医療情報室レポート
 

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2011年8月26日 
福岡市医師会医療情報室  
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特 集 : 診療報酬改定を考える

 今年6月、東日本大震災の影響を受けた被災地の医療体制の立て直しが急がれる中、診療報酬改定の基礎資料となる「医療経済実態調査」が実施された。日本医師会は震災復興への対応を優先し、次期診療報酬・介護報酬の全面改定は実施すべきではないと主張してきたが、厚生労働省は8月12日の会合において、次期診療報酬改定を予定通り来年4月に実施することを明確に打ち出した。
 診療報酬は医療行為の対価といった意味合いだけでなく、その本質から政策的に医療機関を誘導する側面も持つなど医療界にとって非常に重要な項目であるが、その決定に至るまでの工程については意外と知られていない。今回は診療報酬改定のプロセス並びに来年度改定に向けた動きについてまとめた。


診療報酬改定のプロセス
 診療報酬の改定は原則として2年に1回行われている。通常、改定年の前年12月頃に予算編成過程を通じて改定率を内閣が決定、社会保障審議会医療保険部会及び医療部会において策定された「基本方針」に基づき、中央社会保険医療協議会(中医協)において具体的な診療報酬点数の設定等に係る調査・審議を行い最終的に厚生労働省が告知を出す流れとなっている。
 中医協において審議される際にその基本資料とされるのが「医療経済実態調査」である。

医療経済実態調査
 医療経済実態調査(医療機関等調査)は、病院、一般診療所及び歯科診療所並びに保険薬局における医業経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的として2年に1度、中医協が行っている。
 調査の対象は全国の病院、一般診療所、歯科診療所及び1ヵ月間の調剤報酬明細書の取扱件数が300件以上の保険薬局であり、層化無作為抽出(抽出率:病院1/5、一般診療所・保険薬局1/25、歯科診療所1/50)により選出される。また、調査内容は施設の概要、損益の状況、資産及び負債、従事者の人員及び給与の状況などであり、調査年の6月単月分について実施される。なお、「医療経済実態調査」については従来から以下のような問題点が指摘されているが、本年6月に実施された18回目となる調査(対象施設8,874件)においては、東日本大震災の影響から、被災地等の調査負担を考慮し、調査票発送対象外とされた施設等にも発送を行ったことが問題となり、今後の管理体制強化等が求められている。
※医療経済実態調査には保険者の決算状況及び土地及び直営保養所・保健会館に関する調査を行う「保険者調査」もあり、同時期に実施されている。
○「医療経済実態調査」に対し指摘されている問題点
調査月は6月となっているが、健診が終わり受診者が増える時期でもあり、特定の診療科では年間を通した実状とはかけ離れたデータとなる可能性があるため単月調査は改めるべき。
調査対象医療機関は原則定点観測ではないため経年変化の把握が困難。また、客対数も少ないため診療科別に分類すると対象数が小さくなり、前回比が大きく変動しやすい。


連載Column「政治家になった医師」vol.4

           大村益次郎 (1824〜1869没)

 大村益次郎は村医・村田孝益の子として現在の山口市に生まれました。父の後を継ぐため、緒方洪庵が開いた「適塾」に入門し、医学・蘭学を学び塾長を務めます。27歳の時、郷里で村医者を継ぎますが、愛想の悪さから評判は良くありませんでした。その後、洋式兵学の専門家として宇和島藩に招かれた益次郎は才能を開花、幕府蕃書調所教授手伝、講武所教授を経たのち、長州藩に仕えることになります(この頃藩命で大村益次カ永敏と改名)。長州では兵制改革に携わり、慶応2年の長州征伐では石見口の総参謀として幕府軍を壊滅させました。明治維新後の新政府では軍事指導者となり戊辰戦争に参軍、上野彰義隊討伐戦では戦略の妙を発揮、無法地帯と化していた江戸を1日で平定します。戊辰戦争終了後は藩兵解隊、帯刀禁止、徴兵制度の採用等西洋式の近代的な軍隊の編成に着手しますが、明治2年9月、士族の特権剥奪に反感を持つ刺客に襲われ、その傷が元で同年11月、敗血症により46歳でその生涯を閉じました。

中央社会保険医療協議会
 中央社会保険医療協議会(中医協)は診療報酬額や薬価など、公的医療保険から医療機関等に支払われる公定価格の決定や療養担当規則の改定などの権限を有する厚生労働大臣の諮問機関であり、諮問に応じて審議・答申するほか、自ら建議することもできる。構成としては「支払側委員」と「診療側委員」が保険契約の両当事者として協議し、「公益委員」がこの両者を調整して合意を得るという三者により成り立っているが、中医協には総会を中心とする小委員会や専門部会、検証部会といった内部組織に加え、外部の委員で構成される専門組織により重層的な検討が行われている。なお、内部組織の委員数は20名となっており、任期は2年でその半数が1年ごとに任命されるが、その他専門的事項を審議する必要が生じた場合は、さらに10名以内の専門委員を置くことができる。


平成24年診療報酬改定の動向
 厚労省は予定通り来年4月に診療報酬改定を行うことを明確に打ち出したが、次期改定実施の是非については、日本医師会をはじめ、各医療関係団体から様々な意見が出されている。
 なお、中医協の委員は8月1日から3日間に亘り、被災地の視察を行ったが、診療報酬上の特別加算や施設基準の特例措置などを求める声が多いことなどから、診療報酬上での対応や予算措置など具体策を講じ、中医協としての役割を議論するとしている。
 現時点での、次期診療報酬改定に向けた各医療関連団体の方針および提言等は、以下のような状況にある。
改定の是非 改定に向けた提言・動向
日本医師会 延期すべき 不合理な診療報酬の見直しに留めるべき
日本病院会 予定通り行うべき 大震災は突発的な出来事で、この復興と診療報酬改定は別建てで粛々と進めるべき
日本精神科病院協会 延期すべき 診療報酬の引き上げ財源を含めて、復興の支援に充てるべき
全国自治体病院協議会 予定通り行うべき 中小規模病院への評価や基本診療料の見直し、地域特性への配慮を要望
日本看護協会 明言なし チーム医療の提供体制を評価、推進することなどを盛り込んだ要望書を提出


<医療情報室の目>
 政府・与党がまとめた「社会保障・税一体改革成案」を実現するための当面の作業スケジュールが厚生労働省より発表され、診療報酬・介護報酬改定は来年4月に実施されることが明記された。日医執行部などが主張していた同時全面改定の延期は見送られる公算が強いが、8月24日の定例記者会見において日医は改めて全面改定については延期を要請していく姿勢を示しており、再診料や地域医療貢献加算等具体例を挙げ、不合理な診療報酬の是正といった部分的な改定を求めるとしている。一方で、診療報酬改定の実施に際し、被災地の医師会等からは算定要件の緩和や診療報酬上の加算に対する要求もあがっており、被災地の復興支援による財源不足が叫ばれる中、次期改定の行方は不透明である。また、6月に実施された医療経済実態調査は被災地の現状を十分反映しているとは言えないことも懸念材料の一つと考えられるだろう。
 今月末には民主党代表選が予定されており、今後の改定作業は新たな政権に委ねられることになるが、我々医療従事者はその専門的見識により医療現場の緊急性・重要性を踏まえた政策提言を積極的に行い、被災地支援も含めた目指すべき社会保障の実現へと導く必要があるのではないか。
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   (事務局担当 情報企画課 下田)

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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