医療情報室レポート
 

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2008年 11月 28日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特 集 : 小説・映画・漫画に描かれた「医療」
 
 
 映画やドラマ、小説、そして最近では漫画のテーマにも「医療」がとりあげられることが多い。そもそも、医師が表現者としてこうしたジャンルに関わることは随分以前からありましたが、近年は医療や医師そのものを題材とした作品が百花繚乱の様相を呈しています。そして、そこで描かれる医療の問題や医師の苦悩は、かつてのように一般社会と隔絶された特殊な社会の話ではなく、身近な人間の普遍的な問題として描かれる傾向が強いようです。既におびただしい作品が世に出ていますが、今回は、いつものレポートとは趣を変えて、そうした作品の一部を紹介します。

 作 品 の 紹 介
○ テレビや映画で、医療をテーマにした作品が流行している。医療小説や医療漫画など、内容は恋愛小説や時代小説と同様に奥深い。
小説〜Novel〜
チーム・バチスタの栄光(2006年) 海堂 尊 著
 作中に登場する「東城大学医学部付属病院」では、フロリダのサザンクロス心臓疾患専門病院から心臓外科の権威、桐生恭一を招聘し、拡張型心筋症に対する手術術式のひとつであるバチスタ手術を行うチーム、「チーム・バチスタ」を結成し、「チーム・バチスタの奇跡」と呼ばれる程の驚異の成功を収めていました。ところが、三例続けて術中における死が発生し、併せて次の患者が海外からのゲリラ少年兵士ということもあり、マスコミの注目を集めました。
そこで疑念を解明する為、内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の講師田口公平と厚生労働省の白鳥圭輔でした。 しかし白鳥という男は変人としか言いようが無い。その他様々なユニークなキャラクターが交差しながら話は進んでいきます。医療過誤か殺人か、さらに事態は混迷を極めます。
 現役の医師で勤務医でもある海堂尊が、医療現場や大学病院における医局政治、人間関係を描き、バチスタ手術中の謎の死をめぐるミステリーが読者の間で話題となり、320万部を超えるベストセラーとなっています。ドラマ化され、現在テレビ放送されています。
赤ひげ診療譚(1953年) 山本 周五郎 著
  「赤ひげ診療譚」は1953年に発表された山本周五郎作の時代小説。8つの短編から構成されるが、各編に連続性が有るため一つの物語のような作品となっています。
 1722年、徳川吉宗が享保の改革により江戸の貧民救済施設として設置された「小石川養生所」が舞台。
 所長の「赤ひげ」こと「新出去定」と様々な人生と疾患を抱える患者との物語が、青年医師「保本登」を主人公に描かれています。出世の道を歩むはずが養生所の医員見習いとされ、当初は馴染めず反発をする主人公ですが、多くの貧しい患者の診療にあたる「赤ひげ」の無骨な態度の中にも脈打つ篤い心に触れ、心境の変化と成長を重ねていきます。
  利己的な考え方が広がる現在、本作品は50年前に作成されたものではあるが、主人公の目を通して、人としての温かさや有り様は今も昔も本来変わりないことがあらためて感じられます。
  本作品は1965年に「赤ひげ」(黒澤明監督)として映画化され、その後も繰り返しTVドラマ化されています。
その他の医療小説は?
