今年、芸道25周年を迎えられた女流講釈師の神田紅さん。ジャンルを越えて、
どんなテーマもかみ砕いたわかりやすい言葉でストーリーを展開し、表情豊かな
語り口が聴衆をひきつけます。
今回は、講釈を通じて元気をおすそ分けしながら、全国を飛び回る神田さんに、
健康づくりの秘けつを伺いました。

神田紅さんプロフィール
福岡県生まれ。早稲田大学中退。文学座研究所卒業。昭和
54年講釈師・神田山陽門下となり、神田紅を名乗る。昭和
57年その特異なキャラクターを活かした芝居講談を手掛け
る。昭和63年『紅恋源氏物語』(ダイワアート)出版。平
成元年 真打昇進・本牧亭にて昇進披露興行。舞台、映画
、テレビ、ラジオ、ビデオ、新聞など、あらゆるメディア
で女優・講釈師・レポーター・エッセイストとして活躍。
 

地方に出かけることの多いお仕事、不規則な生活は健康に気を使いますよね。
 そうなんです。月のうち三分の一が地方公演という生活ですからね、不規則で不
摂生が当たりまえなんですよ。だから人間ドッグには、年2回は行くことにしてる
んですけど、そこの先生に「一番お金をかけなくてはいけないのは体だ」って言わ
れたことがあるんです。それでお医者さんとは親しくしてるんですよ。
 仕事柄、とくに喉や声をよく使いますからね。全国の耳鼻咽喉科の先生とおつき
合いしています。もちろん主治医の先生の所にはしょっちゅう行きますけど、公演
中は保険証を持ち歩いて、行った先で時間を見つけて耳鼻科で診てもらいます。
「お医者さん、好きね」って言われるんですけど、おかしいなと思ったら必ず診て
もらう。先生のおっしゃることを信頼して、お任せすることにしてるんですよ。
 それから風邪をひくと仕事ができなくなりますので、とにかく風邪をひかないよ
うに気を使っています。ひきそうになったら、予防するように心がけています。ふ
つう、うがいって1度に3〜5回くらいしかしないでしょ?私の場合は、20回はす
るんですよ。「風邪、出てけー!」って。これでたいていよくなっちゃう。手もよ
く洗いますね。それでもだめだったら、漢方薬を飲んで、いよいよだめだっていう
のがわかったら病院に行くようにしています。
 20代のころは不摂生、不規則、精神的ストレス、寝不足などが絶えませんでした。
付き人の経験もこのころしましたね。トイレをがまんしなくてはならない仕事です
からね、膀胱炎が長く続きまして、抗生物質を飲みつづける暮らしだったんですよ。
あんまり繰り返すものですから、効く薬がなくなるほど抗生物質ばかり飲んで、薬
から離れられない暮らしをしていました。そのころ白髪にもなったり、薬の副作用
がでたり。
 30代になると仕事が忙しくなりましてね。39歳で結婚しました。
 
お食事には気を使われますか?
 私は自分ではほとんどしないんですけど、結婚した主人がけっこうお料理が好き
な人で、個人でやってらっしゃる農家と契約してお野菜を取り寄せてるんです。月
に1回段ボールで野菜を送ってもらってるんですよ。それが12年くらい続いていま
す。それでなんとか健康を維持できてるんじゃないかなって思いますね。
 あとはおつきあいもありますのでね、サプリメントの類いもあれこれあれこれや
っています。
 
健康のために何かされていることがありますか?
 2年半ほど前に、NHKの朝の番組で「初心者の登山を経験してください」とい
う話がありまして、正直言って「山なんて年寄りがやるもんだ」って思って始めた
ら、すっごい疲れちゃって。体力がこんなになくなっていたのかって、初めて知っ
たんですね。
 体を上に持ちあげていくことが、いかに筋肉を使うことかって。それがきっかけ
で、トレッキングを始めたんです。最初は筋肉痛がひどくて、1週間は階段が降り
れなかったり、仕事に影響が出るのは嫌だったんですけど、高座に座れなくなるほ
どだったんです。でも続けるうちにおもしろくなってきましてね。
 今では平均して月に1回くらいの割合いで、日帰りをモットーに登っています。
寄席のご常連さんにトレッキングをやっている人がいましてね。その方がテレビを
見て、いっしょにやろうって声をかけてくださいまして、「ヤッホー紅隊」ってい
うグループをつくりました。みんなでいっしょにいろんな体験をしながら登るんで
すよ。メンバーは老若男女、10名くらい。大学生から60代半ばまでいます。ゆかい
な仲間なんですよ(笑)。トレッキングを始めてから、歩くことがおっくうじゃな
くなりましたね。
 重い荷物を持って歩くということが訓練になるって思うから、全然苦じゃなくな
っちゃったんですよ。目的意識がないと、私、やる気が起こらないんですけど、駅
の階段も平気になりました。意識が変わりましたね。
 
トレッキングの醍醐味は?
 山は人生そのものなんですよね。楽しいばかりじゃない。何度登っても苦しいん
ですよ。きつくてきつくて、なんでまた来ちゃったんだろうって思うんですけど、
その中で迷惑かけないようにしないといけないんですけど。でもまた登りたくなる。
それは、登って降りるという間は、なんにも考えられなくなるから。ふだんは心配
ごととか気になることがあるじゃないですか。でも全部ふっとんじゃう。考えられ
ない。いやなことがあっても、山を登るとすっきりする。それがいいんですよ。ま
ったく真っ白、無の状態。だからといって孤独かというと、そうではないんです。
 トレッキングって1列になって登るんですけど、1番後ろはベテランが、先頭は
2番目にキャリアのある人が担当することになってるんです。人のペースに合わせ
て登れる人っていうのは、よっぽどの体力がないといけないんですよね。人のリズ
ムに合わせて登るっていうのは、大変なんですよ。初心者は先頭の次を歩く。先頭
は初心者の様子を見ながら早さを調節して、1番後ろは遅れる人に合わせて歩くん
ですね。それぞれの役割分担が自然にできていく。チームワークですね。それで終
わって山を降りてくると、必ず温泉に入るというのをコースに入れてるんですよ。
ちょっと飲んで、だらだらしないでさっさと帰る。これがいいんですよ(笑)。
 
 はつらつと笑顔で話される神田さん。いつまでもすこやかにご活躍されますよう
に。応援しています。

芸道25周年。9月には地元・福岡で独演会が開催されま
した。月の三分の一は地方公演に出かけるというハー
ドスケジュール。公演先の全国のお医者さんと、親し
くされているそうです。