医療情報室レポート
 

bP46  
 

2010年6月25日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集 :平成22年度診療報酬改定その2〜概要〜
 

 平成22年度の診療報酬改定率はネットでプラス0.19%となり、国の緊縮財政の中、後発医薬品使用促進の為の先発医薬品の薬価引き下げの影響があったものの、財源にして100億円のプラスと報道された。今回は、初めて当初より入院と外来の改定率が設定され、急性期入院、産科、小児科は大幅なプラス改定となった一方で、診療所の外来は再診料の引き下げに代表されるように引き下げになる項目が多く、厳しい改定となった。多くの調査報道では、急性期医療、手術、産科、小児科、地域連携、リハビリテーション等を積極的に行っている医療機関は、4月・5月の診療報酬請求額が前年同月を大幅に上回っている所が多く見られたようだ。このように、今改定は各々の医療機関がどのような医療を行っているかによって大きく影響が異なるものになっていると言える。
 平成22年度診療報酬改定に関して、改定率決定の経緯と改定の告示までを医療情報室レポートNO.143で特集したが、診療報酬改定後3ヵ月が経過し、厚労省より疑義解釈が取りまとめられている今回は、改定のポイントや主な項目・内容等をまとめた。

主な改定の項目・内容
病院は、「一般病棟入院基本料」の14日以内の早期加算や難度の高い手術等が引き上げられ、その他に救急・産科・小児科医療を担う救命救急センター・二次救急医療機関に対しても手厚い評価がされた。併せて、勤務医の負担軽減策に対する加算も新設された。
中医協は、今改定で、単なる診療所から病院への財源の移譲ではなく、医療費全体を底上げすることを求めた。しかし、改定の基本方針である2つの「重点課題」と4つの「視点」を優先して議論が進められた為、「再診料」についての議論は最後に回され、議論する段階になると、充てることのできる財源が限られてしまい、病院と診療所で点数が統一される形となった。また、「医療機器や材料の価格等が下がった」とし、眼科・皮膚科・耳鼻咽喉科の検査や処置の点数が引き下げられた。

 ・再診料 69点(再診料の病院統一)
   前回改訂と比較して・・・
     病 院:+9点
     診療所:−2点
       【※減点の代わりに地域医療貢献加算(3点)、
          明細書発行体制加算(1点)の新設】
 ・外来管理加算 52点
   診療所:5分ルールの廃止、いわゆる「お薬受診」は
        算定不可
 ・後期高齢者診療科関連の点数廃止
日医が発表した「平成22年度レセプト調査」の4月分結果の速報によると、(裏面の表−1参照)前年同期と比較し、入院・入院外を合わせた点数の全体は2.08%のプラスとなっている。中でも、急性期医療を担うDPC病院や有床診療所ではプラス幅が大きい。一方、診療所(入院外)はマイナスとなっており、今改定が入院医療中心に評価されたのものであることがわかる。
診療所が患者再診時に算定可能な「地域医療貢献加算(3点)」の届出状況については、4月時点で「今後届出予定あり」を含めても3割弱にとどまっている。疑義解釈で緩やかな解釈となったものの「24時間対応」が当加算を届出するモチベーションを下げていることは否定できない。
病院優遇で、診療所には良いところがない改定に感じられるが、病院に手厚い評価をしても勤務医の報酬に反映するとは限らない。報酬や労働条件面での「開業医」と「勤務医」の格差が過度に強調され、医師同士の分断と差別化を促すような雰囲気が世論として故意に作り上げられているのではないだろうか。
重点課題1.救急、産科、小児、外科等の医療の再建
内 容 項 目 点数等
(前回改定との比較)

・救命救急センター・二次救急医療機関の
 評価の充実
救命救急入院料・充実度評価A加算 1,000 (+500
救急医療管理加算 800 (+200
乳幼児救急医療管理加算 200 (+50
ハイケアユニット入院医療管理料 4,500 (+800)
・産科・小児医療の評価の充実 ハイリスク分娩管理加算 3,000 (+1,000
妊産婦緊急搬送入院加算 7,000 (+2,000
新生児特定集中治療室管理料 10,000 (+1,500
・難易度が高く人手を要する手術料の引き上げ 大動脈瘤切除術 etc 114,510 (+21,510
・小児に対する手術評価の引き上げ 手術料・乳幼児加算(3歳以上6歳未満) 当該手術の所定点数の
50/100を加算
重点課題2.病院勤務医の負担の軽減(医療従事者の増員に努める医療機関への支援)

・看護補助者の配置の評価
急性期看護補助体制加算1(50対1) 120 (新設
急性期看護補助体制加算2(75対1) 80 (新設
・医師事務作業補助体制加算の評価の充実 15対1補助体制加算 810 (新設
100対1補助体制加算 138 (+33
・早期の入院医療の評価 一般病棟入院基本料・14日以内の期間の加算 450 (+22
・地域連携診療計画に基づく連携の評価 地域連携診療計画退院計画加算 100 (新設

・地域医療を支える有床診療所の評価
有床診療所入院基本料 評価区分の見直し
有床診療所一般病床初期加算
  (7日以内、1日につき)
100 (新設
・地域連携診療計画に基づく連携の評価 地域連携診療計画退院時指導料(U) 300 (新設
充実が求められる領域を適切に評価する視点
内 容 項 目 点数等
(前回改定との比較)

・がん治療に対する評価の充実
外来化学療法加算(1) 550 (+50

・質の高いがん診療に対する評価
がん診療連携拠点病院加算 500 (+100
患者からみてわかりやすく納得でき、安心・安全で、生活の質にも配慮した医療を実現する視点

