医療情報室レポート
 

bP39  
 

2009年12月18日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:平成21年をふりかえって

 今年の流行語年間大賞「政権交代」と、トップテンの一角を占めた「新型インフルエンザ」。この二つの言葉で、平成21年の新
聞・テレビが埋め尽くされた一年だった。
戦後初めて野党第1党が政権奪取し、これから社会・経済に広範な影響が及び、国民の生活と国の安全保障にも大きな変化
の兆しが見えてきた。この変化が国民皆保険を基盤とする平等で安心安全な我が国の社会保障にどのような形で現れてくるの
か。後世の人は、平成21年をその始まりの年として総括するかも知れない。そして、未知のウィルスが全世界を襲う「新型インフ
ルエンザ」の脅威。流行もやや下降線をたどる兆しがあるものの、まだまだ警戒が必要だ。今回は、年末恒例の、今年一年の出
来事をまとめた。

●平成21年の主な出来事

医師会関係 厚生・行政関係 トピックス
1月
日医会員数16万5,360人(2008.12.1付)、
前年比とほぼ変わらず
日医、「外来管理加算に関するアンケート調査」を取りまとめ中医協に対し同加算の緊急見直しを要求
日医、いわゆる「潜在看護職員」の7割が復職を希望しているというアンケート結果を公表
日医、自民与党に対しレセプトオンライン請求完全義務化を撤回し、希望者のみの手上げ方式とするよう要望
厚労省、2008年人口動態推計公表、出生数(109.2万人)前年比2,000人増
麻生首相、経済状況を好転させることを前提として2011年度までに消費税を含む税制抜本改革を実施することを言及
厚労省、都道府県に対し「ジェネリック医薬品希望カード」を被保険者に配布する等、後発医薬品の普及促進についての通知発出
国際通貨基金(IMF)、2009年の世界全体の経済成長率が0.5%で第二次世界大戦後最悪となる見通しを発表
運転免許証がICチップ内蔵のICカード式となる
西川善文日本郵政社長、かんぽの宿のオリックス不動産への売却に対し事実上の凍結を表明
株券電子化の実施
アメリカへの入国手続きに電子渡航認証システム(ESTA)が必須に
2月
日医、「平成20年日医会員喫煙意識調査報告」を公表、会員の喫煙率が男性15.0%、女性4.6%と男女とも過去最低
日医、日本経済新聞社説「レセプト完全電子化を後退させるな」に抗議
日医、勤務医をテーマとした新CMを2編発表
市医、「広報担当理事者会」設置
鎌倉市に市内でお産ができない状況を改善する為、医師会立の産科診療所「ティアラかまくら」が開院
厚労省、新人看護師に対する卒後臨床研修を制度化すべきとする報告書を取りまとめる、焦点の看護基礎教育「大学化」は結論出ず
イタリア、ローマで開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議後の会見に意識もうろうの状態で出席した問題で、中川昭一財務金融担当相が辞任、後任は与謝野馨氏が、財務相、金融担当相を兼任
3月
日医、麻生首相開催の「経済危機克服のための有識者会合」で「緊急保証制度」の対象に医療機関を加えるよう要望
日医、世界医師会加盟17か国に対して行った「産科医需給状況調査」の結果を報告、11カ国が産科医の不足・偏在が存在すると回答
市医、「胃がん・大腸がんワーキンググループ」設置
第103回医師国家試験合格者発表、合格者 7,668人、合格率91.0%で昨年に引き続き男女共に過去最高
