医療情報室レポート
 

bP41  
 

2010年 1月 15日  
福岡市医師会医療情報室  
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特 集:平成22年初占い
 ※今回は、いつものレポートとは趣向を変えて、ある病院勤務医が平成22年元旦に見た初夢(悪夢・吉夢)から「10年後の医療」を占ってみました。
 雨宮浩一郎・医師45歳、専門は消化器内科。家庭には妻と2人の子供(長女10歳、長男5歳)がいる。平成12年にF国立大学医学部を卒業。卒業後は同大学内科医局に入局、その後、医局ローテーションで様々な医療機関に勤務。現在、A病院内科に勤務医として在籍する気鋭の内科医である。そんな彼の初夢は、10年後の医療の姿だった。 ※これはフィクションです。
平成32年の医療界
−悪夢編− Unhappy
平成32年1月、去年も良くないことが多かったが、今年はもっと悪くなりそうだ。私は、雨宮浩一郎、45歳の勤務医だ。平成12年に国立大学医学部を卒業し、大学卒業後、大学附属病院の内科に入局した。医局ローテーションで様々な病院で勤務をし、5年前に今のA病院に赴任した。現在の病院はもともとF市とその周辺市町村が作る公立病院だったが、赤字が膨らみ平成27年に社会医療法人に改組された。私は1年間だけ公務員として勤務したが、その後医療法人の職員となった。理事長はF市の元公務員、いわゆる天下りだ。医療法が変わり、理事長には医師以外でも簡単になれるようになり、天下りや企業派遣の理事長が増えてきた。医師はただのサラリーマンになってしまった。公立病院時代には給与規定が決められ、多少なりとも昇給していたらしいが、ここ4年は毎年減額となっている。一般サラリーマンの平均年収は600万円とのことだが、私の今年の年収はこの額を下回っている。10年前はまだ医師がまがりなりにも高額所得者と思われることもあったが、今、医師が金持ちと思っている人は皆無だろう。
 診療報酬は2年に1度改定されるが、10年間、3%以上下がり続けている。職員の処遇は悪くなり、病院の設備も酷いものだ。A病院の建物は20年は補修していない。今時、こんな古い建物は病院ぐらいしかないだろう。その為、普通の人は病院には入院したがらない。一部、綺麗な病院もあるが、差額ベッド代が1日10万円以上もするので、金持ちしか入院できない。A病院は平成17年に電子カルテを導入したらしいが、メンテナンスやハードの買い替えが出来ないので、2年前に動かなくなってしまい、今は紙媒体のカルテが復活している。2年以上前のカルテの内容を見ようと思ったら、古い電子カルテを起動させないといけないので、30分以上もかかってしまう。それも院内の電算室に1台あるだけだ。事務職員も削減されているので、レセプト作成とチェックは全部医師がしなければならなくなった。減額査定がかなりあるので、理由書きを作成するのも医師の仕事で、これも時間を取られる。
 平成12年くらいから女性医師の割合が増加し、最近では医師同士の職場結婚が多くなった。私の妻も医師でF市内のB病院の勤務医として働いている。彼女とは研修医時代に知り合い5年くらい付き合って入籍した。結婚当時は収入もなく、休みがなく働いてばかりだったので結婚式を挙げていないままで、現在も結婚式を挙げる金も時間の余裕もない。彼女はタヒチのボラボラ島で結婚式を挙げることが夢なのだが、到底実現してあげられそうにない。
 私には、10歳の長女と5歳の長男の2人子供がいる。下の子の大翔(ひろと)はまだ就学前で、幸い妻の実家が自宅近くであるので、義父母に幼稚園への送り迎えをお願いしている。今日は妻が当直なので、私が妻の実家に大翔(ひろと)を迎えに行き、帰宅しなければならない。小学校4年生の凛(りん)が既に帰宅している時間なので早めに仕事を片づけて帰宅しなければ。今夜、医師会で開催される講演会には出席できそうにない。
 これだけ酷い仕打ちをされているのだから、勤務医なんか辞めて開業したらどうかと言う人もいるが、開業も勤務医以上に大変のようだ。友人が昨年耐えかねてA病院を辞めて開業したが、自分の給与が全く出ない上に、多少あった預金も取り崩して経営していると医師会での会議に出席した時に聞いた。患者が来ないそうだ。確かに普通の患者
は外来も入院も減ってきた。その理由は自己負担金が高すぎるからだ。
3年前から自己負担金は5割となり、健康保険に免責制が導入された為、5万円までは健康保険も使えない。薬剤費自己負担も参照価格制度になった。入院時の食費は全額自費、ホテルコストも自己負担になった。その為、2週間も入院したら自己負担は30万円以上になる。降圧剤を処方されるだけで、ブランド品だと、病院と薬局の自己負担で2万円はかかる。所得の低い人は受診もおちおちできない。病気を抱えても病院に来られない人が増えてきているのは明白だ。厚生労働省は近年、在宅死が増えて国際水準に近づいてきたと公表しているが、実際は、病院に受診できなくて家で孤独死している人が増えているだけだ。検死の要請も急増してきている。

