医療情報室レポート
 

bW9  
 

2005年 9月 30日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

印刷用

特集:介護保険と医療保険

 本年6月に介護保険法などの一部を改正する法律が成立し、10月からは利用者の居住費・食費は保険給付の対象外となった。改正の理由として国は持続可能な介護保険制度の構築、在宅と施設の不均衡是正、年金給付との調整などを挙げている。
 日本医師会が「何らかの疾病や障害を抱えた人は受難者であり、医療や介護保険の恩恵を受けても決して受益者ではない、この受難者に対し、居住費と食費の負担を強いることは、社会保障制度本来の姿として不適切である」として主張してきたにも拘わらず、利用者への負担は増えていくばかりである。
 来年4月には、診療報酬と介護報酬の同時改定が控えており、現在、改定内容について厚生労働省を始め、様々なところで議論が始まっている。今回のレポートでは現段階での改正内容の方向性などについてまとめてみた。



介護保険

  ★介護報酬改定の方向性

  厚生労働省は9月5日、社会保障審議会介護給付部会にて来年4月の介護報酬改訂の基本的考えと改定審議案を示している。
スケジュール案
検討内容
17
9月〜10月中旬 新規サービス等
10月中旬 報酬・基準に関する基本的考え方の整理@
10月下旬〜12月上旬 既存サービス等
12月上旬 報酬・基準に関する基本的考え方の整理A
12月中旬 報酬・基準に関する基本的考え方取りまとめ
12月下旬 平成18年度政府予算編成
18
1月中下旬 諮問・答申
4月 改定施行


1.制度改正に伴う介護報酬の見直し

  (1) 介護予防サービス(新予防給付)に関する報酬・基準の策定
    軽度者の状態像の特性を踏まえ、自立支援の観点に立った効果的・効率的なサービス提供体制を構築する観点から検討。

  (2) 地域密着型サービスに関する報酬・基準の策定
    小規模多機能型サービスや夜間対応型訪問介護などの新たなサービスに関する報酬・基準の策定、認知症高齢者グループホームなど、今回の制度改正で地域密着型サービスとして位置付けられたサービスに関する報酬・基準の見直しについて検討。

  (3) ケアマネジメントに関する報酬・基準の策定
    要支援者について地域包括支援センターにおいて行われる「介護予防マネジメント」について、自立支援の観点をより一層徹底させる観点から検討。
また、要介護者に対するケアマネジメントについては、在宅と施設、医療と介護などの連携を重視しつつ、「ケアの継続性」を確保する観点から現行の報酬・基準を見直す。

2.既存サービスの報酬・基準の見直し

  (1) 効率的かつ適正なサービス提供
    現行の各サービスについて、効率化・適正化の観点から見直し。
現行の基準などもできる限り規制緩和を進める。

  (2) サービスの質の向上と専門性の確保
    各サービスの報酬・基準について、サービスの質、プロセス、機能などに応じた評価の視点を積極的に取り入れ。
利用者の視点に立ったサービス情報の提供を進める。

  (3) 利用者の特性に応じたサービスの評価
  在宅中重度者への対応、医療との連携)
在宅での生活の継続性を確保する観点から、医療との連携も含め、在宅の中重度者への支援を強化。
施設や居宅系サービスの利用者の重度化の傾向を踏まえ、ターミナル対応など医療との連携を強化。
  認知症ケアの充実)
増加する認知症高齢者に対応したサービス体系を確立する為、地域密着型サービスの創設を始め、既存サービスにおいても認知症ケアに対応する観点から、利用者の個性と生活を尊重した「個別ケア」を重視。

医療保険

  ★医療制度改革・診療報酬改定の方向性

    1.長期入院者の食費・居住費負担

    厚生労働省は療養病床に長期入院している人の食費や居住費を医療保険の給付対象外とし、患者の自己負担とする方針を固めている。
来年の通常国会に提出予定の医療制度改革関連法案に盛り込み、早ければ来年実施を目指す。

