。こんなふうに元
気でいられる体は親からもらったものです。あり
がたいと思っています。感謝しています。
 
お若く、健康でいられる秘訣は何ですか?
 とくに何をしているわけではないですが、私は
牛乳が大好きなんですね。それから、辛いものが
きらい。牛乳はお味噌汁にも入れたりします。ま
やかになっておいしいし、牛乳の匂いもまったく
感じません。ほかにも、カレーとか、ちゃんぽん
とか、何にでも牛乳を使うんです。塩辛いもの、
辛いものは食べません。好みがそうだから、自然
にそういう食事になるんですね。それが体にいい
のかもしれません。
 
牛乳はどのくらい1日飲むのでしょうか。
 そうですね、びんの牛乳で1日2〜3本。朝は
 ご飯のかわりに牛乳を飲みます。それ以外では、
 そのまま飲むときもあれば、料理に使うときも
 あれば、いろいろです。詳しいことはわかりま

 せんが、牛乳は栄養面でもいいと思うので、そ

 れが私の元気の秘訣はないかと思いますよ。カ
 ルシウムとかとれるといいますから、丈夫でい
 られるのもそのおかげなんでしょうかね。食事
 はいたって質素ですよ。青菜のおひたしや野菜
 の煮物などの和食が中心です。いろんなものを
 ちょこちょこつまんで食べています。
 
 
創作活動は1日どのぐらいされていますか?
 昔は朝起きて間もなく、7時ごろから、夜中の12時ごろまで、ずっと(工
房に)座っていましたね。没頭するんですよ。自分のイメージに任せて人形を
作って、普通はそれに彩色するんですけど、私はさらに(粘土を)盛り上げて
焼いて、そこに彩色して。普通の人の2倍手をかけて作っているんです。手間
がかかれば大変は大変ですけど、それが私のやり方ですし、こだわりでもあり
ます。そうでなければ、井上あき子が作った博多人形ではなくなりますから。
 
ご自身の仕事へのこだわりですね。
 初めて新幹線が博多まで開通したとき、一斉に博多人形を作ったり、扱った
りするところが増えました。でも、最後まで残っているのは、やっぱりしっか
り仕事をしてきた人たちなんです。いいものをしっかり作っていれば、生き残
れると思っています。今でもたくさんの注文をいただ
いていて、1体の注文を3ヶ月ぐらい待っていただい
ている状態です。なかには1年も待ってくださる方も
いらっしゃいます。本当にありがたいことだと思って
います。私が作ってきた人形を認めてくださって、欲
しいと思ってくださる方がいるのはうれしいことです。
だから、もっともっといいものを作っていかなくては、
と思うんですよ。



 

井上博多人形工房にて