医療情報室レポート
 

bP63  
 

2011年12月2日 
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1505・FAX852-1510 

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特 集 : 医療保険と介護保険

 来年4月には医療保険と介護保険の同時改定が予定されている。既に人口は減少に転じ、少子高齢化が加速している日本において、在宅医療や介護の充実は必要不可欠ではあるが、今までの改定においては決して相互の連携がとれた医療改革が行われてきたとはいえない。厚労省は去る10月21日に、中医協委員と介護給付費分科会委員との意見交換の場を設けるなど両者の連携強化に向けた動きを見せてはいるが、両分野ではすでに次期改定に向けた検討に入っており、遅きに失した感は否めない。しかし医療・介護制度改革は待ったなしであり、この話し合いをきっかけとして医療と介護の連携推進と充実に向けた改革が次期改定に反映されることが期待されている。
 今回は、介護保険に焦点を当て、その成り立ちと現況、医療との連携に向けた課題について考察する。


介護保険制度の意義・目的
 
◎介護保険制度設立の背景
 わが国では高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加、介護期間の長期化など介護のニーズが高まっていた。従来の老人福祉では運営する行政により一方的にサービスの種類、提供機関が決められるなど利用者側に選択の余地がなく、受けられるサービスも画一的なサービスに陥りやすかった。一方、老人医療の観点からは医学的には入院の必要がない患者が介護目的で入院を続ける(社会的入院)ことにより医療費が増大し、また、治療を目的とする病院では長期の介護目的の患者に対する体制が不十分などとの指摘が続いた。これらの問題点を解決すべく新たな介護政策の策定が課題となり、ゴールドプラン(高齢者保健福祉十カ年戦略)、新ゴールドプランなどの策定を経て、2000年4月から介護保険法が施行された。介護保険法は「自立支援」を理念とし、利用者がサービス事業者を選ぶことが出来る「利用者本位」の制度となっている。また、財源は負担とサービス給付の関係が明確な社会保険方式を採用している。

◎2006年介護保険法改正の目的(最初の医療保険・介護保険同時改定)
 介護保険法見直しの基本的視点として「明るく活気ある超高齢社会の構築」、「制度の持続可能性」、「社会保障の総合化」が掲げられ、以下の制度改革が行われた。

「介護予防」の導入
 介護保険法施行後、介護保険の利用者が想定を遙かに超えるスピードで増えたことから、年をとってもなるべく要介護状態にならないこと、また、要介護状態となった場合でも、さらなる身体能力の低下が防げるようにすることを目的に「介護予防」を重視した仕組みが取り入れられた。2006年改正の最も大きな特徴である。
居住費・食費の見直し
 在宅生活者と施設入所者との給付と負担の公平性を確保すること、および介護保険と年金の重複給付を是正することなどを目的に見直しが行われた。

 その他、地域包括支援センターの創設や介護サービス情報の公表、第1号保険料の見直しなどが実施された。

医療保険と介護保険の比較


介護保険制度の現状

◎要介護者の推移
 平成21年度の第1号被保険者は2,892万人(総人口の22.7%)、そのうち要介護(要支援)認定者数は485万人と制度が始まった平成12年度からそれぞれ650万人、229万人増えている。第1号被保険者に占める要介護(要支援)認定者の割合はここ5年間16%前後で推移しており、同水準で増え続けると団塊の世代が75歳以上になる平成37年には第1号被保険者3,635万人(同30.5%)、要介護(要支援)認定者数は580万人を超えると予測されている。

◎医療に関連する問題点
 
要介護者の推移
 介護保険において要介護度が高い利用者ほど医療ニーズも高い傾向にあるが、介護保険の被保険者に行われる訪問看護は介護保険が医療保険に優先される(介護保険優先の原則)。したがって治療目的の入院患者が退院した場合、原則として退院後は即介護保険で訪問看護を実施することになるが(特別指示書などの例外措置あり)、退院直後は医療ニーズの高い看護が必要となるケースも多く、現在、医療保険での対応に向けた制度の見直しも検討されている。

