医療情報室レポート
 

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2004年 8月27日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:有床診療所の評価

 有床診療所はベッド数が19床以下で、入院と外来の両方の機能をもつ小規模医療機関。明治以降の医療体制の中で、大規模病院では賄えない部分を補う形でその役割を果たしてきた日本独自のシステムである。
 都市圏では馴染みが薄いが、地方圏では分娩から救急医療、在宅医療に至るまで対応する地域に密着した医療機関として必要不可欠と言える存在である。
 しかし、近年の病院・専門医志向や医療機器の高額化、核家族化による家族構成の変化、更に「病院は入院機能、診療所は外来機能を重視する」という国の方針等により、有床診療所は年々減少し、その在り方についても変化を余儀なくされつつある。
 今回のレポートでは有床診療所の変遷や現在抱える問題などについてまとめてみた。


有床診療所の現状
 
★有床診療所の始まり
 
有床診療所は昭和23年の医療法の制定により、20床以上を病院、19床以下を診療所と規定したことに始まる。


 
★有床診療所の減少
 
有床診療所は、行政の方針や診療報酬の評価の低さ、患者の病院志向等により、経営は厳しく、廃院や無床化が進んでいる。


尚、厚生労働省発表の最新の医療施設動態調査によれば、平成16年4月末の有床診療所数は15,001施設。


有床診療所が抱える問題

 ★医療法第13条問題

 
「診療所の管理者は、治療上やむを得ない事情がある場合を除いては、同一の患者を48時間を越えて入院させることのないように努めなければならない。ただし、療養病床に入院している患者については、この限りでない。」

 
昭和23年にGHQ指導の元に制定された医療法第13条は原則48時間以上入院させてはならないという内容だが、48時間以上の入院に対する診療報酬点数が設定されており、また、48時間以内の退院は少ないのが実状であることからも本条は形骸化している。

 ★入院基本料の低さ

 
一般病院との入院基本料の格差は、有床診療所の減少の要因となっており、関係者からは是正の声が上がっている。
 
有床診療所では急性期から慢性期までの幅広い医療に対応してきているが、入院料は一番高い区分でも1日4,890円で、一般病院の最も低い入院料の6割程度にすぎない。

最近の動向

 ★医療法第13条問題への取り組み

 
医療法第13条問題は、全国有床診療所連絡協議会が昭和63年の創立以来取り組んできた問題で、日医へ問題是正の要望を続けてきた。
その結果、日医は厚労省との折衝を行い、今年2月に『当面の問題として第13条の誤った解釈による行政指導を今後受けないために、当該診療所の医師が入院の患者に適切な医療を提供するという観点から病状などを十分に検討した結果、引き続き治療を受けることが適切であると判断した場合は第13条の「やむを得ない事情がある場合」に該当する』という主旨の疑義解釈が厚労省より発せられることになった。

 ★医療従事者配置加算

 
本年4月の診療報酬改定では、有床診療所の入院基本料T群1のみ「医療従事者配置加算(患者1人当1日400円)」が新設された。
有床診療所が少しでも報われるようにとの措置だが、「医師2人以上」の要件をクリアできるのは全有床診の3割弱。


実態調査

 ★厳しくなる経営状況

 
全国有床診療所連絡協議会(内藤哲夫会長)が8月10日迄に約4,500の診療所を対象に実施したアンケート調査結果によれば、回答した約2,000施設のうち、74.1%が最近1年の経営状況が悪化していると回答。良くなっていると回答したのは僅か2.5%であった。

 ★患者の評価

 
日医総研、熊本県医師会、同県有床診療所連絡協議会は、昨年、有床診療所の実態調査を行っている。
熊本県内の有床診療所202施設とそこの外来に通う患者(1,893人)などが対象。


 
 
自治体の休日・夜間の当番医制には83.2%の有床診療所が参加。
学校医をしている有床診療所は84.5%。
介護認定審査会には1施設年14.7時間を割いている。

 
 
   日医総研「有床診療所の実態調査
            −将来戦略に向けての第一ステップ−」より

 

<医療情報室の目>
  ★有床診療所の行方
 有床診療所は、病院が少ない地方を始めとして、それぞれの地域に密着した医療提供を行ってきた。有床診療所の入院基本料は、病院の入院基本料より低く設定されていることから、患者にとっては自己負担が低く済むメリットがある。昨今は、年金制度改革を始めとした社会保障制度の行方への関心が向けられているが、将来の医療環境の中で、今後も有床診療所が果たしていける役割は大きいのではないかと考える。
 しかしながら、国の低医療費政策によって有床診療所の入院基本料等が低く設定されており、医業経営に与える影響が大きく、このままいけば有床診療所が減少し続け、地域医療の崩壊に繋がる懸念がある。
 また、近年の医療制度改革により影響を受けているのは有床診療所も例外ではない。前述の日医総研の調査によれば、平成14年のマイナス改訂の影響もあり、経常利益は法人立が対前年比で26.2%減、個人も13.1%減っており、入院基本料の病院格差是正が必要である。
 本年8月1日に開催された全国有床診療所連絡協議会で、厚労省の岡島審議官は、有床診療所について、今後の医療提供体制での位置付けと医療法上の取り扱いを含めた幅広い議論が必要との認識を示している。今後、医師会としては有床診療所の減少を抑制するよう活動を展開する必要がある。
 日本独自に発展してきた有床診療所の地域医療における役割は大きいので、地域特性を十分に尊重してその存在意義が考慮されるべきである。そして、今後も地域に貢献できる入院施設として安定した経営や安全・安心な医療が提供出来るよう更なる検討が必要である。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 立石 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 津 田 泰 夫(広報担当)・入 江 尚(情報担当)・大 木 實(渉外担当)・原 村 耕 治(地域ケア担当)


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