政府与党、「規制改革推進3か年計画」を決定、レセプトオンライン請求の義務化について完全義務化を事実上緩和
厚労省、「外来管理加算の意義付けの見直しの影響調査」の結果を中医協に報告、患者の6割が時間の目安は必要ないと考えていることが明らかに
厚労省、社会保障カードの導入効果として資格返戻レセプトの減少により283億円の経費削減が見込まれると試算
総額2兆円の定額給付金の財源裏付けとなる 平成20年度第二次補正予算執行関連法案成立
日経平均株価の終値がバブル崩壊後の最安値を更新し一時7,054円98銭に
第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦、決勝で日本が韓国を破り2連覇達成
4月
日医、平成19年からスタートした女性医師バンクについて2年間で128件の就業が成立したことを発表
日医、 中医協において外来管理加算の「5分要件」の撤廃を改めて要求
日医、会内における対応をまとめた「新型インフルエンザ対策に関する行動計画」を策定
市医、「新型インフルエンザ対策室」設置
福岡市立こども病院・感染症センター、新型インフルエンザ流行に伴う発熱外来開始
政府与党、今年度補正予算による財政支出で15兆4,000億円、総事業費56兆8,000億円に上る過去最大規模の追加経済対策「経済危機対策」を決定
厚労省、中医協に提出した「病院勤務医の負担軽減の実態調査」で救急科医師の実勤務時間が74.4時間に上ることが明らかに
親の保険料滞納により無保険状態となっている中学生以下の子どもを救済する為の改正国民健康保険法施行
世界保健機関(WHO)、メキシコ、アメリカを中心に感染が拡大した新型インフルエンザ(豚インフルエンザA/H1N1)に対し警戒レベルを「フェーズ5」とすることを宣言
北朝鮮、日本・東北地方の太平洋上に向けミサイル発射実験を実施、麻生首相、「北朝鮮によるミサイル発射は極めて遺憾」と抗議声明を発表
「道路整備事業財政特別措置法」改正、一般財源化による道路特定財源制度の廃止決定
5月
日医、「骨太の方針2009」の取りまとめに向け次期診療報酬改定での大幅な引き上げ等を求めた緊急提言を発表
市医、「新型インフルエンザ対策室」から「新型インフルエンザ対策本部」へ移行
福岡市民病院、九大病院、福岡病院、新型インフルエンザ流行に伴う発熱外来開始
新型インフルエンザ対策本部(本部長:麻生首相)、患者が集中している地域は一般医療機関で患者を診察できるよう感染状況により地域を分類し、疑似症例を再改定した「対処方針」を決定
グリーン家電購入によるエコポイント制度実施
裁判員制度施行
横浜港開港150周年式典挙行
盧武鉉前大韓民国大統領が自殺
6月
日医、財政制度等審議会がまとめた建議に対し、2,200億円の社会保障費削減の明確な撤回を改めて要求
市医、公益法人制度改革に伴い法人形態を平成24年度までに移行することを決定
「骨太の方針2009」閣議決定、焦点の社会保障費2,200億円の削減について撤回する  旨の文言は盛り込まれなかったが、削減は しないことを約束
厚労省、新型インフルエンザの流行に備え運用指針を改定、一般医療機関で診療可能にし、サーベイランスは全数把握から「集団発生・重症者」の把握に
世界保健機関(WHO)、新型インフルエンザの警戒レベルを最高度の「フェーズ6」へ引き上げ
改正薬事法施行、大衆薬の9割程度が登録販売者を設置するスーパー、コンビニエンスストア等において販売可能となる一方、離島等の場合を除き、一部大衆薬のインターネット通信販売が原則禁止に