『暖流/岸田 國士 著(1938)』 『白い巨塔/山崎 豊子 著(1963)』 『アフリカの蹄/帚木 蓬生 著(1992)』
『打ち砕かれた昏睡/ジョン・ダーントン 著(2005 米)』 『無痛/久坂部 洋 著(2006)』 『ブラックペアン1988/海堂 尊 著(2007)』
 『家守娘/篠田 節子 著(2008)』など
映画〜Movie〜
レナードの朝(1990年 米) ペニー・マーシャル 監督 
原作者オリヴァー・サックス医師の実体験に基づく小説を映画化したヒューマン・ドラマ。神経科病院に赴任してきた医師セイヤー(ロビン・ウィリアムス)は、脳炎により半植物状態となっている患者達の微かな反応に気付き、試験的に新薬を投与したところ、彼らの意識は
30年ぶりに奇跡的に目覚めます。
 患者の一人であるレナード(ロバート・デ・ニーロ)は周囲に次第に溶け込み、ある日、病院に見舞いに訪れるポーラに恋をします。会話を重ねるうちに彼女との交際を夢見るようになるレナードは、自由に外出できるよう病院に要求しますが、受け入れられず、他の患者達を扇動し病院側と対立します。しかし患者達の希望とは裏腹に次第に薬は効かなくなり、セイヤーの努力も空しく、再び彼らは永い眠りに就いてしまいます。
 作品は1960年代の実話とされていますが、患者達が意識を取り戻したほんの僅かな時間は、彼らにとってどんな意味があったのでしょうか。派手に描かれた映画ではありませんが、人間の尊厳について考えさせられる作品です。
ジョンQ−最後の決断−(2002年 米) ニック・カサヴェテス 監督 
 主人公(ジョンQ)の息子が少年野球中に突然胸を押さえて倒れ救急病院に運ばれ、重い心臓病との診断で心臓移植しか救命の方法はないと宣告されます。
 心臓移植には高額な費用がかかるため、医療保険を頼りに会社に問い合わせるも、働いている工場でリストラされパートタイマーとなったジョンQの保険はランクを格下げされており、高額な心臓移植には適用されないと知り愕然とします。退院を迫られ金策に走るも万策尽きたジョンQは、息子の名前を移植待機者名簿に載せることを要求し、病院スタッフや患者を人質に救急病棟を占拠します・・・。
 この映画の日本公開は2002年秋、折しも日本では前年4月に小泉内閣が発足し、「聖域なき構造改革」を掲げ、我が国の医療保険制度を「改革」という名の下に「崩壊」の道へと進めていった時です。映画に描かれているアメリカの医療の現状は、格差社会と化し無保険者を増加させ、今もなお混合診療を目論む我が国においても決して対岸の火事ではなく、近い将来の日本の姿として映し出されているとも言えます。
その他の医療映画は?
 『カッコーの巣の上で/ミロシュ・フォアマン 監督(1975 米)』 『ヒポクラテスたち/大森 一樹 監督(1980 日)』 
 『評決/シドニー・ルメット 監督(1982 米)』 『ボディ・バンク/マイケル・アプテッド 監督(1996 米)』 
 『パッチ・アダムス/トム・シャドヤック 監督(1998 米)』 『シッコ/マイケル・フランシス・ムーア 監督(2007 米)』など
漫画〜Comic Book〜
陽だまりの樹(1981年) 手塚 治虫 作
 巨匠手塚治虫の晩年の時代劇、幕末の物語です。主人公は2人、手塚治虫の3代前の先祖、蘭方医の手塚良庵と近くに住む武士の伊武谷万二郎。手塚良庵は実在の人物で、父、手塚良仙と2人で江戸の小石川で開業医をしていましたが、20歳代後半に大阪の緒方洪庵の弟子となります。めっぽうの女好きで、岡場所の場面が多くあり、女性での失敗も面白く読めます。一方の主人公、伊武谷万二郎は攘夷派なのですが幕府の命令により、アメリカ領事のハリスの警護役となり、ハリスの書記のヒュースケンと友人となります。
 2人は離れたり、また出会ったりしながら、多くの人々― 勝海舟、西郷隆盛、山岡鉄太郎、福沢諭吉、清川八郎、坂本竜馬たち ― と知遇を得ながら、時代の変化に抵抗しながらも、時代に流されていきます。2人の物語以外に、蘭方医や漢方医の政治的対立、アメリカ人との交流、当時の手術の場面、14代将軍徳川家茂の治療法など、時代をうかがえる話題も盛りだくさんです。その後、2人は幕府軍歩兵隊の隊長とその軍医となるのですが、伊武谷万二郎は坂本竜馬との交流が元に罷免されてしまいます。手塚良庵もそれがもとで、元の開業医に戻りますが、官軍の江戸入城にともない、伊武谷万二郎は彰義隊に入り、そのまま行方不明となります。最後に手塚良庵が言います、「おれも落伍医者だがお前さんも落伍武士だな。だがな、仕方がねいよな。時代の変わり方が早すぎるんだ…ご時勢のせいだよ。思えば蘭学がここまで天下御免になったのもたったの10年前さ。そこまでは俺もついて行けた。だが、外国がおしかける。エゲレス語が流行る。その上、幕府がなくなって天朝様が政権をおとりになる…。アレヨアレよって言ううちにだ。」
