医療情報室レポート
 

bP67  
 

2012年3月23日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 社会保障・税一体改革における医療改革

 昨年8月に厚労省から発表された「平成22年度医療費の動向」によると医療費は過去最高の36.6兆円となり、8年連続の増加となった。医療費増加の要因は様々あるが、とりわけ急速な少子高齢化の影響は大きい。国立社会保障・人口問題研究所によると2010年には8,173万人であった生産年齢人口が2060年には4,418万人にまで減少するのに対し、老年人口は2,948万人から3,464万人まで増加すると予測されており、医療費を含む社会保障費の更なる増加並びに財源の柱である保険料収入が減収となることは必然的である。政府は社会保障制度の維持・充実並びに財政健全化を図るため社会保障・税一体改革を推し進めようとしているが、関連法案が成立する見通しは立っておらず、解散総選挙が噂される状況となっている。
 今回は改めて社会保障の意義をまとめ、社会保障・税一体改革における医療制度改革の方向性を紹介する。


社会保障制度とは
 
◎社会保障の意義
 社会保障制度とは「困窮の原因に対し、保険又は直接公の負担において経済保障を図り、生活困窮に陥ったものに対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることである。」と定義されている。(昭和25年社会保障制度審議会:社会保障制度に関する勧告)
 国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットとして根付いた社会保障制度において、その生活保障の責任は国家にあるとする一方、国民もまた社会連帯の精神に立って、それぞれその能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果さなければならないとされている。

◎社会保障制度改革の必要性
 日本の社会保障制度の特色である「国民皆保険・皆年金」達成から50年が経過した現在、社会経済情勢は大きく変化しており、社会保障制度の維持・充実、安定運営のための財源確保に向けた抜本的な改革が求められている。政府は現状の社会経済情勢を受け、次のような改革の方向性を示している。

◎社会保障制度改革の変遷
 社会保障制度は戦後の復興や経済成長、家族構成・産業構造の変化、少子高齢化など、経済社会や人口構造の変化を受け、折々の社会保障に対する様々なニーズに対応すべく、改革がなされてきた。以下に主な改革の変遷を纏めた。 

社会保障・税一体改革における医療改革
 今回の改革では社会保障制度を「全世代対応型」へと転換し、子ども期から高齢期までを通じて一貫した支援の実現することにより、世代を問わず一人ひとりが積極的に参画できる制度を構築し、将来に亘り持続可能な社会保障制度改革を目指している。以下に医療分野における改革の方向性を紹介する。

◎医療分野における改革の方向性
○地域の実情に応じたサービスの提供体制の効率化・重点化と機能強化
  −診療報酬・介護報酬の体系的見直しと基盤整備のための一括的な法整備を行う−
  1)医療サービス提供体制の制度改革
  ・病院・病床機能の分化・強化 ・在宅医療の推進 ・医師確保対策 ・チーム医療の推進
2)地域包括ケアシステムの構築
  ・在宅サービス・居住系サービスの強化 ・介護予防・重度化予防 ・医療と介護の連携強化 ・認知症対応の推進
3)その他
  ・外来受診の適正化 ・重点化に伴うマンパワーの増強等
○保険者機能の強化を通じた医療・介護保険制度のセーフティネット機能の強化・給付の重点化、低所得者対策
  a) 被用者保険の適用拡大と国保の財政基盤の安定化・強化・広域化
  ・短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大 ・市町村国保の財政基盤の強化と財政運営の都道府県単位化
b) 介護保険の費用負担の能力に応じた負担の要素強化と低所得者への配慮、保険給付の重点化
  ・介護1号保険料の低所得者保険料軽減強化 ・介護納付金の総報酬割導入 ・重度化予防に効果のある給付への重点化
c) 高度・長期医療への対応(セーフティネット機能の強化)と給付の重点化
  ・高額療養費の見直しによる負担軽減(年収300万円の低所得者に特に配慮)
d) その他
 ・総合合算制度の創設、低所得者対策、難病対策の検討 ・効率的で高機能な医療提供の推進
 ・後発医薬品の更なる使用促進、医薬品の患者負担の見直し、国保組合の国庫補助の見直し ・高齢者医療制度の見直し
◎日医の見解
 日医は本年2月に「社会保障・税一体改革素案」に対し、大筋として「社会保障の機能強化と持続可能性の確保を目指しており,日医が目指す方向性と同じである。医療・介護の営利産業化ありきではなく、国民皆保険の堅持が根幹であることを強く願う」との見解を示している。なお、医療分野に対する見解は以下のとおりである。
公的医療保険のあり方
 公的医療保険制度の全国一本化、および財政調整財源としての被用者保険の保険料率を協会けんぽの水準に引き上げることを提案する。
医療提供体制
 病院・病床機能の分化・強化に伴う「急性期病床の位置付けの明確化」に対しては、急性期医療への偏った医療資源の集約ではなく、一般病床全体の充実に努めていくとした方向性を示し、医療の機能分化や連携は、かかりつけ医機能を推進し、地域の関係者により行うべきである。

在宅医療の拠点となる医療機関
 在宅医療における連携のあり方について、行政や拠点病院とも連携してネットワークづくりを目指してきた地域医師会こそが調整の役割を果たすべきである。

医師確保対策
 医学部5〜6年生の参加型臨床実習の実践や、研修希望者数と全国の臨床研修医の募集定員が一致するような研修システムの構築、都道府県医師会の医師不足解消に向けた取り組みなどを参考に医師確保対策の検討を進めるべきである。

チーム医療の推進
 看護師特定能力認証制度骨子案について、新たな資格や認証制度の創設が更なる看護師不足を招いたり、一般の看護師の業務を縮小させることがあってはならない。国民の生命に関わる重大な問題であり、社会保障・税一体改革ありきで法制化を急ぐことは認められない。
連載Column「政治家になった医師」vol.6

  ルドルフ・ウィルヒョー (1821〜1902)

  ウィルヒョーはドイツ人の医師、病理学者で白血病の発見者として知られています。
 22歳で博士号を取得したウィルヒョーは4年後には教授となり、解剖学、病理学の研究を続けました。彼の死後に確立された血栓形成の成因(@血管内皮細胞の障害、A血流の障害、B血液凝固性の亢進)は「ウィルヒョーの3要素」といわれ、現代医学においても引用されています。
 晩年は公衆衛生の改善を強く訴え、ベルリンに近代的な上・下水道を作るために政治家として活躍しました。政治家としてのスローガンは「医療はすべて政治であり、政治とは大規模な医療にほかならない」であり、医師として「公共の思想」で行動しました。

<医療情報室の目>
 今日の人口構造の急激な高齢化、社会経済状況の変化、また、欧州の政府債務問題にみられるグローバルな市場の動向を踏まえれば、社会保障の充実、安定化とともに財政健全化を進めることは喫緊の課題であることは言うまでもない。しかしながら、国会での審議を見るに、社会保障・税一体改革関連法案成立の条件として衆議院解散総選挙が噂されるなど政権を睨んだ上での議論が進められているといえる。そもそも少子高齢化による社会保障財源の圧迫や制度改革の必要性はかねてより指摘されてきたが、これまで抜本的な改革の実現に至らなかった原因の一つとして、時の政府が政局を意識して踏み込んだ議論を行ってこなかったこともあるのではないだろうか。
 国民皆保険・皆年金を含む社会保障制度の維持・充実に向けた改革をこれ以上先延ばしにすることは出来ない。“政局”に囚われず国民に主幹を置いた議論を進めてもらいたい。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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