医療情報室レポート
 

bP02  
 

2006年12月 1日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:終末期の医療

 「ターミナルケア」は回復の見込みのない疾患の末期に苦痛を軽減して精神的な平安を与えるように施される医療や介護である。ターミナルケアを実施する医療機関が 「ホスピス」であるが、「ホスピス」という言葉には宗教的な意味合いも強く、診療報酬においては「緩和ケア」という言葉が使われる。
 ホスピスの語源はラテン語「Hospitium(温かいもてなし)」に発し、ヨーロッパ中世に巡礼者、貧困者、病人などを休ませ、歓待する家が「ホスピス」と呼ばれた。現代のホスピスは1967年イギリスのセント・クリストファー・ホスピスに始まり、 日本に於いては1981年に聖隷三方原病院、1984年には淀川キリスト教病院が開設され、その後徐々に増えてきた。
 高齢化社会の進行に伴い、ターミナルケアへの関心は益々高まっているが、終末期の医療には、患者が残された時間を如何に有意義に過ごすか、病名の告知や延命治療、緩和ケア、尊厳死、安楽死に対する考え方など多くの課題がある。
 今回は終末期の医療について特集した。
  


緩和ケアの定義と課題


課 題
 
1.終末期の対象
現在、多くの終末期論は癌の終末期に 偏っており、現在死亡の最も多い年齢層は50歳代で、75歳以上の癌死亡者の割合は減少してくる。
後期高齢者の死亡原因は肺炎や脳卒中などが増加している為、癌以外の疾患の疾病を含め、終末期はいくつかの類型に分けて検討する 必要がある。

2.臨床研修
若手医師の研修内容には、長期にわたって患者を診察し、 最期迄看取るという研修はない。
 研修病院はほとんどが超急性期病院化しており、患者を短期間しか見れなくなっていることから、数ヶ月かけて悪化し、 死亡する患者の最後を診ていないことが多く、終末期の概念が理解されなかったり、癌などの特定の疾患による死亡しか 想像できなくなってはいないだろうか?

3.終末期の医療費
在宅での死亡を望む人は多いが、在宅で寝たきりになった 場合、どの程度の医療費・介護費、自己負担等が発生するのかについて考察はない。
数年寝たきりとなり、在宅死を迎えた例を患者の状態、家族の負担の面を含めた試算が必要だ。

医師会の取り組み


厚労省「終末期医療に関するガイドライン」

厚労省では終末期に於ける延命治療の開始や変更、中止に関して 「終末期医療に関するガイドライン(たたき台)」を纏め、
関係者・国民に意見募集を行っている。(〜H19年3月31日迄)
http://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p0915-2.html


<医療情報室の目>
★後期高齢者医療制度
 今年成立した医療制度改革関連法により、2008年度から75歳以上の高齢者を対象とした独立型の公的医療保険制度として「後期高齢者医療制度」がスタートする。
 厚生労働省では、75歳以上の診療報酬について、2008年から病気の種類や症状に応じ「定額制」とする検討に入っており(後期高齢者医療のあり方に関する特別部会)、 外来や終末期医療への導入も検討している。しかし、定額制を導入すれば、終末期においても必要な医療を十分に受けることが出来ず、過小診療を招く恐れがある。 高齢者の医療の在り方を検討するのはよいが、医療費抑制の思惑に基づいた終末期の在り方であるのならば、国民の理解を得るのは難しいであろう。

★医療現場の悩み
 厚生労働省が平成15年に一般国民5,000人、医療・介護関係者約8,800人を対象に実施した「終末期医療に関する調査」によれば、一般国民の八割以上、 医療・介護関係者の九割以上が終末期医療に関心をもっている。
 終末期医療において、患者の意思を踏まえた個々の医療行為の是非は医療提供側の判断ではあるが、延命の為の医療行為を開始しないことや医療行為を中止することに ついては、どのような手順を踏むべきか、医療提供者にとっては悩ましい問題である。特に、患者本人の意思と家族の意思とが一致していない場合は尚更だ。
 厚労省の調査の結果では、患者本人は早く苦痛から解放してほしいが、家族は単なる延命医療の継続を選択する傾向があるという結果が出ており、リビング・ウィル (書面による生前の意思表示)のように何らかの形で終末期について本人の意思を表明し、その意思が尊重されるような体制が、関係者を交えた国民的な議論の上で、 広く社会的に認められていくことが必要であろう。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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