医療情報室レポート
No.212

2016年9月30日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:日医かかりつけ医機能研修制度について

  近年、医療の機能分化が進む中、地域の「かかりつけ医」を普及させるための様々な施策が進められている。国は、2014年の診療報酬改定で、主治医機能を評価する「地域包括診療料(加算)」を創設し、2018年度からは、総合的な診療能力を有する「総合診療専門医」を新たに専門医に加えるとしている。また、日本医師会では、「かかりつけ医」の育成とともに、地域住民が「かかりつけ医」を選択する際の新たな指標づくりを目的に、今年4月に「日医かかりつけ医機能研修制度」をスタートさせた。
 今回の医療情報室レポートでは、この「日医かかりつけ医機能研修制度」を中心に、国や医師会が進める普及策を概観し、今後の「かかりつけ医」のあり方について考えてみたい。

●国民が望む“かかりつけ医”の姿

  平成26年、日医総研が行った「日本の医療に関する意識調査」の中で、『健康のことをなんでも相談でき、身近で頼りになる“かかりつけ医”を持っていますか。』という問いに対し、1,122名の回答者のうち全体の53.7%が『持っている』との回答を示した。
“かかりつけ医”の定義が明確でない我が国の現状に照らせば、これは一見、有意な結果といえそうだが、世代別の分析結果(右図)をみれば、その回答は医療機関に罹りがちな高齢者に偏っていることがわかる。
  また、そもそも日本の医療は、教育システムからして何らかの専門領域の取得が中心となっているため、あらゆる愁訴や相談に対し100%対応できる“かかりつけ医”というのは数少ないはずである。
 しかし一方で、「日本の医療に関する意識調査」では国民が“かかりつけ医”に望むこととして、『専門医への速やかな紹介』、『紹介先への適時適切な情報提供』といったゲートキーパーとしての役割のほか、『どんな病気でもまずは診療できる』といった幅広い診療能力に期待するという項目が上位にのぼっている。
  
今年4月に始まった「日医かかりつけ医機能研修制度」(詳細は後述)は、これらの国民の期待に応えられる“かかりつけ医”として必要な機能を修得するシステムであり、これからの医療・介護提供体制において、地域住民の安心を支えるための制度だといえる。
 

●“かかりつけ医”の更なる普及に向けた国の施策と現状

○診療報酬改定による主治医機能の評価

 国は、2014年の診療報酬改定において、複数の慢性疾患をもつ患者に、継続的な健康管理や服薬管理等を行う主治医機能を評価する「地域包括診療料(加算)」を創設し、2016年度の改定では“かかりつけ医”の普及をさらに後押しするため、同地域包括診療料(加算)の施設基準を緩和し、認知症地域包括診療加算など新たな項目を盛り込んだ。   しかし、これらの施設基準の算定には、常勤医を複数人確保することや、24時間の患者対応や薬局との連携といった厳しい要件が課せられているため、届け出る医療機関がなかなか広がらないというのが実態のようである。

○「総合診療専門医」の創設(2018年度予定)

 国は、専門医制度を見直し2018年度から新たな制度を開始し、19番目の基本領域に「総合診療専門医」を加える予定である。さらに、新しく始まる専門医制度では、現在、各学会が独自に行っている専門医の認定や養成プログラム評価を、新たに設置された第三者機関である「日本専門医機構」にて行うとしており、今後、「専門医」に対する客観的な基準が公的な形で担保されるものと期待されている。
 