医師会関係 厚生・行政関係 トピックス
7月
日医、麻生首相が日医訪問し衆院選における支援を要請
市医、「福岡市救急医療市民公開シンポジウム」開催
「第41回九州地区医師会共同利用施設連絡 協議会」開催(福岡市)
政府与党、来年度予算概算要求基準(シーリング)を閣議決定、2,200億円の削減を撤回し自然増1兆900億円をそのまま容認
臓器提供の年齢制限を無くし、家族の承認による移植を可能にする改正臓器移植法(いわゆるA案)が成立
平成20年度平均寿命男性79.29歳、女性86.05歳で過去最高を更新
新型インフルエンザ、国内発生の患者が5,000人を突破
若田光一氏、日本人初の137日に及ぶ宇宙での生活を終えケネディ宇宙センターに帰還
日本各地、中華人民共和国、インド、太平洋の島々で21世紀で最も継続時間が長い皆既日食
中華人民共和国、新疆ウイグル自治区において民族対立を背景に暴動発生
8月
日医、設備投資に係る仕入税額控除の特例措置創設等を求める来年度の税制改正要望を発表
「第40回中・四・九地区医師会看護学校協議 会」開催(唐津市)
厚労省、新型インフルエンザで患者の医師届出を不要にする症例改正を実施、重症者把握をウイルス変異の探知に重点を置いた 体制に
市町村国保実施による平成20年度特定健康診査受診率が全国平均で28.30%で目標値35%を大きく下回る、都道府県で大きな格差も
政管健保、収支決算を公表、2年連続の赤字で平成20年度は2,290億円の赤字
新型インフルエンザ、国内での死亡例が相次いで報告、厚労省は第一波の本格的な流行の認識示す
第45回衆議院議員選挙、自民党が歴史的敗北、民主党が308議席獲得し政権交代へ
ビル・クリントン元アメリカ合衆国大統領、拘束されたアメリカ人記者の解放を求め北朝鮮を訪朝し金正日総書記と会談
9月
日医、「新政権の発足にあたって」を発表、鳩山新政権に対し医師の立場から対話を通じて提言していきたい旨の見解示す
日医、「勤務医の健康を守る病院七か条」発表
唐澤日医会長、来年4月からの3期目続投を表明
福岡市急患診療センター、新型インフルエンザまん延期に備えセンター内を有熱、非熱ゾーンに分離、外科、産婦人科は外部での輪番制に
「第46回九州首市医師会連絡協議会」開催 (熊本市)
民主、社民、国民新の連立政権が樹立し、社会保障費2,200億円抑制の廃止、後期高齢者医療制度廃止等を明記した政策合意に署名
2008年人口動態推計で出生率1.37で3年連続の上昇
厚労省、平成19年度国民医療費の概況を発表、総額34兆1,360億円で前年度比3%増
厚労省、予防投与を推奨しない医療体制等の方針を定めた新型インフルエンザ運用指針改訂版を公表
麻しんワクチン補足接種の接種率、中1は85.1%、高3は77.3%で目標の95%に届かず
厚労省、子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチンを承認
第93代内閣総理大臣に鳩山由紀夫氏が指名され民主、社民、国民新の3党連立による新政権発足、厚労相に長妻昭氏が就任
消費者庁発足
1年間に2回目の大型連休となるシルバーウィークが初めて採用される
ブータンでマグニチュード6.3、南太平洋、サモア近海でマグニチュード8.3、インドネシア、スマトラ島沖でマグニチュード7.6の大地震発生
10月
日医、中医協人事について容認できないとの見解を示すとともに、京都府医師会副会長の安達秀樹委員を全面的に支援する考えを示す
市医、「明日の医療を考えるセミナー」に民主党の梅村聡参議院議員を講師に迎える
原中勝征茨城県医会長、来年4月の日医会長選挙への立候補を表明
厚労省、中医協人事で日医の3人の委員について再任を認めず、新たに京都府医師会副会長の安達秀樹氏、茨城県医師会理事の鈴木邦彦氏、山形大医学部長の嘉山孝正氏を任命
新型インフルエンザワクチンの優先接種対象者、回数、スケジュールが決定、厚労省は全国規模で本格的な流行となっていることを発表
2016年夏季オリンピックの開催都市がブラジル、リオデジャネイロに決定
11月
日医、行政刷新会議の事業仕分けについて「結論ありきの議論が行われたのではないか」と批判の見解示す
市医、本多一正会員、瑞宝双光章受賞
「第48回十四大都市医師会連絡協議会」開 催(堺市)
福岡市において新型インフルエンザワクチン接種事業開始
厚労省、新型インフルエンザワクチンの接種回数について妊婦、基礎疾患を有する者も含め18歳以上の者は原則1回とする方針を示す
行政刷新会議、予算編成に向けた「事業仕分け」の対象として医療分野において診療報酬の配分、薬価見直し等を選定
長妻厚労相、介護療養病床削減の凍結を表明
厚労省、足立信也政務官、レセプトオンライン義務化に対し方針そのものを撤回する考えを示す
中医協、外来管理加算5分要件撤廃で実質合意
新型インフルエンザ、定点当たりの報告数が33.28となり全国規模で警報レベルに達する
西日本を中心に記録的大雨、和歌山において降水量が119.5ミリと史上最多の雨量を観測
バラク・オバマアメリカ合衆国大統領が日本訪問
ドバイ政府が政府系持株会社ドバイ・ワールドの債務返済繰り延べを要請したことに伴い、世界的に株式相場が急落
12月
日医、厚労省政務三役宛に大幅な診療報酬引き上げや患者一部負担割合の引き下げ等を求める「平成22年度診療報酬改定に対する日本医師会の要望」を提出
市医、次期役員1次選挙告示
市医、松本寿通会員、第38回都道府県医療功労賞受賞
文科省、来年度の大学医学部定員について今年度を360人上回る8,846人にする計画を発表
中医協、次期診療報酬改定で「後期高齢者終末期相談支援料(200点)」の廃止を決定
民主党「適切な医療費を考える議員連盟(会長 櫻井充参議院議員)」、次期診療報酬改定で総額3%のプラス改定を求める決議文を小沢幹事長に提出
新型インフルエンザ、国内での死者が100人を突破
政府、物価の下落が続いている状況を反映し3年5か月ぶりに「緩やかなデフレ状況にある」ことを認定
2010年FIFAワールドカップ組合せ抽選、 日本はグループEでオランダ、デンマーク、カメルーンと対戦決定

