医療情報室レポート
No.203

2015年5月29日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
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特集:医療ICT時代における『医師資格証』の役割

 昨今、医療機関間の診療情報の共有や地域包括ケアシステムにおける多職種との連携など、保健医療福祉分野におけるICT化の必要性がますます高まっているが、お互いの“顔”が見えないインターネット上のやり取りでは、データの改ざんや盗聴、また、いわゆる「なりすまし」などへの対策が大きな課題となっている。このような状況の中、日本医師会は内部の付属機関として「電子認証センター」を立ち上げ、医師本人の確認や地域医療連携の認証などに利用可能なICカード『医師資格証』の発行を昨年4月より開始し、今後3年間で5万人の医師に取得してもらうことを目指している。
 今回の医療情報室レポートでは、現時点で想定されている「医師資格証」の具体的な利用例を紹介するとともに、電子認証センター事業の柱の一つである「日医認証局」の役割などをまとめてみた。

●『医師資格証』と『日医認証局』

○電子認証センターが運営する『日医認証局』の役割
 
日本医師会電子認証センターは、日医の付属機関として平成25年5月に設置され、医師の資格を証明する事業やセキュリティを確保したIT基盤の整備などを事業の柱としているが、これまで日医総研のORCAプロジェクトの一環として行われていた『日医認証局』の取り組みについてもセンターの業務として進めている。
 
なお、「認証局」とは、インターネット上で利用者の身元や資格などを保証する機関のことで、例えるなら、公証役場のような役割を担っている。認証局の証明には、公開鍵基盤(PKI:Public Key Infrastructure)と呼ばれる仕組みが一般に用いられているが、厚生労働省は、2009年、医療ITにおける認証基盤の重要性を踏まえ、医師や看護師など24の医療分野の公的資格を証明できる保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)をルール化し、最上位の認証局に位置付けられる“ルート認証局”を構築した。『日医認証局』は、この厚労省のルート認証局と相互接続する“中間認証局”にあたり、医師資格証の利用者の身元を保証する役割などを担う。 





  

●『医師資格証』の申請手続き

○安心・安全性確保のための厳格な審査体制
 医師資格証発行にあたっては、安全性を確保するため厳格な審査体制が敷かれており、申請者である医師本人は、必要書類を持参し、都道府県医師会もしくは郡市区医師会に設置された地域受付審査局(LRA:Local Reception Authority)担当者との対面審査が必要とされている。
 なお、医師資格証は医師会未加入者も取得できることとなっている。その場合は、日医電子認証センターの許可を受けた所属先の病院か、地元の都道府県医師会にて審査を受けることとなる。



                     

●『医師資格証』の具体的な利用例とサービス

 @“電子署名”のツールとして
 コンピュータで紹介状、診断書、主治医意見書など、医師の署名・捺印が必要な文書を作成した場合に利用(図1)。電子署名することで、紙に印刷して署名・捺印する必要がなくなる。電子署名後に文書(データ)が変更(改ざん)された場合は検知される。
 電子的な署名の効力は、電子署名法(e-文書法)で保証されており、電子紹介状作成にかかる診療報酬(診療情報提供料)を算定することも可能とされている。
 また、最近では、厚労省の検討会等で「処方せんの電子化」に向けた議論が行われている。現在、想定されている仕組みとしては、まず、医師は電子化した処方せんの情報を専用サーバーに送信し、その後、患者が訪れた薬局側が、サーバーに格納された処方せん情報を取得し、調剤を行うこととなっている(図2)。厚労省の医療情報ネットワーク基盤検討会は、この流れの中でも、HPKIに基づいた医師の電子署名を必須としている。



Aシステムのログイン時の電子認証として(図3)
 地域医療連携システム等において、診療情報や連携パス等の機微性が高い医療情報にアクセスする際には、医師であることを証明するための厳格な認証が必要。医師資格証をコンピュータに接続した手元のICカード読取機にかざすことで、本人確認が可能となる。



B講演会等の出欠管理
 講演会等に出席した際に、医師資格証を受付のICカード読取機にかざすことにより、会員の出席情報を記録。現在開発中の『医師資格証会員ポータルサイト』(図4)を通じて、生涯教育講座の受講履歴や取得単位等の管理・確認が容易となる。



C緊急時等の身分証として
 券面に顔写真や偽造困難なホログラムが入っているため、医師であることをアナログ的に証明するカードとして機能することが考えられる。例えば、救急・災害時に現場関係者に提示することにより、速やかに職務に取りかかることが可能となる。今後、行政等への働きかけを強めることで、一定程度公的な意味合いを持つカードとなることが期待される。
 

医療情報室の目

★医師資格証の更なる利便性の創出に期待
 医師資格証の発行枚数は、今年4月時点で1,127枚とまだまだ少ないが、すでに7割以上の都道府県で地域受付審査局が開設されており、ここ最近、医師資格証の申し込みは急速に伸びているようだ。
 医師資格証に期待される役割は大きく二つある。一つは、医療ICT分野における情報連携の進展とセキュリティの確保。そしてもう一つは、現実の世界において、医師であることを証明できる「身分証明証」としての役割である。
 前者については、ますます高度化する医療ICTへの対応の仕組みとして必要なことはいうまでもないが、後者の身分証明証としての役割については、まず、資格証が医師の間に広く浸透することが大前提といえるだろう。ただ、医師資格証の発行手続きに関しては、地域受付審査局での対面確認や住民票の取得が必要であるなど医師側の手間は少なくない。これは、日医認証局と接続している厚生労働省HPKI認証局の「証明書ポリシ」の要件に沿っているためだが、本人確認がこれほど厳格に行われているということは、医師資格証がすべての医師に普及すれば、十分、公的な身分証明証として機能する可能性があるということではないだろうか。
 福岡市医師会では、平成9年から顔写真と二次元バーコードを施した独自の会員証を全会員に配付し、講演会の際に提示してもらうなど、その利用は会員間に深く浸透している。医師資格証もその普及が一定の軌道に乗れば、実質的な利便性だけでなくステータス性も高まり、自ずと多くの医師が持つようになるはずである。
 日本医師会は、医療連携促進の障壁とならないよう、今回の資格証を会員、非会員を問わず配付することとしている。将来、すべての医師が資格証を持てば、その活用法や利便性はさらに広がるだけでなく、医師の身分証として社会的にも受け入れられ、ひいては非会員の入会促進にも繋がり、日医の組織率向上にも寄与するものと考えられる。そのためには、都道府県医師会ならびに地域医師会が利用促進に積極的に取り組み、一人でも多くの医師が資格証の意義を理解し取得することが何より重要である。

編 集  福岡市医師会:担当理事 今任 信彦(情報企画担当)・松尾 圭三(広報担当)・西 秀博(地域医療担当)
 ※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
(事務局担当 情報企画課 柚木(ユノキ))
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