医療情報室レポート
 

bP29  
 

2009年 2月 27日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特 集 :新型インフルエンザへの対応
 
 
国や地方自治体により、新型インフルエンザへの対応策やガイドラインが策定されているが、我々、
国民一人一人も日頃から新型インフルエンザの正しい知識・理解を深め、万が一の状況に備えておく
ことが必要である。

 インフルエンザは、例年11月上旬頃から発生し、その後、急激に患者が増加し、1月上旬から2月にピークを迎えた後、患者が減少していき4月上旬頃に終息するとされている。今シーズンにインフルエンザに感染した患者は、前年の約4倍にも達しているが、内訳を見るとAH1亜型(Aソ連型)とAH3亜型(A香港型)の報告が多く、この2つの型の混合流行が予想される。
 中でも、近年発生動向が注目されている新型インフルエンザは、動物、特に鳥類のインフルエンザウイルスが変異し、鳥から人へ、そして人から人へと感染して起こる疾患であり、特に、東南アジア諸国で多く発生している鳥インフルエンザウイルスの人への感染例は、新型インフルエンザウイルスの人から人への爆発的な感染、いわゆるパンデミックと言われる世界的な大流行が起きる可能性を示している。
 政府は、「新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議」において新型インフルエンザに対する行動計画を大幅に見直し、我が国に対応したガイドラインを策定した。今回は、インフルエンザの基礎知識や新型インフルエンザへの対策、福岡市における行政の準備状況についてまとめた。

インフルエンザの基礎知識
インフルエンザと風邪の違いは?
 〜インフルエンザ〜(流行時期:我が国では12月〜3月)