次期同時改定に向けた動き

◎医療・介護担当者間の意見交換
 2012年の同時改定に向けて、本年10月21日に中医協委員と介護報酬の改定や制度などについて審議する社会保障審議会・介護給付費分科会委員との間で意見交換が行われた。これまで医療側・介護側双方による意見交換は行われたことはなく、初の試みとなった今回は地域包括ケアシステムや認知症対策、胃瘻問題、療養病床再編などについて話し合われた。地域ごとに医療と介護の連携拠点(ハブ)が必要との認識で意見が一致するなど一定の成果が見られたが,給付費分科会側には現場を代表する委員が参加していないなど、温度差のある話し合いでもあった。
−地域包括ケアシステム−

高齢者が可能な限り住み慣れた地域において継続して生活できるよう、介護、医療、生活支援サービス、住まいの4つを一体化して提供する仕組みのこと。「(1)医療との連携強化、(2)介護サービスの充実強化、(3)予防の推進、(4)見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護など、(5)高齢期になっても住み続けることのできるバリアフリーの高齢者住まいの整備」からなる5つの視点での取り組みを、包括的かつ継続的に行うことを目的としている。

◎医療と介護連携における課題

Column「入院時居住費負担」

 65歳以上の療養病床入院患者には、食材料費の他に調理費や居住費負担が課せられている。これは介護保険において、在宅利用者と施設利用者との負担の公平性を確保するとの観点から、2005年10月より導入された同制度を、介護保険と同水準の食費及び居住費の負担を求めるものとして、翌2006年10月より医療保険にも導入されたものである。現在、この制度の65歳未満の患者や一般病床に入院している患者への導入の是非について、厚労省の社会保障審議会・医療保険部会にて協議が行われているが、急性期入院の食事は医療的管理に基づいているため治療の一環として考えるべきものであり、慢性期の入院での食事とは意味合いが異なるとして否定的な意見が上がっている。

 高齢者が住み慣れた地域で在宅での生活を営むためには、地域包括ケアシステムの構築が急務である。システム構築には医療と介護の役割分担と連携の強化が不可欠であり、次期同時改定において以下の課題に対する具体的な対応が望まれている。

<医療情報室の目>
 現場では以前より医療と介護の相互連携の重要性が叫ばれていたが、厚労省において両者の話し合いがもたれることはなかった。その原因の一つと考えられるものに財源の違いがある。下手に他人の畑に干渉し、自身の畑にまで害がおよぶのを恐れていたとも言えるのではないだろうか。さらには、医療保険は保険局医療課が担当し、課長は医系技官(医師)、課長補佐も医系が多い。一方、介護保険は老健局介護保険課が担当しており、課長は国家一種のキャリア、課長補佐も同様である。2006年の同時改定時には両課長の歯車がかみ合わず、調整が全くなかったとのうわさもある。
 現場に目を向けると、療養型病棟に入院している患者は脳梗塞などで寝たきりの方が多く、身体障害者手帳を持っている例が多い。したがって、医療費は食費のみ(2万円程度)ということになる。一方、介護保険施設(特養、老健、介護療養病棟など)は1割負担に加え、食費・住居費用の一部も自己負担になるので、負担金は10万円を超えることもある。この矛盾を解消しないと、社会的入院は完全にはなくならないだろう。
 超高齢化社会へと急速に加速している今、安心して生活するためのセーフティネットである社会保障の充実、すなわち医療・介護の提供体制の更なる充実並びに相互の連携強化は必要不可欠である。介護保険制度は施行されてから10年が経ち、創生期から変革を伴う発展期に入ったと言える。今こそ医療・介護の垣根を越え、医療・サービス提供の矛盾を是正し、互いに手を携えて国民の目線に沿った医療改革を進める絶好の機会だと考える。
ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡下さい。
   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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