医療情報室レポート
 

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2006年 7月 28日
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集: 療養病床の再編

 先月成立した医療制度改革関連法には療養病床の再編が含まれている。
 療養病床は、主に高齢者が長期入院しており、医療保険から費用が支払われる25万床と介護保険から費用が支払われる13万床がある。患者の状態はほぼ同様で、医療保険或いは介護保険の選択はそれぞれの施設に任されている。
 今回の制度改革では、医療費削減の一環として、2011年度末までに、医療型と介護型の合わせて38万床から 23万床を削減、医療保険のみの15万床迄に削減されることになった。(介護療養型医療施設は廃止)
 療養病床に入院している医療の必要性が低いとされる患者は、厚生労働省によれば約半分とされており、所謂「社会的入院」を解消する為、介護老人保健施設(老健施設)等への転換を進めるものである。
 しかし、家庭に戻れない高齢者の受け入れ先が確保できないことから「医療難民」を生み出し、また、地域医療・慢性期医療の崩壊という大きな問題を抱えている。
 今回の特集は、療養病床の成り立ちや改革の主な内容、医師会の見解などについてまとめた。
  


療養病床の成り立ち
 
昭和48年の老人医療費無料化後、所謂老人病院が増加、老人 医療費対策として昭和57年に老人保健制度が創設された。
昭和61年には老人保健法改正に伴い老人保健施設が創設、平成2年、高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)に基づき、 保健・福祉施設の緊急整備が行われた。

平成4年の第二次医療法改正で「病院の病床または診療所の病床 の一群のものであって、主として長期にわたり療養を必要とする患者を収容するための一群のもの」と規定、療養型病床群が新設された。

平成13年の第四次医療法の改正で医療区分の見直しが行われ、 それ迄の「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」に区分。(「療養病床」は主として長期にわたり療養を必要とする患者の為の病床)

一方、保険請求については平成12年に施行された介護保険法により、 従来からの医療保険の対象となる病棟と、介護保険の対象となる病棟のいずれかに区分されることとなり、「療養病床」は医療保険の医療型療養病床と介護保険の 介護療養型医療施設の二つの施設を指す。

療養病床の再編
 
○概要
<基本的方向>
  @ 療養病床については、医療の必要度の 高いものに限定し、医療保険で対応する。
  A 医療の必要の低い患者については、病院 ではなく、在宅、居住系サービス、又は老健施設等で受け止めることで対応する。

<転換支援措置>
  @ 医療療養病床、介護療養型医療施設それぞ れについて助成措置
  A 医師、看護職員などの配置が緩和された療 養病床の経過的類型の創設
  B 老人保健施設に転換する場合の施設基準の 緩和
  C 第4期の介護保険事業計画(平成21〜23年度) における参酌標準の見直し

診療報酬・介護報酬の引き下げ


医師会の見解と対応

○療養病床の再編に関して、
  1) 介護保険三施設は「いわゆる社会的入院の解消」を目的として創設された
  2) 第三期介護保険事業計画(平成18〜20年度)の策定には、介護療養型医療施設の廃止を含む療養病床再編計画が織り込まれていない ことを指摘、制度設計から短時間で大幅な見直しを迫るのは、論理性に欠けるとし、介護難民の流出、社会的資源の損失を防ぐためにも、早急に見直しを提言する必要がある。
4月に行われた診療報酬と介護報酬の同時改定についても、 制度間の整合性がなく、いわゆる社会的入院の問題解決策が示されていないと指摘。具体的な解決策を早急に検討する必要があるとしている。
診療報酬改定については、「医療区分1」の点数設定があまり にも低く設定されていることを「緊急に対応が必要な事項」の一つとして挙げた。
また、告示から届出までの期間が非常に短いことを指摘し、改定実施までの準備期間が十分に取れるような対応を求めていくとの考えも示した。
            (H18/5/16日医緊急記者会見より)
日医では医療現場に混乱が生じないよう、附帯決議や政省令 などによって運用面で確実に改善することを強く訴え、医療制度改革関連法案について、H18/6/13参議院厚生労働委員会採決時に「附帯決議」が付けられた。(右記参照)
医療制度改革法案における療養病床の再編に関する附帯決議

 療養病床の再構成に当たっては、すべての転換を希望する介護療養病床及び医療療養病床が老人保健施設等に確実に転換し得るために、老人保健施設の構造設備基準や経過的な療養病床の類型の人員配置基準につき、 適切な対応を図るとともに、今後の推移も踏まえ、介護保険事業支援計画も含め各般にわたる必要な転換支援策を講ずること。
 また、その進捗状況を適切に把握し、利用者や関係者の不安に応え、特別養護老人ホーム、老人保健施設等必要な介護施設及び訪問看護等地域ケア 体制の計画的な整備を支援する観点から、地域ケアを整備する指針を策定し、都道府県との連携を図りつつ、療養病床の円滑な転換を含めた地域に おけるサービスの整備や退院時の相談・支援の充実などに努めること。
 さらに、療養病床の患者の医療区分については、速やかな調査・検証を行い、その結果に基づき必要に応じて適切な見直しを行うこと。

<医療情報室の目>
★縦割り行政の弊害と地域医療の危機
 今回の療養病床の再編では、医療療養病床に入院する医療必要度の低い患者の点数は大幅に下げられており、医療型の療養病床から、介護療養病床や老健施設等への移行を迫られることになった。 しかし、2011年度末迄に介護療養病床の廃止も決まっており、介護療養病床に移行しても、6年の間に老健施設などに転換する必要がある。しかしながら介護保険の参酌標準により、 各都道府県に於ける各医療圏内の期間内の介護サービスや施設サービスの大枠は既に決められており、療養病床から老健施設への移行は簡単には出来ない。 加えて、これまで地域医療の現場で慢性期医療を担ってきた療養病床が、医療保険・介護保険の制度間の整合性を無視して突然減らされることで、 急性期の治療が終わった患者の受け皿が無くなることになるわけで、今後地域医療の根底を揺るがす危険性を孕んでいる。
 医療保険の療養病床を削減し、介護保険への移行を進める為には、それなりの道筋を整える必要があるのに、今回の療養病床の問題では厚労省内の保険局と老健局の足並みの乱れが目立つ。即ち、 当初保険局は、療養病床の介護保険への一本化を示唆していたものの、その後一転して、 昨年の12月に厚労省は療養病床を医療保険に一本化する方針を決定した。これは老健局のイニシアティブによるものとされている。
 縄張り意識が縦割り行政の弊害を生み、引いては医療政策の継続性の欠如に繋がって、国民医療と医療現場に無用の混乱をもたらすことがあってはならない。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 原  祐 一(広報担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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