    2.高齢者医療制度

    厚生労働省は医療制度改革にて創設が検討されている75歳以上の後期高齢者を対象とした新医療保険制度で、運営主体を市町村とする方向で政府・与党内の調整に入っている。
赤字問題を抱える国民健康保険を運営している市町村側の反対を踏まえ、再編・統合による財政基盤の強化を促し、国と都道府県、市町村で費用を分担する財政支援制度の整備も検討していく。

    厚生労働省は高齢者の医療費抑制を目的として一定以上の所得がある70歳以上の高齢者について、現行2割の自己負担を3割負担に引き上げる方針。

    3.薬価制度改革

    厚生労働省は薬価制度の改正に着手。薬剤比率引き下げを目的として「後発医薬品」の普及、「外国平均価格調整」の見直しなど。市場薬価調査を現行の2年に1回から年間2回程度に増やし、公定価格に市場価格を反映しやすくする。

    4.高額療養費の見直し

    現行の高額療養費制度は、月の医療費が基準額を超えると、患者は負担上限額に加えて超過分の医療費の1%を負担している。改定案では負担上限額や定率負担の引き上げを検討。

    5.「総額管理」導入の浮上

    財務相は衆議院選挙前に閣議了承した概算要求基準を超えて医療費の抑制に踏み込む意向を示している。経済成長率に連動させて医療費の伸び率に一定の上限を設ける「総額管理」の導入論が浮上する可能性がある。

    6.診療報酬2〜5%引き下げ?

    政府は首相の意向により、診療報酬全体を引き下げる方針。
首相が近く、経済財政諮問会議にて関係閣僚に指示、全体の引き下げ幅を2〜5%とする方向。

    7.診療報酬改訂の方向性

    厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会に診療報酬改訂の検討課題として次の項目を提示するとみられる。

      @医療技術の適正評価
        手術の症例数と診療実績が相関しないとの調査を基に適切な評価。
        生活習慣病の重症化予防の観点から、入院早期から患者の栄養管理を行うチーム医療に対する評価。

      A医療機関のコストなどの適切な反映
        入院時の食費、医療安全、IT化のコストの実態を踏まえた検討。
        急性期医療 ・・・ DPC適用拡大を通じた効率化。
        慢性期医療 ・・・ 患者の状態像に応じた評価、介護保険との役割分担。
        在宅医療 ・・・ 高齢者が住み慣れた地域で療養生活を送れるよう他職種と連携した体制づくり。
医師や看護師などの医療関係者とケアマネージャーなど介護スタッフが連携し「在宅医療チーム」の体制を構築する方針。診療報酬加算として「地域連携パス加算」(仮称)を盛り込む考え。
      B患者の視点の重視
      Cその他

    病院と診療所の医療機能分化
・・・ 初診料・再診料が病院より診療所の方が高い現状が、診療所の外来機能を推進する効果が期待できないとの視点に基づき検討。

 

<医療情報室の目>
★衆院選挙の結果と影響
 先の衆議院選挙では歴史的な自民党の圧勝に終わり、議席数は自民・公明併せて327議席に上った。第3次小泉政権では早速郵政民営化の成立に取りかかるようであるが、その後は社会保障制度を始めとした従来の改革路線をより一層強固に進めていくことが予想される。
 しかし、今回の選挙では、自民の全国の選挙区での得票数は民主党の1.3倍に過ぎなかったにも拘わらず、議席数で2.6倍にもなっていることは、小選挙区制による制度上の結果でもあり、国民の民意がそのまま白紙委任状と化して反映されていると捉えるのは早計である。
 政権発足当初から経済財政諮問会議などの場で主張された財政的見地に立った改革路線がより一層加速され、医療分野においてもそのしわ寄せは国民並びに医療機関へ益々の負担増となってくることが予想される。
 異論を認めない小泉首相の今回の解散・総選挙の手法に違和感を感じるが、日本医師会を始め我々医師会としては医療分野の代表としての意見を引き続き訴えていく必要がある。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


  医療情報室レボートに戻ります。

  福岡市医師会Topページに戻ります。