 医療訴訟もここ10年急増してきている。医療訴訟と賠償金が急増し、日本医師会は医師賠償責任保険を2年前に廃止してしまった。以前、ローテーションで行っていた民間病院は医賠の保険料を払ってくれていたが、A病院では保険料は自腹である。それでも年間6万円だったし、年収も今の1.5倍あったのでそれほど気にもせずに払っていた。しかし、今は600万円弱の給与から、民間保険会社の医師賠償保険の保険料を年間50万円も支払わないとならない。金で済めばまだ良い方で、先日、同じ病院の外科の医師が突然逮捕されてしまった。うちの病院にも医療安全の第三者委員会があるが、患者家族が納得しなかったら警察に通報される仕組みになっている。逮捕される医師はここ数年、年間100人以上だ。同僚の逮捕された彼は、まだお子さんが小さいと聞いているが大丈夫だろうか。
 医師も大変だが看護師も大変のようだ。2年前に准看護師制度が廃止された。今では看護師と言えば大卒が常識化してきたが入院患者が減った為、病院病床数が10年前の160万床から100万床以下になってしまった。その影響で、病院の看護師募集も減ってきており、看護大学を卒業しても就職先がない人も多いと聞く。先日、母が入所している特別養護老人ホームに見舞いに行ったら、看護師免許を持っている介護士が働いていた。近くの病院の職員募集を待っているのだそうだ。
 社会面に目を向けてみると、GDPの低下が著しく、日本の国際競争力は世界で50位以下になったそうだ。高齢化率は30%となったがこれは予測されていたことだ。特筆すべきは、特殊出生率が0.95となったことだ。最近は子供を見ることも少なくなった。小児科も自己負担金が高くなり、患者が来なくなったそうだ。地方の病院は次々と廃止され、10年前に8,500あった病院は5,000を切ったそうだ。地方に住むと病院に通院するのに何時間もかかるので、郊外では住みにくくなった地域も多い。日本は本当に住みにくくなった。日本は、社会保障を充実して皆が安心できる国を目指していたはずなのに、どこで狂ってしまったんだろう。
−吉夢編− Happy
平成32年1月、医療の分野では去年もまあまあのことが多かったが、今年も診療報酬の改定率が5%増額になるそうだ。私は、雨宮浩一郎、45歳の勤務医だ。平成12年に国立大学医学部を卒業し、卒業後、大学附属病院の内科に入局した。医局ローテーションで様々な病院で勤務をし、5年前に今のA病院に赴任した。現在の病院はもともとF市とその周辺市町村が作る公立病院だったが、平成27年に社会医療法人に改組された。

 私は1年間だけ公務員として勤務したが、その後医療法人の職員になった。公務員の時はいろいろ縛りも多かったが、民間の病院となり、大半のことが病院独自で決められるようになった。公立病院時代には給与規定が決められ、いわゆる年功序列であったが、今は病院経営部と医師が交渉して次年度の年俸を決める仕組みになっている。2年に1度改定される診療報酬の改定率がここ最近は毎回プラス改定になっているので、極端ではないが年俸額も増えてきている。それ以上に嬉しいのは、医師に一人ずつメディカルクラークが付いたことだ。書類作成や整理、電子カルテへの入力も医師が口頭で言った内容をデータ入力してもらえるのはとても助かる。 
 
 そうそう、電子カルテも昨年最新ものが導入され、とても使いやすくなった。インターネット経由で患者のカルテ情報を参照できるので、学会などに参加した時の出張先からでも入院患者の状態を把握できる。

 遠隔医療の法改正も行われたので、テレビ電話で話しながら、指示も行えるようになった。昨年から医師も勤務体制が3交代制となり、夜勤の後は休日となった。また、夜勤を何度か行うと、1週間は休暇が取れるので、昨年は2回も海外に行くことができた。1回目はパリの学会に出張し、2回目は家族とシンガポールに旅行に出かけた。出張先や旅行先でも心配な担当患者は「ネットカルテ」があるので、さほど気にならない。病院に勤務する医師の数が5年前から3割程増えたので、出張や旅行の間の代医を頼みやすくなった。

平成12年くらいから女性医師の割合が増加し、最近では医師同士の職場結婚が多くなった。私の妻も医師でF市内のB病院の勤務医として働いている。彼女とは研修医時代に知り合い5年くらい付き合って入籍した。結婚当時は収入もなく、休みがなく働いてばかりだったので結婚式を挙げていないままだが、結婚15年目の今年は長期休暇を取り、彼女の念願であったタヒチのボラボラ島でささやかながら家族と親族とでの結婚式を計画中である。