 突然現れる高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状に併せて、喉の痛み、鼻汁、咳などの症状が見られる。さらに気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性けいれんを併発し重症になることもある。
 一旦流行すると、短期間で小児から高齢者まで多数を巻き込む等、長期で流行する普通の風邪とは異なる。
インフルエンザの種類は?
インフルエンザの原因となるインフルエンザウィルスは、A型、B型、C型に大きく分類され、これらのウイルスは毎年のように変異する
予防の重要性
抗インフルエンザウイルス薬として、タミフル、リレンザ、シンメトレルがあるが、これらの薬剤の効能はあくまでも「インフルエンザの諸症状を軽くし、有熱期間を短縮すること」である。我が国では、タミフルなどの 抗インフルエンザ薬を「飲まなければ治らない」という固定観念が強いせいか、世界的に見てもタミフルの使用量が極めて多い。
インフルエンザは自然治癒する疾患であるので、まずは、インフルエンザに“かからないこと”つまり、適切な予防策を把握・実践するとともに、抗インフルエンザ薬の効能や適正な使用を理解することが重要である。
Hint・ひんと・・・
現在、厚生労働省の研究班は新型インフルエンザを含めたあらゆるタイプのインフルエンザに対応可能なワクチンを開発中である。研究班は、国立感染症研究所・北海道大・埼玉医科大・化学メーカーの「日油」で、実用化にはあと3年はかかる見通しである。現在使われているワクチンは、ウイルスの表面にトゲのように突き出しているタンパク質を基に製造しているが、トゲ状のタンパク質が毎年のように形が変異する為、ワクチンを製造し直す必要がある。それに対し開発中のワクチンは、変異しにくいウイルス内部のタンパク質に注目し、抗体が内部のタンパク質を確認して細胞そのものを攻撃し増殖を防ぐ仕組みとなっている。同じ仕組みのワクチンをイギリスのオックスフォード大も研究中であり、一刻も早く実用化されることが期待されている。
新型インフルエンザとは?
前述のように、インフルエンザウイルスには様々な種類があり、自然界において人以外の動物、特にカモ、アヒルなどの水鳥を中心とした鳥類にも感染する。インフルエンザウイルスに感染している鳥類の多くは症状はないが、他の鳥類に感染して症状が出た場合、それを鳥インフルエンザと呼ぶ。また、鳥インフルエンザの中で、死亡してしまうようなものを高病原性鳥インフルエンザと呼ぶ。
新型インフルエンザとは、従来は人に感染することがないとされている鳥インフルエンザウイルスが人に感染し、人の体内で増殖可能な形に変化し、人から人へ感染できるようになったウイルスによる疾患を指す。
近年、鳥インフルエンザが鳥から人に感染する事例が数多く報告されており、鳥インフルエンザウイルスが変異し新型インフルエンザが発生する可能性が危惧されている。
世界保健機関(WHO)によると、現在我が国のパンデミックインフルエンザの警報フェーズは、パンデミックアラート期(フェーズ3)であり、国外で鳥から人への感染は見られるが、国内では鳥から人への感染は発生していないという状況である。
対 策 〜国、自治体・企業・個人として〜
新型インフルエンザ対策として、厚労省は平成17年に「新型インフルエンザ対策行動計画」を公表し、計画に基づいた行動・訓練を実施している。さらに蔓延を防ぐために、プレパンデミックワクチンの製造や、抗インフルエンザ薬の備蓄、医療体制の整備などを行っている。地方自治体でも国の行動計画に沿った形や独自の形で行動計画やマニュアルを策定している。福岡市は「福岡市新型インフルエンザ対策連絡会議」を設置している。
新型インフルエンザ対策は、国・地方自治体だけでなく、全国民で取り組むべきものであり、企業・個人としても新型インフルエンザの情報収集を常に行い基本的知識を把握し、パンデミック発生時の対策を講じる必要がある。
  (ex 業務体制の検討、食料・水・日用品等の確保)
新型インフルエンザが発生した際、医療現場は…
感染拡大期(感染拡大防止を目的とし、感染症指定医療機関が対応)
 ・新型インフルエンザの患者とそれ以外の患者との振り分けを行う
 ・所轄の保健所に連絡、相談し、患者を感染症指定医療機関へ搬送す
蔓延期(重傷者の治療を目的とし、原則すべての医療機関が対応)
 ・増大する医療ニーズに対応し、入院治療の必要性を判断する
  →輪番制を組み診療にあたるなど、発熱外来での診療協力
  →軽傷者と重傷者を適正に振り分け、軽傷ならば抗インフルエンザ
    薬を処方し自宅療養を指示、重傷ならば入院機能を持つ病院へ搬送
しかし!
入院治療が必要か否かの判定基準が政府のガイドラインでは示されておらず、その見きわめ等は、ある程度のデータ収集ができてからになるだろう
<医療情報室の目>
 近年、インドネシア、ベトナム、中国、タイなどの東南アジアを中心に、通常、人には感染することがないとされている鳥インフルエンザウイルスが人に感染し、多くの死者が出ている。今後、このウイルスが新型インフルエンザへと変異する可能性は否定できない。
 新型インフルエンザは、毎年流行するインフルエンザウイルスとは異なり、過去に1918年から1919年にかけて大流行したスペインかぜが挙げられるが、人類のほとんどがウィルスに対する免疫を持っていないため、容易に人から人へ感染し、世界的な大流行を引き起こし、それに伴なう健康被害や社会的影響を及ぼすことが懸念される。
 我が国では、新型インフルエンザへの対策を国家の危機管理に関わる重要な課題とし、パンデミックに備えた準備が進められているが、 新型インフルエンザが「災害」として位置づけられておらず、災害対策として対応することが困難な状況にあり、必要となる防護具・サージカルマスク・ゴーグル・人工呼吸器等の診療機材等の購入予算が国レベルで組まれていない為、医療機関としては感染防護の為の装備の必要性を感じながらも対応できずにいる。また、パンデミック発生時に、先んじて対応した医療機関に対する経営上の損失への補助や、医療従事者等が二次感染した場合の補償の問題等、明らかにしていくべき課題は多くある。併せて、我々医療従事者ばかりでなく国民一人一人が、感染の広がりをできる限り抑え、健康被害を最小限にとどめるとともに、社会・経済を破綻させない為に、今置かれている状況の中でどのような役割を担わなければならないのかを自覚しておくことが必要である。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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