・医療安全対策の推進
医療安全対策加算(1) 85 (+35

・明細書発行の推進
明細書発行体制等加算 1 (新設
・地域医療に貢献する診療所の評価 地域医療貢献加算 3 (新設
医療と介護の機能分化と連携の推進を通じて、質が高く効率的な医療を実現する視点

・検体検査評価の充実
外来迅速検体検査加算(最大5項目まで) 10 (+5
・訪問診療の評価 往診料 720 (+70
在宅移行早期加算 100 (新設

・療養病床入院基本料の見直し
療養病棟入院基本料 評価区分の見直しと
適正化
+49〜+592
効率化余地があると思われる領域を適正化する視点

・後発医薬品の更なる使用促進
後発医薬品使用体制加算 30 (新設
・医療機器の価格等に基づく検査
            および処置の適正化
矯正視力検査 69 (-5
精密眼圧測定 82 (-3
屈折検査 69 (-5
自覚的視力検査 350 (-50
嗅裂部・鼻咽喉・
副鼻腔入口部ファイバースコピー
600 (-20
いぼ焼灼法(3箇所以下) 210 (-10
いぼ冷凍凝固法(3箇所以下) 210 (-10
・デジタル撮影の促進 エックス線撮影料(アナログ・単純撮影) 60 (-5
連載Column 「医療と経済学」vol.2
〜名目GDPと実質GDP〜
GDP(国内総生産:gross domestic product)とは、「ある期間内に、国内でどれだけのモノやサービスが生産されたか」を表す金額を指し、国の経済の規模や成長を測る際に用います。単純に計算したGDPは、名目GDPと呼ばれ、数値に物価変動の影響を受けます。一方、名目GDPから物価変動の影響を除いたものは実質GDPと呼ばれ、名目GDPを物価変動の動向を表すGDPデフレーターで割ったものを指します。
【実質GDP=名目GDP/GDPデフレーター】 経済活動の実質は物価の変動により変化しており、例えば、名目GDPが10%増えていても物価が20%上昇していれば経済は成長しているとは言えません。よって経済全体で金額がどれだけ上昇(成長)しているかは、実質GDPを用いるのが一般的です。我が国の場合、戦後50年で名目GDPは約60倍に増加していますが、物価変動の影響を除いた実質GDPで見てみると約10倍の増加となります。また、1990年代頃まで、国の経済の規模や成長を測る際にはGNP(国民総生産:gross national product)が用いられていましたが、海外在住の国民の生産量を含み、生産量を正確に表すことができない為、現在はGDPを用いています。ちなみに、2008年のIMFのレポートによると、日本のGDPはアメリカに次いで、世界第2位で世界のGDPの約8%を占めています。しかしながら、第3位の中国に追いつかれそうな勢いです。

表-1 「平成22年度レセプト調査」4月分結果速報
入 院 入院外
総点数
(前年同期比)
病 院 +4.26% +2.02%
診療所 +6.01% -0.05%
1日当たり点数
(前年同期比)
病 院 +3.62% +3.44%
診療所 +5.68% -0.21%
※総点数の前年同期比は、全体で2.08%のプラスであった。

         「日本医師会2010610日定例記者会見資料」より作成

<医療情報室の目>
  平成22年度の診療報酬改定は、10年ぶりにネットでプラス改定であった。急性期、救急、産科、小児科医療等に手厚く、いわゆる9時・17時診療のビルクリニック等には厳しい内容で、医療機関の機能によって診療報酬の差別化が際立つ改定内容であった。今改定の全体像を見ると、各々の医療機関に医療機能の専門性についてメリハリを持たせ、地域医療の中でキャラクタライズされる方向へシフトしようとする厚労省の狙いが覗える。また、診療所の再診料が引き下げられた代わりに「地域医療貢献加算」なるものが新設され、様々な議論を呼んでいる。この「地域医療貢献加算」については、「24時間対応」への誘導に反対を表明している医師会もあり、同じく新設された「明細書発行体制等加算」についても患者からの診療内容照会の増加を懸念する声が挙がっている。
 今改定は、医療崩壊の一因と指摘されている勤務医の過重労働等の待遇改善に重きを置く色合いが濃くなっており、診療所レベルではマイナス改定となった医療機関もある。診療科別に見てみると、眼科が前回の改定に引き続き、狙い撃ちされた感があり、精神科や皮膚科もマイナス幅が大きい。在宅医療は、往診料のアップを始めとしてプラス要素が多く見られる一方、マンション等の同一建物内の訪問診療料が大幅なマイナスとなっている。各医療機関は、今改定のメッセージを読み取り、自院の医療機能で算定可能な項目に対応するべく戦略を練ることが急務である。
 中医協は、「地域医療貢献加算」や「明細書発行義務化」の検証も含んだ今改定の結果の検証項目をまとめた。これまでの調査は、厚労省主導で調査にバイアスがかかっていた為、中医協の議論に役立つ調査を行えるよう設計段階から現場の意見を反映させるべきとしており、今後の調査の行方が注目されている。
 菅総理は「政治の役割とは最小不幸の社会を作ること」とし、「強い経済・強い財政・強い社会保障を一体として実現する」ことを明言した。「最小不幸の社会」作りは、国民生活のセーフティネットである社会保障・医療の充実が必要不可欠条件であることを前提にした総理の発言として期待したい。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原村耕治(広報担当)・竹中賢治(地域医療、地域ケア担当)


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