 私には、10歳の長女と5歳の長男の2人子供がいる。下の子の大翔(ひろと)はまだ就学前なので妻が勤務している病院内にある保育施設に預けている。今日は妻が当直なので、私が大翔(ひろと)を迎えに行き夕食の支度をしなければならない。小学校4年生の凛(りん)は医学部を目指して猛勉強中で、そろそろ学校が終わって塾へ通う時間だろう。

 開業する友人がいるが、経営の苦労を背負い込むより、今の勤務条件がとても快適なので一生勤務医でもいいな、という気もする。開業もグループ開業が流行っているので、24時間患者に縛られることがなくなっている。診療報酬の改定率が概ねプラス改定なので、借金をして開業してもさほど危機感はないと医師会での会議に出席した時に聞いた。

 年々、病院に来院する患者は増加傾向にあり、診察が多少大変な面もあるが、今の生活には満足している。患者が増えてきている理由は、自己負担が安くなってきたからだ。外来の場合、患者の自己負担金は高齢者1割、若者2割、子供は無料となった。2年前に小児の自己負担金が無料となり、安易な受診が懸念されたが、親への啓蒙活動が功を奏して、それほどコンビニ受診は増えていないようだ。
入院では、2年前の「医療基本法」の成立で自己負担金が無料となった。食費は自費であるが、入院時の自己負担は2週間入院で約2万円程だ。入院期間は短縮されてきており、病棟では結構忙しいが、適切な入院が増えてきたようだ。介護施設も充実してきているので、長期入院も減ってきている。一方、在宅死が増えてきているが、法整備が整ってきているので、さほど大変ではない。医療法21条が改正され、明らかに病死と判断される場合は、死亡確認は24時間以内でよくなった。深夜に患者が在宅や施設で亡くなった場合には、翌日の午前中に死亡確認に行けば良いので、昔のように深夜の呼び出しは減ってきた。厚生労働省も在宅死亡率が上昇し、国際水準になったと喜んでいるようだ。

 医療訴訟も国民に対する啓蒙活動が充実し、件数は減ってきているそうだ。全科の無過失補償制度も充実し、不幸にも亡くなった患者の家族には一定の金額が支払われる。医師は多少事情を聞かれるくらいで、それ以上の心配をする必要がない。十数年前にある産科で患者死亡後に逮捕された医師がいたが、今は医療関連死で逮捕される心配はなくなった。それだけでも、精神的負担は非常に軽くなった気がしている。看護師の処遇も大きく改善されてきている。看護部にもメディカルクラークが配置されているので、カルテへの入力作業が減って、事務作業が少なくなったと聞く。その分、患者を看ることができるので、患者からの評判も良くなっているようだ。在宅医療も進んできており、訪問看護も利用も増えてきている。独立して訪問看護ステーションを経営する看護師も増えてきているらしく、看護師のモチベーションは上がっているだろう。

 日本の高齢化は予測通り、低下することはないようだが、高齢者は自立した生活がしやすくなっているようだ。1カ月ぶりに母親が入所している特別養護老人ホームに見舞いに行った。現在、ホーム周辺にある空き家を運営法人が買い取り、入所者に対して本当の在宅生活を勧めているそうだ。私の母は多少認知症はあるが、今後は法人が所有する戸建て住宅に引っ越して独り暮らしをする予定だ。介護報酬の増額により、ホームの運営が安定化しているので、ホームの入所者も職員も生き生きとしていて、また、経営面についても様々な取り組みができるようになってきたそうだ。

 政府が社会保障を充実させるようになって10年、社会も何とか安定してきたようで、「医療崩壊」という言葉はいつの間にか聞かれなくなった。GDPも上昇基調にあるそうだし、日本の世界的競争力も5位以内をキープしている。最も驚いたことは、出生率が上向いてきたことだ。昨年で1.8人を超え、近いうちに2人を超えると言われている。既に子供を産める年代の女性が減っているので、大幅な人口増は望めないが、希望が持てる数字と言えるだろう。日本も捨てたものじゃない、と思えてきた。
<医療情報室の目>
 平成22年元旦の初夢を描写しました。10年後に「悪夢」の世界と「吉夢」の世界のどちらがやってくると思われますか?
我々は、ぜひ「吉夢」の世界がやってきて欲しいと切に願っています。今年は国民皆保険を基盤とする平等で安心・安全な
我が国の社会保障は大きく変化し、先に描いた初夢のどちらの世界に進むかの分水嶺の年になると思います。
本号を読まれた方々の一人一人が「吉夢」のような未来で暮らせるように、地元選挙区の議員、行政関係者、患者の皆さん
など多くの地域の方々に対してあるべき医療の姿を提言していきましょう。明るい未来は今、創られるのです。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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