<医療情報室の目>
 9月に誕生した民主党鳩山内閣は、高速道路無料化、子ども手当支給、ガソリン税等の暫定税率廃止、公立高校の無償化等、今回の選挙戦で掲げたマニフェストのセールスポイントである生活支援の諸政策実現に向け、政権内の意思統一と条件整備を進めており、国民の多くが、その具体化の行方に注目している。税金の「ムダ遣い」を一掃する前段階の作業として、初めて国民の前に明らかにされた「事業仕分け」に対しても注目が集まったが、これが一過性のパフォーマンスに終わるのか、行政の風土として定着したものとなるのか、あるいは、「聖域なき」事業仕分けとして、小泉改革の轍を踏む愚を犯すことにはならないか、国民の冷静な見極めが求められるところだ。
 医療分野においては、社会保障の自然増2,200億円削減の撤廃が決定され、来年度の診療報酬改定をめぐっては、財務省側が本体部分を引き下げる方針を示したことに対し、厚労政務三役からは改定率の引き上げを求める声が上がっている等、医療費増額の方向性が示されつつある。しかし、診療報酬の配分、薬価の見直し等が「事業仕分け」の対象となったり、中医協の人事について、日医執行部の推薦枠が無くなる等、これまでの制度的な慣例が、政権交代の影響で政治主導により見直されており、診療報酬の増額を掲げた政権公約が、医療現場の声を正しく反映して実現されるのか、疑問符が呈されるところだ。
 アメリカの世界最大手債券ファンドであるPIMCOのCEOモハメド・エラリアン氏が、サブプライム危機を予言した時、将来の経済状況を「ニューノーマル(新たな標準)」と表現したが、この言葉は、景気が回復しても元どおりの経済水準には戻らないことを意味しており、景気後退が底を打ったと言われる我が国においても、個人消費は冷え込んだままであるし、低迷し続けるGDPや5%台の失業率の状態が、まさに「ニューノーマル」となってしまう虞(おそれ)は多分にある。先日発表された、今年を表す漢字一文字は「新」だったが、今年吹いた「新」風が「順風」になることを願うばかりだ。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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