●『日医かかりつけ医機能研修制度』の創設

  日本医師会は今年4月に『日医かかりつけ医機能研修制度』を創設した。これは、地域における「かかりつけ医」の重要性が高まるとされる中、かかりつけ医機能の強化を図ることを目的につくられた制度だといえる。研修の概要であるが、研修の受講を希望する医師は、平成28年度から30年度までの3年間で、各都道府県医師会を通じて実施される3つの研修(基本・応用・実地)を修了する。研修を修了した医師には修了証書(認定証)が発行され、これを待合室などに掲示することで、地域の「かかりつけ医」であるということを示し、より一層の患者との信頼関係を築ける効果があると期待されている。ただし現時点では、この修了証書(認定証)の有効期間は3年間とされており、日医は、その後も「継続的な研修」を必要とする考えを示している。
 なお、「応用研修」については、日医が作成したシラバスに基づく研修(6講義・計6時間)が各年度1回のペースで実施される予定となっている。今年度の応用研修会は、去る5月22日に日本医師会館で開催され、各都道府県医師会を通じて映像配信による講義が実施された。

 
 ○福岡県医師会認定総合医(新かかりつけ医)制度との関係

 福岡県医師会では、全国に先駆けて「新かかりつけ医宣言」を行い、2013年度(平成25年度)から福岡県医師会認定総合医(新かかりつけ医)制度を行っている。これは、日本医師会生涯教育講座の受講を必修とし、地域保健医療活動への従事などを要件とするもので、福岡県医師会が審査を行い認定証を発行するという独自の制度である。
 今回始まった「日医かかりつけ医機能研修制度」とは基本的に別制度ではあるが、福岡県の医師については、「福岡県医師会認定総合医制度」の申請(認定)を前提に「日医かかりつけ医機能研修制度」の申し込みを受け付けることとなっているので注意されたい。
 
                      

医療情報室の目

★“かかりつけ医”。それは「社会的機能」を備え、諸問題に全人的視点での対応を併せ持つ医師である。

  
「かかりつけ医」、「主治医」、「総合診療専門医」。いずれも「総合的な診療能力を有する医師」を表すという点では共通しているが、これらの意味合いは微妙に異なりそうだ。まず、「主治医」という呼称は、これまで、厚生労働省が所管する部会等でしばしば用いられ、特別な制度上の定義などはなかったが、2014診療報酬改定で地域包括診療料(加算)が創設された際に、これを評価する表現として「主治医機能」という文言が明記された。次に、2018年度から始まる新・専門医制度の「総合診療専門医」については、2013年4月にまとめられた「専門医のあり方に関する検討会報告書」の中で、「日常的に頻度が高く幅広い領域の疾病と傷害等について、(中略)適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供することが求められる」と定義されている。そして最後に「かかりつけ医」であるが、これは日本医師会によれば「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と説明されている。
  さて、これからの医療・介護の仕組みの中心となる「地域包括ケアシステム」であるが、このシステムで要となる医師の役割は、まさに「かかりつけ医」である。地域の患者・家族に寄り添った医療の提供はもちろんのこと、行政や多職種との連携、関連する地域の会合への参加など、地域包括ケアシステムでは、地域医療、保健、福祉全般に亘る社会的対応が求められている。このような視点に照らせば、「主治医」、「総合診療専門医」という呼称は、「医療」というニュアンスが強く、限られた制度下でのみ使用される専門的表現と感じられ、まさに「かかりつけ医」こそが、これからの医療・介護において広く用いられるべき呼称だといえるのではなかろうか。
その一方で、近年、かかりつけ医を担うべき診療所の医師も高齢化が進んでおり、全体の数も若干増えているに過ぎない。さらに診療科・地域偏在、地域保健医療活動への従事による過重労働など様々な問題もあり、今後かかりつけ医が不足する恐れがあることも否めない。「かかりつけ医」を養成することはもちろん重要であるが、診療所医師の様々な活動に正当な評価が行われてこそ、かかりつけ医は増加していくものと考えられる。
  今年4月から始まった「日医かかりつけ医機能研修制度」は、従来から医師会が提唱してきた「かかりつけ医制度」を、より国民の目に見える形で具現化した制度だといえる。今後、地域住民が医療機関を選択する際の客観的な指標として、「かかりつけ医」という言葉とともに浸透していくことを期待したい。

編 集  福岡市医師会:担当理事 庄司 哲也(情報企画担当)・岡本 育(広報担当)・一宮 仁(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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