 今の世界の変化もこの時代の変化に似ているのではないでしょうか。世界中の変わり様は、ほとんどの人がついていけない程のスピードです。我々の医療界も10年後にどうなっているのか想像もできません。最終章で手塚良庵仙(父の後を継いで名前を改名しています。)は軍医に戻っており、明治10年に西南戦争に従軍し、病死して終わります。
 本作品の時代考証と手塚良庵については、日本医史学会が行っているそうです。学会に、突然手塚治虫氏から、自分の先祖について調べてもらえないかという電話が入り、その調査が元に漫画が描かれたとの投稿論文がありました。本作品、お暇な時に一読をお勧めします。
ブラックジャックによろしく(2002年) 佐藤 秀峰 作
長屋 憲 医療監修
臨床研修制度の不条理さ、大学医局の都合により歪められている医療、健康保険制度の矛盾、医療制度の現状、患者や家族との葛藤などを巧みに描写している作品です。
 主人公の斉藤英二郎は、純粋で一直線な性格。患者の為に奔走しますが、派遣された研修先で度々医局や教授、医療事情の現実と衝突します。 名門の永禄大学医学部卒業時には、医者として希望に燃えていましたが、理想と現実の違いを知ります。月給は38,000円で、上京して一人暮らしをしているので、それだけでは生活ができず、他の病院で夜間救急の当直医のアルバイトをします。
 新制度になる前の研修医制度や我が国の医療の実際がリアルに描かれており、医師を目指すことに恐れを感じる人もいるかもしれない。不妊治療を続けて来た夫婦の間に待望の双子の赤ん坊が生まれたが、双子の一人がダウン症の為、夫がその子を認知しないという話(コミック3〜4巻「ベビーER編」)と、がん患者とその家族に病名を告知すべきか、抗がん剤治療を進めるべきかを問う話(コミック5〜8巻「がん医療編」)がお勧め。2003年にテレビドラマ化されています。
その他の医療漫画は?
 『きりひと讃歌/手塚 治虫 作(1970)』 『ブラックジャック/手塚 治虫 作(1973)』 『おたんこナース/佐々木 倫子 作(1995)』
 『ラディカルホスピタル/ひらのあゆ 作(2000)』 『ゴッドハンド輝/山本 暉 作、天碕 莞爾 構成・監修(2001)』 
 『DR.コトー診療所/山田 貴敏 作(2001)』
 『医龍−Team Medical Dragon−/永井 明 原案、乃木坂 太郎 作画(2002)』 『小早川伸木の恋/柴門 ふみ 作(2004)』など
<医療情報室の目>
 映画・小説・漫画などのテーマに医療や医師が取り上げられることが多いのは、生・老・病・死という、人間にとって最も切実な問題が、医療の分野に凝縮されているからです。しかし、基本的にエンターテイメントである映画やドラマなどでは、医療が底の浅いセンチメンタリズムの道具になったり、出てくる医師が現実感の乏しい姿に思えてしまうのは、日々、「命」の重みに向き合う医療という行為が、所詮、フィクションの世界では十分に描ききれない深みを蔵しているからだろう。しかし、現代の一般社会の目に映る医療の世界は、まさしくドラマであり、サスペンスであり、ヒロイズムとヒューマニズムに満ちた人間臭い舞台なのです。
 今回、取り上げた作品は、表現方法やジャンルの違いはあるものの、そうした現代社会における医療と人間の関わりを、多様な視点から描いたものです。中には「赤ひげ診療譚」のような古い時代を背景にした作品もありますが、倫理観やヒューマニズムといったテーマは現代にも通ずる普遍的なもので、今の時代にも「赤ひげ先生」という言葉が生きていることは、そのことをよく表しています。
 ※今後、年に1、2回程度ですが、いつものレポートとは趣を変えた話題をテーマに特集したいと考えております。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 工藤 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・竹中 賢治(地域医療担当)・徳永 尚登(地域ケア担当)


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